General Internal Medicine

アナフィラキシーの二峰性反応の機序や予防は?

Answer

アナフィラキシーはしばしば改善してから数時間後に症状が再燃する二峰性の経過を示すことがあります。

毎回起こるわけではなく、軽症からアナフィラキシーショックまできたすなど、重症度にもかなり幅がある病態です。

初回のアナフィラキシーを診療した際に二峰性まで見据えた対応の仕方も施設によって異なると思います。

今回はアナフィラキシーの二峰性反応についてリスクや予防についてまとめました。

二峰性反応の機序やリスクは?

機序

Biphasic anaphylactic reactions
Phil Lieberman.
Ann Allergy Asthma Immunol. 2005 Sep;95(3):217-26; quiz 226, 258. doi: 10.1016/S1081-1206(10)61217-3.

二峰性反応についていくつかの説が提唱されているが、経過やその後の研究から十分な説明ができない

一時的に抑制された初期反応が治療不十分なため発症する説

反応部位に2次的に細胞が浸潤する説
組織の評価では気道や皮膚の二峰性反応でみられる変化はみられなかった
アナフィラキシー後に浸潤する細胞は好酸球のみで、細胞浸潤がない場合もあった

経口摂取した抗原が持続的に吸収される説
静脈投与された抗原によっても生じる

初期反応後に産生・放出されたメディエーターによる説
マウスモデルで、遅れて産生された血小板活性化因子が後期反応に関与していた
マウスモデルで、経口抗原曝露後に腸管の肥満細胞で二峰性の脱顆粒反応がみられた


二峰性反応の機序についてはまだ不明な部分が大きく、いくつかの仮説が挙げられるにとどまっています。

リスク

Time of Onset and Predictors of Biphasic Anaphylactic Reactions: A Systematic Review and Meta-analysis
Sangil Lee, M Fernanda Bellolio, Erik P Hess et al.
J Allergy Clin Immunol Pract. 2015 May-Jun;3(3):408-16.e1-2. doi: 10.1016/j.jaip.2014.12.010.

二峰性反応に関するMeta-analysis

27の観察研究を組み入れ

二峰性反応は4.6% (95% CI 4.0-5.3)でみられ、発症時間は中央値 11時間 (範囲 0.2-72)

統計学的に有意であったリスク因子
食物抗原 OR 0.62 (95% CI 0.40-0.94)
抗原不明 OR 1.72 (95% CI 1.00-2.95)
血圧低下 OR 2.18 (95% CI 1.14-4.15)


Incidence and timing of biphasic anaphylactic reactions: a retrospective cohort study
Motohiro Ichikawa, Akira Kuriyama, Seigo Urushidani et al.
Acute Med Surg. 2021 Jul 30;8(1):e689. doi: 10.1002/ams2.689.

国内の後ろ向き観察研究

二峰性反応は8.9% (18/202)でみられた

初期反応改善からの時間
0-12時間:77.8%
12-24時間:11.1%
24-48時間:5.6%
>48時間:5.6%

抗原は非二峰性反応と有意差はなかった (P = 0.86)
食物:38.9% vs 41.3%
薬剤:32.3% vs 27.7%
虫:0.0% vs 6.5%
動物:0.0% vs 1.6%
不明:27.8% vs 22.8%


二峰性反応はアナフィラキシーの数パーセントでみられます。

特にリスクの高い抗原は明らかになっておらず、抗原が不明の場合に頻度が高いようです。

血圧低下がリスク因子になっており、アナフィラキシーショックの場合は特に注意が必要と思います。

  • 二峰性反応はアナフィラキシーの数パーセントでみられる
  • 原因抗原不明、血圧低下がリスク因子

二峰性反応の予防は?

エピネフリン

First-aid treatment of anaphylaxis to food: focus on epinephrine
F Estelle R Simons.
J Allergy Clin Immunol. 2004 May;113(5):837-44. doi: 10.1016/j.jaci.2004.01.769.

エピネフリンの作用機序

アナフィラキシーではα1アドレナリン作用(血管収縮、末梢血管抵抗上昇、粘膜浮腫低下)、β2アドレナリン作用(気管支拡張、肥満細胞・好塩基球からのメディエーター放出低下)が重要


Immunological release of histamine and slow reacting substance of anaphylaxis from human lung
M Kaliner, R P Orange, K F Austen.
J Exp Med. 1972 Sep 1;136(3):556-67. doi: 10.1084/jem.136.3.556.

ヒト肺組織を用いた研究

ノルエピネフリンでcAMPが増加し、ヒスタミンが低下した

この作用はプロプラノロールで減弱した


Anaphylaxis and biphasic phase in Thailand: 4-year observation
Ratchaya Lertnawapan, Wirach Maek-a-nantawat.
Allergol Int. 2011 Sep;60(3):283-9. doi: 10.2332/allergolint.10-OA-0256.

