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経口第3世代セフェムはなぜ使えないのか?

Answer

第3世代セフェムは悪い意味で話題になることの多い経口抗菌薬です。

多くの感染症医から批判を受け、採用されなくなった病院も多いと思います。

わたし自身、研修医時代の指導医の教えもあり、自分で処方したことはありません。

使用が勧められない大きな理由として“バイオアベイラビリティが低い”ことが挙げられます。

ただ、バイオアベイラビリティの低さばかりが取り上げられて、“バイオアベイラビリティが低い=効果がない”と考えている方も多いようです。

批判を恐れずに言えば、これは実は正確ではないのです。

今回はDU薬(だいたいウ〇コ)として蔑まれる経口第3世代セフェムに関して、なぜ使えないのか、解説していきたいと思います。

第3世代セフェムの薬理学

バイオアベイラビリティ

まずは薬理学的な知識を簡単に説明します。

内服薬に関するバイオアベイラビリティ(生物学的利用能)とは、経口内服した薬剤がどれだけ血中に入るかの指標です。

内服薬は消化管での吸収率や肝臓での代謝(初回通過効果)の影響を受けるため、投与したものがすべて有効な血中濃度として反映されるわけではありません。

一般的には静注で投与した際の血中濃度に対する割合として表現されます。

バイオアベイラビリティ(%)=経口投与AUC/静脈投与AUC × 100


第3世代セフェムと、比較されることの多いペニシリン系・セフェム系抗菌薬のバイオアベイラビリティをお示しします。
(The Sanford Guide to Antimicrobial Therapy 2020)

クラス薬剤バイオアベイラビリティ
ペニシリンアモキシシリン80%
βラクタマーゼ阻害薬クラブラン酸30-98%
第1世代セフェムセファレキシン90%
第2世代セフェムセファクロル93%
第3世代セフェムセフジニル25%
第3世代セフェムセフジトレン・ピボキシル16%
第3世代セフェムセフカペン・ピボキシルNA
第3世代セフェムセフポドキシム・プロキセチル46%

ペニシリン系や第1、第2世代セフェムに比べ、第3世代セフェムは全体的にかなりバイオアベイラビリティが低いです。

セフカペン・ピボキシルに至っては正確なデータがありません。

バイオアベイラビリティが低い=効果が低い?

それでは、バイオアベイラビリティの低い内服薬は効果が低いのでしょうか?

実は、一概にそうとは言えません

よく使われる薬剤の中には表にあるようにバイオアベイラビリティの低いものも存在しますが、実臨床で問題視されることは少ないと思います。
(Basic and Clinical Pharmacology, 11th Edition)

薬剤バイオアベイラビリティ
アスピリン68%
フロセミド61%
ニフェジピン50%

抗菌薬の効果の指標は?

抗菌薬の効果は細菌のMIC(最小発育阻止濃度)と関連して表現されます。

詳しい説明は割愛しますが、抗菌薬の種類により指標が異なります。

第3世代セフェムを含むβラクタム薬は血中濃度がMICより高い時間(Time above MIC)が長いほど効果が期待できるとされています。

Time above MICにはピーク値、半減期が影響します。


ここで、先ほどの経口抗菌薬に関して、Sanfordに記載されている1回量あたりの内服に対する血中濃度を見てみましょう。
(The Sanford Guide to Antimicrobial Therapy 2020)

クラス薬剤最高血漿中濃度 (µg/mL)
[投与量]
ペニシリンアモキシシリン5.5-7.5 [500mg]
βラクタマーゼ阻害薬クラブラン酸2.2 [125mg]
第1世代セフェムセファレキシン18 [500mg]
第2世代セフェムセファクロル13 [500mg]
第3世代セフェムセフジニル1.6 [300mg]
第3世代セフェムセフジトレン・ピボキシル4 [400mg]
第3世代セフェムセフカペン・ピボキシル1.8 [150mg]
第3世代セフェムセフポドキシム・プロキセチル2.8 [200mg]

投与量の違いもありますが、これを見ると第3世代セフェムの血中濃度が低く感じるかもしれません。

抗菌薬の効果は細菌のMICにもよるので、血中濃度が感受性判定となるMICよりも高ければ、その時間は抗菌作用があることになります。

例えば大腸菌では、CLSIで以下のように設定されています。
(CLSI M100-ED28:2018 Performance Standards for Antimicrobial Susceptibility Testing, 28th Edition)

薬剤SR
セファゾリン(第1世代セフェムの代替)≤16≥32
セファクロル≤8≥32
セフジニル≤1≥4
セフポドキシム≤2≥8

すべての薬剤が網羅されているわけではありませんが、バイオアベイラビリティの低い第3世代セフェムでも、投与方法次第で治療に必要な血中濃度が得られます

もちろん、菌種によりMICは異なりますし、MICだけでなくMBC(最小殺菌濃度)も考慮するとどうなるか、組織移行性はどうか、ということまで考えるとキリがありません。

それでも、少なくとも“バイオアベイラビリティが低い=効果がない”は間違った認識だと考えられます。

  • “バイオアベイラビリティが低い=効果がない”は間違い

経口第3世代セフェムはなぜ使えないのか?

