アセトアミノフェンは解熱鎮痛薬としてNSAIDsと並びよく使われる薬剤です。
高用量では肝毒性の懸念もありますが、NSAIDsと違い腎障害や胃粘膜障害の心配がいらないため、非常に使いやすいです。
ところで、アセトアミノフェンに血圧を変動させる作用があることをご存知でしょうか?
静注薬(アセリオⓇ)で血圧低下をきたすことは経験的にご存知の先生が多いと思います。
反対に血圧上昇の作用もあるらしく、わたしは最近になって初めて知りました。
今回はアセトアミノフェンの血圧に対する影響についてまとめました。
アセトアミノフェンと血圧低下の関係は?
Intravenous Acetaminophen-Induced Hypotension: A Review of the Current Literature
Erin N Maxwell, Brittany Johnson, Joseph Cammilleri et al.
Ann Pharmacother. 2019 Oct;53(10):1033-1041. doi: 10.1177/1060028019849716.
アセトアミノフェン静注と血圧低下の関係を評価した研究のレビュー
19の研究(RCT 5、前向き観察研究 6、後ろ向き観察研究 8)を検討
10-60%の症例で血圧低下がみられた
数分以内に血圧が低下し始め、15-30分で最も低下した
10-30%の症例で血圧低下に対する対応を要した
経口 1000mgと静注 1000mgを比較したRCTでは、血圧低下エピソードの75%(12/16)が静注群であった
Mechanism of paracetamol-induced hypotension in critically ill patients: a prospective observational cross-over study
Adéla Krajčová, Vojtěch Matoušek, František Duška et al.
Aust Crit Care. 2013 Aug;26(3):136-41. doi: 10.1016/j.aucc.2012.02.002.
ICU患者6例で計48回のアセトアミノフェン 1g静注後の血行動態をモニタリング
46%(22/48回)で15%以上の平均動脈圧低下があった
心拍出と全身血管抵抗が低下する傾向がみられた
Acetaminophen (Paracetamol) Metabolites Induce Vasodilation and Hypotension by Activating Kv7 Potassium Channels Directly and Indirectly
Jennifer van der Horst, Rian W Manville, Katie Hayes et al.
Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2020 May;40(5):1207-1219. doi: 10.1161/ATVBAHA.120.313997.
アセトアミノフェンの代謝産物であるN-acetyl-pbenzoquinone imine (NAPQI)は電位依存性KチャネルのKv7の活動を促進する
Kv7は動脈トーンの制御に重要と考えられている
ラットを用いた実験
アセトアミノフェンの静注で血圧低下がみられたが、Kv7の阻害で緩和された
NAPQIにより腸管膜動脈の拡張がみられた
NAPQIは血管周囲神経からのカルシトニン遺伝子関連ペプチドの放出を刺激し、cAMP依存性にKv7を活性化した
内服薬で血圧が低下する報告もありましたが、静注薬での報告が多いようです。
実際、アセリオⓇを投与した後で血圧が低下することはよく経験します。
機序は今のところ代謝産物のNAPQIによる血管拡張と考えられます。
- アセトアミノフェン(特に静注)で血圧低下がみられる
- 代謝産物のNAPQIによる血管拡張作用が考えられる
アセトアミノフェンと血圧上昇の関係は?
Acetaminophen increases blood pressure in patients with coronary artery disease
Isabella Sudano, Andreas J Flammer, Daniel Périat et al.
Circulation. 2010 Nov 2;122(18):1789-96. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.110.956490.
冠動脈疾患患者33例を対象としたクロスオーバー試験
2週間のアセトアミノフェン(Na非含有製剤) 1g 3回内服の血圧に対する影響を検討
アセトアミノフェンの内服はプラセボと比較して有意な血圧上昇をきたした
収縮期:122.4±11.9mmHg→125.3±12.0mmHg (P=0.02)
拡張期:73.2±6.9mmHg→75.4±7.9mmHg (P=0.02)
電解質(Na、K、Cl)やレニン・アルドステロンの有意な変動はなかった
Regular Acetaminophen Use and Blood Pressure in People With Hypertension: The PATH-BP Trial
Iain M MacIntyre, Emma J Turtle, Tariq E Farrah et al.
Circulation. 2022 Feb 8;145(6):416-423. doi: 10.1161/CIRCULATIONAHA.121.056015.
高血圧症患者110例を対象としたクロスオーバー試験
2週間のアセトアミノフェン(Na非含有製剤) 1g 4回内服の血圧に対する影響を検討
アセトアミノフェンの内服はプラセボと比較して有意な血圧上昇をきたした
収縮期:132.8±10.5mmHg→136.5±10.1mmHg vs 133.9±10.3mmHg→132.5±9.9mmHg (P<0.0001)
拡張期:81.2±8.0mmHg→82.1±7.8mmHg vs 81.7±7.9mmHg→80.9±7.8mmHg (P=0.005)
電解質(Na、K、Cl)の有意な変動はなかった
Acetaminophen Increases Aldosterone Secretion While Suppressing Cortisol and Androgens: A Possible Link to Increased Risk of Hypertension
Agneta Oskarsson, Erik Ullerås, Åsa Ohlsson Andersson et al.
Am J Hypertens. 2016 Oct;29(10):1158-64. doi: 10.1093/ajh/hpw055.
アセトアミノフェンの副腎皮質ホルモンへの影響を検討したin vitroの実験
副腎皮質細胞系列であるH295Rをアセトアミノフェンで処理
ホルモン分泌は17α-水酸化酵素活性低下のパターンを示した
プロゲステロン、アルドステロンの分泌が増加した
17α-ヒドロキシプロゲステロン、コルチゾール、デヒドロエピアンドロステロン、アンドロステンジオンの分泌が低下した
17α-水酸化酵素の遺伝子発現には影響がなかった

※先天的な17α-水酸化酵素の欠損は先天性副腎過形成症の一つで、コルチゾールの合成障害によるACTHの過剰分泌の結果、アルドステロンが過剰産生され高血圧をきたす
アセトアミノフェンは常用で血圧上昇をさせる作用があります。
RCTでは上昇の程度はそれほど大きくありませんが、2週間という期間が影響しているのかもしれません。
疼痛コントロールのために長期間内服する患者さんも多く、長期での研究結果が気になるところです。
アセトアミノフェン内服中に血圧高値がみられた場合は薬剤性を考慮してもよいかもしれませんね。
機序については、以前はNa含有製剤があったためNa負荷が原因と考えられていたようですが、上記のRCTではNa非含有製剤が使用されており、アセトアミノフェン自体の影響が考えられます。
in vitroの実験でアルドステロンの分泌増加の可能性が示唆されましたが、RCTでは電解質などの変動はなく、現時点では機序ははっきりしていないようです。
- アセトアミノフェンの常用で血圧上昇がみられる
- 機序ははっきりしていない
まとめ
アセトアミノフェンの血圧に対する影響についてまとめました。
静注薬による血圧低下は臨床的に問題になることもあり注意が必要です。
血圧上昇については機序や臨床的な意義について今後の研究が待たれます。
ありふれた薬剤でも意外な落とし穴が隠れている場合もありますよね。