Hematology

急性期の貧血の特徴や病態は?

Answer

急性期の患者さんでは、原因疾患に関わらず貧血が進むことは多いですよね。

たいていは原疾患の治療、全身状態の安定と共に改善することが多いので、それほど問題にならないこともありますが、出血や溶血など重篤な状態とも鑑別が必要になることもしばしばあります。

今回はそんな急性期にみられる貧血の特徴や病態についてまとめました。

急性期の貧血の頻度や経過は?

まずは、急性期の貧血の特徴として、貧血がみられる頻度や経過についてまとめました。


Anaemia during critical illness
T S Walsh, Ezz-El-Din Saleh.
Br J Anaesth. 2006 Sep;97(3):278-91. doi: 10.1093/bja/ael189.

ICU入室時の平均Hb 10.5-11.3 g/dL
60-70%が < 12 g/dL
20-30%が < 9 g/dL

ICU入院中に40-50%で < 9 g/dLに低下


Time course of hemoglobin concentrations in nonbleeding intensive care unit patients
Ba Vinh Nguyen, Daliana Peres Bota, Christian Mélot et al.
Crit Care Med. 2003 Feb;31(2):406-10. doi: 10.1097/01.CCM.0000048623.00778.3F.

ICUに入院した血液疾患の既往や出血のない92例

ICU入院中に平均で0.52 ± 0.69 g/dL/dayの低下

3日以上入院した症例(33例)でははじめの3日間で低下が大きかった
0.66 + 0.84 g/dL/day vs. 0.12 ± 0.29 g/dL/day; p < .01

体液バランスとの有意な関連はみられなかった

採血量は平均40.3 ± 15.4 mL/dayであった


Prevalence of and Recovery From Anemia Following Hospitalization for Critical Illness Among Adults
Matthew A Warner, Andrew C Hanson, Ryan D Frank et al.
JAMA Netw Open. 2020 Sep 1;3(9):e2017843. doi: 10.1001/jamanetworkopen.2020.17843.

ICUに入院した症例の入院前~退院後のHbを評価

入院前~退院時のHb中央値(IQR)
入院前 13.1 g/dL (11.6-14.4)
入院時 12.5 g/dL (10.8-14.0)
退院時 11.0 g/dL (9.5-12.6)

退院後12か月での貧血改善率
軽度 (Hb ≥10.0 g/dL) 73%(95%CI, 69%-76%)
中等度 (Hb ≥8.0, <10.0 g/dL) 62%(95%CI, 57%-68%)
高度 (Hb <8.0 g/dL) 59%(95%CI, 35%-82%)


ここで紹介したのは全てICU症例に関する研究ですが、多くの症例で貧血が進行するようです。

退院時に貧血が軽度であれば改善が多いですが、重度の場合は時間経過で改善しきらないことが多く、急性期の影響以外の鑑別も考える必要があります。

  • 急性期(ICU症例)では高頻度で貧血がみられる
  • 軽度であれば退院後に改善がみられることが多い

急性期の貧血の病態は?

急性期にみられる貧血には実は多くの要因、病態が関わっています。

ここでは希釈、採血、赤血球破壊、鉄代謝異常、栄養欠乏、EPO産生低下、成熟障害にわけて紹介します。

ちなみによく言われる炎症はこの中で主に鉄代謝異常、成熟障害が関与しています。

希釈

Acute hemodilution: its effect of hemodynamics and oxygen transport in anesthetized man
J Laks, R N Pilon, W P Klovekorn et al.
Ann Surg. 1974 Jul;180(1):103-9. doi: 10.1097/00000658-197407000-00016.

股関節人工骨頭置換術を受ける患者で血液希釈の血行動態への影響を調べた研究

図のⅠ/Ⅱのタイミングで、血液量の25%を20分かけて瀉血しながら同量のヒト血漿製剤と乳酸加リンゲル液を輸液

血液希釈により心拍出量の増加、ヘマトクリットの低下がみられた


Effect of crystalloid infusion on hematocrit and intravascular volume in healthy, nonbleeding subjects
R H Greenfield, H A Bessen, P L Henneman et al.
Ann Emerg Med. 1989 Jan;18(1):51-5. doi: 10.1016/s0196-0644(89)80312-9.

健常ボランティアで輸液によるヘマトクリットの変化を検討

生理食塩水を10, 20, 30 mL/kgのボーラス投与後、1.5 mL/kg/hrで持続投与

ボーラス投与直後にそれぞれ4.5±0.6%, 6.1±0.4%, 6.3±0.6%のヘマトクリットの低下がみられた

維持輸液開始から20分でそれぞれ1.5±0.8%, 2.4±0.4%, 2.3±0.7%回復した

輸液量の約60%が20分で血管外に拡散した計算


Hemoglobin concentration, total hemoglobin mass and plasma volume in patients: implications for anemia
James M Otto, James O M Plumb, Eleri Clissold et al.
Haematologica. 2017 Sep;102(9):1477-1485. doi: 10.3324/haematol.2017.169680.