それでは、なぜ第3世代セフェムはこれほどまでに使えないと言われているのでしょうか?

これにもバイオアベイラビリティが低いだけではない理由があります。

① 推奨量が保険診療で認められていない

抗菌薬全般で言えることではありますが、経口第3世代セフェムでもSanfordの推奨量と添付文書に記載の量に乖離があります。
(The Sanford Guide to Antimicrobial Therapy 2020)

薬剤添付文書Sanford
セフジニル100mg 3回300mg q12h or 600mg q24h
セフジトレン・ピボキシル100~200mg
3回
400mg bid
セフカペン・ピボキシル100~150mg
3回
NA
セフポドキシム・プロキセチル100~200mg
2回
100~200mg q12h

添付文書よりも多い処方は保険で認められない場合があるので、推奨量を投与できるのはセフポドキシムだけになります。

一応、それぞれの添付文書には

「なお、年齢及び症状に応じて適宜増減する。」

といった記載があるため押し通せないこともないかもしれませんが・・・。

② 必要性に乏しい

そもそも、経口第3世代セフェムが必要な状況はかなり限られていると思います。

まず、感染症を内服薬で治療する条件として、

  • 内服が可能
  • 状態が安定している
  • 高用量が必要ない(髄膜炎や菌血症、感染性心内膜炎でない)

といったものが挙げられます。

この時点で、耐性菌の検出されやすい高齢者や基礎疾患のある患者さんの多くは除外されると思います。


また、経口抗菌薬には上で挙げたようにペニシリン系のAMPC/CVA(いわゆるオグサワ)や第1~2世代セフェムがあります。

さらに、βラクタムよりもバイオアベイラビリティの良い(ほぼ100%)ニューキノロンも選択肢にあります。

内服薬で治療する場面(安定した若年者など)で、ペニシリン系や第1~2世代セフェムよりも第3世代セフェムが優先されるべき状況があるすれば、

  1. アレルギー
  2. ペニシリナーゼ高産生
  3. BLNARのH. influenzae

くらいでしょうか。

1の場合、アンピシリン・セファレキシン・セファクロルは側鎖が共通のため、セフェム系を使うのであれば第3世代ということになるでしょう。
ただし、添付文書では“セフェム系抗菌薬”によるアレルギーがある場合は原則禁忌となっており、別クラスの抗菌薬の方がよいと思います。

1、2の場合は、ペニシリン系、第1~2世代まで耐性化しますが、他クラスでも対応可能です。


結局、たいていの場合第3世代セフェムでないといけない場面がほとんどない、ということになります。

ただ、個人的にはキノロンの温存というメリットはかなり大きいと思うので、それを想定した臨床試験に期待したいところです。

③ 有効というエビデンスが不十分

もともと国内で経口第3世代セフェムが承認された際の研究について、製薬会社主導であったり、そもそも抗菌薬が不要だったかもしれない感染症に対する研究であったりというところが批判を受けているようです。

それでも、経口第3世代セフェムについて有効性を示す報告は多数あります。

比較的新しいものを中心にいくつか紹介します。


Meta-analysis of cephalosporins versus penicillin for treatment of group A streptococcal tonsillopharyngitis in adults
Janet R Casey, Michael E Pichichero.
Clin Infect Dis. 2004 Jun 1;38(11):1526-34. doi: 10.1086/392496.

A群溶連菌性咽頭炎に対する経口のセファロスポリンとペニシリンを比較したMeta-analysis

奏功率はセファロスポリンで有意に高かった
OR 2.29 (95% CI, 1.61–3.28, P < .00001)

この報告は組み入れられた研究の質について批判されることが多く、エビデンスとしては不十分であると言われています。


Comparative study of 5-day cefcapene-pivoxil and 10-day amoxicillin or cefcapene-pivoxil for treatment of group A streptococcal pharyngitis in children
Hiroshi Sakata.
J Infect Chemother. 2008 Jun;14(3):208-12. doi: 10.1007/s10156-008-0597-0.