アナフィラキシー・二峰性反応に関する後ろ向き観察研究

アナフィラキシーの6.25% (13/208)で二峰性反応がみられた

初発時のエピネフリンは二峰性反応群で92.3% (12/13)、非二峰性反応群で98.5% (192/195)で使用された

二峰性反応を起こした症例の方が発症からエピネフリン使用までの時間が長かった
中央値 240分 (IQR 122.5-380) vs 70分 (IQR 40-135), p = 0.002


Further Evaluation of Factors That May Predict Biphasic Reactions in Emergency Department Anaphylaxis Patients
Sangil Lee, Alexa Peterson, Christine M Lohse et al.
J Allergy Clin Immunol Pract. 2017 Sep-Oct;5(5):1295-1301. doi: 10.1016/j.jaip.2017.07.020.

二峰性反応の予測因子を検討した後ろ向き観察研究

多変量解析で有意に関連していた因子
アナフィラキシーの既往 (OR, 2.74; 95% CI, 1.33-5.63)
原因不明 (OR, 2.40; 95% CI, 1.14-4.99)
エピネフリン初回投与が発症から>60分 (OR, 2.29; 95% CI, 1.09-4.79)


Biphasic Reactions in Emergency Department Anaphylaxis Patients: A Prospective Cohort Study
Xiaowei Liu, Sangil Lee, Christine M Lohse et al.
J Allergy Clin Immunol Pract. 2020 Apr;8(4):1230-1238. doi: 10.1016/j.jaip.2019.10.027.

アナフィラキシー・二峰性反応に関する後ろ向き観察研究

アナフィラキシーの7.2% (31/430)で二峰性反応がみられた

二峰性反応を起こした症例の方が発症からエピネフリン使用までの時間が長かった
中央値 78 min vs 45 min, P = 0.005

発症から30分以降のエピネフリン投与が二峰性反応と関連していた (OR 3.39; 95% CI 1.13-10.18)


エピネフリンは血管収縮や気管支拡張による症状緩和だけでなく、β2アドレナリン作用によるメディエーターの抑制効果もあります。

アナフィラキシー発症から時間が経過してからのエピネフリン投与で二峰性反応が多いという報告もあり、発症から時間が経ってしまい既にメディエーターが多量に放出された後では、エピネフリンによるメディエーター抑制効果ができず、二峰性反応が起こりやすくなるのではないかと思います。

反対に、発症早期であればアナフィラキシー症状が軽微でもメディエーター抑制効果を期待したエピネフリン投与を検討すべきだと考えます。

ステロイド

Molecular mechanisms of glucocorticoid action in mast cells
Emmanuel Oppong, Nesrin Flink, Andrew C B Cato.
Mol Cell Endocrinol. 2013 Nov 5;380(1-2):119-26. doi: 10.1016/j.mce.2013.05.014.

肥満細胞活性化の経路

肥満細胞に対するステロイドの作用


Corticosteroids in management of anaphylaxis; a systematic review of evidence
C K Liyanage, P Galappatthy, S L Seneviratne.
Eur Ann Allergy Clin Immunol. 2017 Sep;49(5):196-207. doi: 10.23822/EurAnnACI.1764-1489.15.

アナフィラキシーに対するステロイドに関するレビュー

基礎研究
ステロイド投与の4-24時間後に遺伝子発現の変化がみられた
5-30分で遺伝子によらないシグナル活性の阻害がみられた

臨床研究
1つの研究で二峰性反応を起こした症例ではステロイド使用が少ない傾向にあったが、別の3研究ではステロイド使用による有意な差はみられなかった


Glucocorticoids and Rates of Biphasic Reactions in Patients with Adrenaline-Treated Anaphylaxis: A Propensity Score Matching Analysis
Shimpei Nagata, Hiroyuki Ohbe, Taisuke Jo et al.
Int Arch Allergy Immunol. 2022;183(9):939-945. doi: 10.1159/000524612.

アドレナリンが投与されたアナフィラキシー症例で、入院時のステロイド投与の効果を検証した研究

傾向スコアマッチング解析で、ステロイド投与の有無で二峰性反応の発症に差はなかった
ステロイド群 10.7% vs 非ステロイド群 10.5%; OR 1.03; 95% CI 0.85-1.24; p = 0.77


ステロイドは肥満細胞に対する作用もあり、機序からすれば二峰性反応にも効果がありそうですが、過去の研究では有効ではなかったようです。

ステロイドは作用発現まで時間がかかるため、やはり二峰性反応の主役はアナフィラキシーの当初に放出されるメディエーターなのかもしれません。

経過観察時間

Duration of Observation for Detecting a Biphasic Reaction in Anaphylaxis: A Meta-Analysis
Tae-Hyung Kim, Soon Ho Yoon, Hyunsook Hong et al.
Int Arch Allergy Immunol. 2019;179(1):31-36. doi: 10.1159/000496092.

二峰性反応発症までの時間に関するMeta-analysis

8-12時間以上の観察でその後の発症についてNPV>98%


二峰性反応は72時間後の発症も報告されていますが、稀な例を除けば半日程度の観察で十分なようです。

これを踏まえて経過観察の時間や帰宅時の説明を検討しましょう。

  • アナフィラキシー発症早期のエピネフリン投与はメディエーター抑制効果が期待できる
  • ステロイドは予防に有効でない
  • 8-12時間経過後の発症は2%未満

まとめ

アナフィラキシーの二峰性反応についてまとめました。

早期のエピネフリン投与と不要なステロイド投与を避けること、半日程度は注意して経過観察することが重要です。

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