Endocrinology

ステロイドによる副腎不全のリスクや頻度は?どう予防する?

Answer

ステロイドを使用している患者さんや、以前使用していた患者さんで倦怠感や低血圧がある場合、ステロイドによる副腎不全が鑑別に挙がります。

慢性的な症状だけでなく、副腎クリーゼに陥った場合は命に係わる重篤な合併症です。

ステロイドによる副腎不全のリスクや発症頻度、予防についてまとめました。

機序

An Approach to Minimising Risk of Adrenal Insufficiency When Discontinuing Oral Glucocorticoids
Mathew N Nicholas, Stephanie K Li, Marlene Dytoc.
J Cutan Med Surg. Mar/Apr 2018;22(2):175-181. doi: 10.1177/1203475417736278.

生理的なコルチゾール産生は健常者で10 mg/日程度=プレドニゾン換算で2.5 mg/日

バイオアベイラビリティや患者ごとの違いを鑑みるとプレドニゾン 5~10 mg/日程度の投与量に相当

糖質コルチコイドは視床下部-下垂体-副腎系を抑制

プレドニゾン換算 5 mg/日未満の投与でもCRH刺激試験後のコルチゾールは低値になりうる
(=生化学的には副腎不全)


Is there a safe and effective way to wean patients off long-term glucocorticoids?
E H Baker.
Br J Clin Pharmacol. 2020 Dec 1. doi: 10.1111/bcp.14679.

ステロイドの減量・中止による症状は、投与量・視床下部-下垂体-副腎系の状態により病態が異なる

 副腎不全
生理的範囲以下のステロイド投与量(プレドニゾン 5~10 mg/日以下)
視床下部-下垂体-副腎系は抑制
副腎クリーゼのリスクあり

ステロイド離脱症候群
生理的範囲を超えたステロイド投与量
視床下部-下垂体-副腎系は正常
副腎クリーゼのリスクなし
高用量ステロイドの作用がなくなることによる精神症状などもきたす


ステロイド投与による視床下部-下垂体-副腎系の抑制により副腎不全が生じます。

ステロイド離脱症候群は、厳密には副腎不全とは異なる病態ですが、似たような症状であり臨床的な区別は困難です。

  • コルチゾールの生理的分泌はプレドニゾン換算 5~10 mg/日
  • ステロイド投与による視床下部-下垂体-副腎系の抑制により副腎不全が生じる

発症頻度・リスク

Adrenal Insufficiency in Corticosteroids Use: Systematic Review and Meta-Analysisdiffusion-weighted imaging
Leonie H A Broersen, Alberto M Pereira, Jens Otto L Jørgensen et al.
J Clin Endocrinol Metab. 2015 Jun;100(6):2171-80. doi: 10.1210/jc.2015-1218.

成人ステロイドユーザーの副腎不全を検討した74文献、3753例のメタアナリシス

症状が報告されていた10研究で、副腎不全症状の訴えがあったのは10/521例
無症状の88例が負荷試験で副腎不全の基準を満たした

負荷試験で証明された副腎不全は、すべての投与経路・投与量・期間でみられた

高用量・長期投与でリスクが高かった

投与経路ごとの副腎不全リスク

投与期間・量ごとの副腎不全リスク

Short term: <1カ月
Medium term: 1カ月~1年
Long term: >1年

Low dose: 推奨量以下
Medium dose: 推奨量
High dose: 推奨量以上


Adrenal insufficiency in prednisolone-treated patients with polymyalgia rheumatica or giant cell arteritis-prevalence and clinical approach
Stina W Borresen, Toke B Thorgrimsen, Bente Jensen et al.
Rheumatology (Oxford). 2020 Oct 1;59(10):2764-2773. doi: 10.1093/rheumatology/keaa011.