小児のA群溶連菌性咽頭炎に対するセフカペン 5日間、10日間とアモキシシリン 10日間を比較

3群で奏功率に有意差はなかった
※COIに関する記載なし

小児の咽頭炎については治療期間の短縮というメリットはありそうです。


Efficacy and safety of cefditoren pivoxil for exacerbations of chronic obstructive pulmonary disease: A prospective multicenter interventional study
Taiga Miyazaki, Kiyoyasu Fukushima, Kohji Hashiguchi et al.
J Infect Chemother. 2008 Jun;14(3):208-12. doi: 10.1007/s10156-008-0597-0.

COPD急性増悪に対するセフカペンの効果を検討したsingle arm研究

23患者中15患者(65.2%)で奏功した
※製薬会社の援助あり

外来で対応する場合に、キノロンの温存という点ではメリットがあると思います。
ただし、AMPC/CVAでもいいような気がします。
また、製薬会社の援助がある点、比較研究でない点も気になります。


Efficacy and safety of 3 day versus 7 day cefditoren pivoxil regimens for acute uncomplicated cystitis: multicentre, randomized, open-label trial
Takuya Sadahira, Koichiro Wada, Motoo Araki et al.
J Antimicrob Chemother. 2017 Feb;72(2):529-534. doi: 10.1093/jac/dkw424.

単純性膀胱炎に対するセフジトレン3日間と7日間を比較した研究

臨床的奏功率は90.9%、93.2%、細菌学的奏功率は82.5%、90.2%でそれぞれ有意差はなかった
※直接的な製薬会社の援助はなし

単純性膀胱炎については抗菌薬不要という意見もありますし、第3世代である必要性があまりないように思います。


近年、国内からの報告が散見されますが、どれも積極的に経口第3世代セフェムを使おう、というほどのインパクトはないかな、と思います。

④ 有害事象の懸念

さらなる問題点として、有害事象に対する懸念もあります。

Clostridioides difficile 感染

バイオアベイラビリティが低いことの一番の問題はこれかな、と思います。

吸収率が低いということは、吸収されずに消化管に残る薬剤が多いことになります。

それらにも抗菌活性があるので、腸内細菌叢に影響してClostridioides difficile 感染のリスクにつながると考えられます。


Antibiotic Exposure and Risk for Hospital-Associated Clostridioides difficile Infection
Brandon J Webb, Aruna Subramanian, Bert Lopansri et al.
Antimicrob Agents Chemother. 2020 Mar 24;64(4):e02169-19. doi: 10.1128/AAC.02169-19.

抗菌薬使用60日以内のCDIリスク

ここに挙げられている経口第3世代セフェムはセフジニルだけですが、セファレキシンやキノロン、ST合剤よりもリスクが高いようです。

低カルニチン血症

ピボキシル基をもつ薬剤(セフジトレン・セフカペン)では小児で低カルニチン血症の報告があります。

これについてはPMDAから注意喚起が出ています。


ピボキシル基を有する抗菌薬投与による小児等の重篤な低カルニチン血症と低血糖について
(独)医薬品医療機器総合機構.
PMDAからの医薬品適正使用のお願いNo.8 2012年4月

ピボキシル基を有する抗菌薬は、消化管吸収を促進する目的で、活性成分本体にピバリン酸がエステル結合されている

ピバリン酸はカルニチン抱合をうけピバロイルカルニチンとなり、尿中へ排泄される

この結果、血清カルニチンが低下する

カルニチン欠乏状態だと脂肪酸β酸化ができず、糖新生が行えないため、低血糖を来たす


確固とした臨床的な有用性も示されておらず、バイオアベイラビリティの低さ以上に使わない理由も目立つ薬剤です。

使われないのにもそれなりに理由があることが分かりました。

    経口第3世代セフェムが使えない理由

    • 推奨量が保険診療で認められていない
    • 必要性に乏しい
    • 有効というエビデンスが不十分
    • 有害事象の懸念

まとめ

経口第3世代セフェムについて、できるだけ公平な立場で考えてみました。

これからの研究次第では、特定の状況下で使用が考慮されることもあるかもしれません。

特に、きちんとトレーニングを受けた感染症医がここぞ、という時に使うのであれば、有効な選択肢の一つになりそうな気がします。

ただし、いずれにせよ現時点では有用性に乏しい、というのが結論だと思います。

結果として使わないというプラクティスは変わらなくても、きちんとした理由を理解しておくのは重要ではないかと思いました。

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