血漿量の変化が予想される症例(IBD、被手術例、心不全、肝疾患)でHb、血漿量(PV)を評価

Hb濃度はPV増加の影響を受けた
※PVの変化率:Contraction <-8%、Normal ±8%、Mild to moderate 8-25%、Severe >25%


Effects of rapid fluid infusion on hemoglobin concentration: a systematic review and meta-analysis
Armin A Quispe-Cornejo, Ana L Alves da Cunha, Hassane Njimi et al.
Crit Care. 2022 Oct 23;26(1):324. doi: 10.1186/s13054-022-04191-x.

急性期の輸液によるHb低下に関するMeta-analysis

非急性期疾患では1000mLまでの輸液では輸液量とHbの低下が関連していた

急性期疾患では輸液量とHbの低下の関連はみられなかった

膠質液の方が晶質液よりもHbの低下が大きかった
Hb -1.57 g/dL (95% CI -1.74 to -1.40) vs. -1.07 g/dL (95% CI -1.21 to -0.92), p < 0.001


基礎研究では輸液による血液希釈が報告されています。

Meta-analysisでは急性期疾患で輸液による希釈の影響は有意ではないようです。

採血

Avoidable Blood Loss in Critical Care and Patient Blood Management: Scoping Review of Diagnostic Blood Loss
Philipp Helmer, Sebastian Hottenrott, Andreas Steinisch et al.
J Clin Med. 2022 Jan 10;11(2):320. doi: 10.3390/jcm11020320.

ICUでの検査に伴う血液喪失量に関する研究のレビュー

29の観察研究で平均の採血量は9.8 ± 5.5 mL/日であった

5つの介入研究では小児用の採血管で採取量を減少できた


Do blood tests cause anemia in hospitalized patients? The effect of diagnostic phlebotomy on hemoglobin and hematocrit levels
Paaladinesh Thavendiranathan, Akshay Bagai, Albert Ebidia et al.
J Gen Intern Med. 2005 Jun;20(6):520-4. doi: 10.1111/j.1525-1497.2005.0094.x.

採血によるヘモグロビン、ヘマトクリットの低下を評価


Small-Volume Blood Collection Tubes to Reduce Transfusions in Intensive Care: The STRATUS Randomized Clinical Trial
Deborah M Siegal, Emilie P Belley-Côté, Shun Fu Lee et al.
JAMA. 2023 Oct 12:e2320820. doi: 10.1001/jama.2023.20820..

ICUで通常の採血管(4.0-6.0mL)と少量の採血管(1.8-3.5 mL)で輸血量を比較

COVID-19流行のため一部施設で採血管の移行に遅れが生じた

その期間を含まないprimary analysisでは輸血量に有意差はなかった

その期間を含むsecondary analysisでは少量採血管で輸血量が減少した
RR 0.88; absolute decrease 9.84 RBC units/100 patients

ICU退室後のHb、ICU入室前と退室後のHb変化に有意差はなかった


当然ですが採血量が多いと瀉血しているようなものなのでHbは低下します。

急性期では特に採血頻度や検査項目が多いため採血量が多くなりがちです。

採血量が輸血量にも影響するため、必要最低限の採血を心がけましょう。

破壊(溶血・アポトーシス)

Erythrocyte degradation, metabolism, secretion, and communication with immune cells in the blood during sepsis: A review
Chih-Yu Chan, Ching-Feng Cheng, Hao-Ai Shui et al.
Tzu Chi Med J. 2021 Oct 5;34(2):125-133. doi: 10.4103/tcmj.tcmj_58_21.

敗血症における赤血球の動態に関するレビュー

病原体に対する反応で内皮細胞やマクロファージが産生するROSやサイトカインによりeryptosis(赤血球のアポトーシス)が生じる

補体の活性化、血流の低下、溶血性の病原体、毒素、LPS、低血糖、DICなどの機序で溶血が起こる

エネルギーの枯渇、高浸透圧、ROSにより赤血球の酸化ストレスが増加し細胞質Ca2+の活性により膜変化をきたしeryptosisが生じる


原疾患に関わるところですが、様々な要因で溶血・アポトーシスが生じます。

鉄代謝異常

Anemia of Inflammation
Tomas Ganz.
N Engl J Med. 2019 Sep 19;381(12):1148-1157. doi: 10.1056/NEJMra1804281.