47例のPMR/GCA患者でACTH刺激試験を行い、副腎不全の有無を評価
PMR 47例、GCA 1例、合併 9例
治療期間 ≥5.4カ月、現行治療 プレドニゾロン 2.5-10 mg/日

7例(15%)で副腎不全がみられたが、検査時に症状はなかった。
2年間のフォローで、2例は副腎クリーゼで入院を要したが、5例はヒドロコルチゾンのstress doseで副腎クリーゼは起こさなかった


Glucocorticoid induced adrenal insufficiency is common in steroid treated glomerular diseases – proposed strategy for screening and management
Alvin H K Karangizi, May Al-Shaghana, Sarah Logan et al.
BMC Nephrol. 2019 May 6;20(1):154. doi: 10.1186/s12882-019-1354-6.

糸球体疾患患者でステロイド離脱前にACTH刺激試験で評価

46.3%(57/123)で副腎不全がみられた

ACTH刺激前コルチゾール ≥223.5 nmol/L(8.1 µg/dL)をカットオフとすると、特異度 100%で副腎不全を除外

副腎不全の改善には8.7±4.6カ月(平均±SD)かかった


Clinical indicators of adrenal insufficiency following discontinuation of oral glucocorticoid therapy: A Danish population-based self-controlled case series analysis
Kristina Laugesen, Irene Petersen, Henrik Toft Sørensen et al.
PLoS One. 2019 Feb 19;14(2):e0212259. doi: 10.1371/journal.pone.0212259.

患者ごとに投与前をReferenceとして、ステロイド使用前後の副腎不全症状を比較
Reference period: 治療開始3~2カ月前
Risk period 0: 治療開始後~最終投与1か月前
Risk period 1: 最終投与前後1か月
Risk period 2: 最終投与2~3か月目
Risk period 3: 最終投与4~5か月目
Risk period 4: 最終投与6~7か月目

副腎不全症状はステロイド終了直後が最も多かった

低血圧、消化器症状、低血糖のリスクは投与終了7カ月目まで遷延した


投与量や期間、原疾患にもよりますが、ステロイドによる副腎不全はかなりの頻度で起こります。
内科疾患で多い経口投与では15~60%程度でみられるようです。

無症状で、内分泌検査でのみ検出される、いわゆるsubclinical adrenal insufficiencyがほとんどですが、副腎クリーゼのリスクはステロイド投与終了後も数カ月続くと考えられます。

  • ステロイド誘発性副腎不全は数十%でみられる
  • 高用量・長期間でリスクが高い
  • subclinical adrenal insufficiencyが多い
  • 副腎クリーゼのリスクはステロイド投与終了後も数カ月続く

予防

An Approach to Minimising Risk of Adrenal Insufficiency When Discontinuing Oral Glucocorticoids
Mathew N Nicholas, Stephanie K Li, Marlene Dytoc.
J Cutan Med Surg. Mar/Apr 2018;22(2):175-181. doi: 10.1177/1203475417736278.

ステロイド減量の例

隔日投与
抗炎症作用は副腎の抑制よりも長時間続くため、視床下部-下垂体-副腎系の抑制を減らすのに隔日投与が有効と言われている

隔日投与への移行例
  1. 1日目の量はそのままで、2日目の量を10 mgまでは1-2週ごとに5 mg、10 mgから1-2週ごとに2.5 mg減量
  2. 1日目の量を2-2.5倍にし、2日目を0 mgにする
  3. 1日目の量を5 mgずつ増量し、、2日目の量を5 mgずつ減量

ステロイド漸減のフローチャート


ステロイドを漸減する際、安全を考慮するなら内分泌検査を検討してもいいかもしれません。

また、隔日投与も副腎不全リスクを減らす有効な手段の一つです。

  • ステロイドを漸減する際は隔日投与や内分泌検査を検討する

まとめ

実臨床では無症状であればルーチンの内分泌検査はしていないので、それほど頻度が高くないと感じていましたが、かなりの割合でコルチゾールの分泌低下があるようです。

また、ステロイド終了後もしばらくはリスクがあるので、既往歴や過去の内服薬に注意が必要です。

高齢者や基礎疾患によって感染症リスクの高い場合、副腎クリーゼの重篤さを考えると積極的に内分泌検査を検討してもいいかもしれませんね。

Answer

あわせて読みたい参考書籍

Sponsored Link

コメントを残す

*

CAPTCHA