IL-6の刺激により肝臓でヘプシジンが産生
細胞から血漿への鉄移行が低下
腸管吸収の減少、脾臓・肝臓のマクロファージからの鉄放出が低下
マクロファージ・肝細胞がフェリチンを分泌
フェリチン・ヘプシジン高値で血清鉄低値
感染や炎症のはじめの数時間で生じる


炎症性の病態ではこれが特に有名です。

栄養欠乏

Nutritional deficiencies and blunted erythropoietin response as causes of the anemia of critical illness
R M Rodriguez, H L Corwin, A Gettinger et al.
J Crit Care. 2001 Mar;16(1):36-41. doi: 10.1053/jcrc.2001.21795.

ICU入院中の貧血患者(Ht <38%)でビタミンB12・葉酸を評価

2% (4/184)でビタミンB12欠乏、2% (4/184)で葉酸欠乏があった


頻度は高くありませんが、栄養障害も忘れないようにしましょう。

EPO産生低下

Proinflammatory cytokines lowering erythropoietin production
W Jelkmann.
J Interferon Cytokine Res. 1998 Aug;18(8):555-9. doi: 10.1089/jir.1998.18.555.

炎症性サイトカイン(IL-1やTNFα)、ROSによりEpo遺伝子の発現が阻害される

相対的EPO低値、IL-1・TNFα高値で低形成性貧血となりやすい疾患

  • 自己免疫疾患
    • 関節リウマチ
    • 炎症性腸疾患
  • 急性・慢性感染症
    • らい病
    • 結核
    • マラリア
    • AIDS
  • 悪性腫瘍
  • 重症外傷
  • 腎疾患
    • 急性糸球体腎炎
    • 急性拒絶反応
    • 慢性腎不全

Erythropoietin response is blunted in critically ill patients
P Rogiers, H Zhang, M Leeman et al.
Intensive Care Med. 1997 Feb;23(2):159-62. doi: 10.1007/s001340050310.

ICU症例でEPO、ヘマトクリットの関連を評価

非敗血症+非急性腎不全症例では対照群に比べてヘマトクリット低下に伴うEPO増加が緩やかだった

敗血症、急性腎不全のある症例ではヘマトクリットとEPOの有意な関連がみられなかった


Blunted erythropoietic response to anemia in multiply traumatized patients
P Hobisch-Hagen, F Wiedermann, A Mayr, D Fries et al.
Crit Care Med. 2001 Apr;29(4):743-7. doi: 10.1097/00003246-200104000-00009.

多発外傷患者でEPO、ヘモグロビンの関連を評価

多発外傷ではヘモグロビン低下に伴うEPOの上昇がみられなかった


炎症やストレスによりEPOの産生が低下することが報告されています。

赤血球成熟障害

Anemia of Inflammation
Tomas Ganz.
N Engl J Med. 2019 Sep 19;381(12):1148-1157. doi: 10.1056/NEJMra1804281.

INF-γの影響で造血が骨髄球系に傾く
TNF-αが赤芽球前駆細胞の増殖を阻害する
血清鉄低下により赤芽球の増殖が阻害される


Erythropoiesis abnormalities contribute to early-onset anemia in patients with septic shock
Yann-Erick Claessens, Michaëla Fontenay, Frédéric Pene et al.
Am J Respir Crit Care Med. 2006 Jul 1;174(1):51-7. doi: 10.1164/rccm.200504-561OC.

敗血症患者で赤芽球系細胞を評価

対照群と比較して赤芽球の形態に違いはなかった

アポトーシスのマーカーが陽性の細胞が多かった (26.1 ± 8.8 vs. 3.1 ± 2.9%, p < 0.05)

患者血清により赤芽球前駆細胞の増加が抑制された

患者血漿ではIL-6TNF-αの上昇がみられた


Bone marrow failure following severe injury in humans
David H Livingston, Devashish Anjaria, Jonathan Wu et al.
Ann Surg. 2003 Nov;238(5):748-53. doi: 10.1097/01.sla.0000094441.38807.09.

重症外傷患者で骨髄を評価

外傷後数日でM/E比の上昇がみられた

赤芽球前駆細胞の骨髄での減少、末梢血での増加がみられた


炎症・ストレスにより、造血・赤血球の成熟にも影響が出るようです。

  • 希釈、採血、赤血球破壊、鉄代謝異常、栄養欠乏、EPO産生低下、成熟障害といった様々な病態が関与する

まとめ

急性期の貧血についてまとめました。

病態は多岐にわたるため、軽度の貧血の場合は原因を特定するのは難しそうです。

軽度の場合は経過フォローで改善が期待できますが、重度の場合は別の病態を考える必要があります。

Answer

あわせて読みたい参考書籍

Sponsored Link

コメントを残す

*

CAPTCHA