Infection

感染性心内膜炎に対する経口抗菌薬の使い方は?

Answer

  • 患者の状態や起因菌の感受性によっては経口抗菌薬への切り替えが推奨されるかもしれない

静注抗菌薬で治療中に経口への切り替えを検討する場面は多いと思いますが、感染性心内膜炎(IE)に関しては静注が基本で、基本的には切り替えが推奨されてきませんでした。

静注抗菌薬から経口抗菌薬への切り替えについてはこちらの記事にまとめてあります。

しかし、2019年に報告されたPOET trialをきっかけに、IEでも経口抗菌薬に切り替えるという流れができつつあります。

IEに対する経口抗菌薬療法に関して、最近のstudyと今後の見通しをまとめました。

これまでの臨床研究

POET trialを含め、最近の臨床研究をいくつか紹介します。


Switch to oral antibiotics in the treatment of infective endocarditis is not associated with increased risk of mortality in non-severely ill patients
A Mzabi, S Kernéis, C Richaud et al.
Clin Microbiol Infect. 2016 Jul;22(7):607-12. doi: 10.1016/j.cmi.2016.04.003.

フランスの急性期病院で13年間のIE症例を解析した後ろ向き研究

Local protocols(下表)に従い、7日以上の静注後に切り替えを検討

50%(214/426例)の症例で、診断から21日(中央値)で経口抗菌薬に切り替えられていた

切り替え例では併存症が少なく、診断時の重症度が低く、黄色ブドウ球菌の頻度が少なかった

フォロー期間中に、切り替え例のうち再燃は2例、再感染は4例のみだった

Local protocols
最短7日の静注後に以下の項目を毎日評価し、全て満たした場合に治療終了まで経口抗菌薬に切り替え
全身状態 白血球数の正常化
解熱 sCrの正常化
CRPの低下 画像異常の正常化
血液培養陰性  

ガイドラインでの推奨はなかったものの、かなりの割合で経口への切り替えが行われており、治療成績も良好だったようです。


High-dose trimethoprim-sulfamethoxazole and clindamycin for Staphylococcus aureus endocarditis
Hervé Tissot-Dupont, Frédérique Gouriet, Leopold Oliver et al.
Int J Antimicrob Agents. 2019 Aug;54(2):143-148. doi: 10.1016/j.ijantimicag.2019.06.006.

黄色ブドウ球菌によるIEを対象とした研究

静注プロトコル期間(2001–2011)と経口プロトコル期間(2012–2016)で治療成績を比較

経口群ではエコーで疣贅がみられる症例が少なかった
64.3% vs 81.8% (P = 0.0004)

経口群では19.3%でプロトコルの中断があった
そのうち半数が増悪、1/3が薬剤性

死亡率は経口群で有意に低かった (Intention-to-treat analysis)
全死亡率 19.3% vs 30.0%, P = 0.024
入院中死亡率 9.9% vs 18.2%, P = 0.03
30日死亡率 7.1% vs 14.2%, P = 0.05

On-treatment analysisでは入院中死亡率で有意差があるが、全死亡・30日死亡では有意差はなかった

入院期間は経口群で有意に短かった (Intention-to-treat analysis)
29.8 vs 39.0 days; P = 0.005

静注プロトコル
MSSA Oxacillin 12 g× 6週間
MRSA Vancomycin 30 mg/kg × 6週間
経口プロトコル
TMP-SMZ 960 mg/4800 mg + Clindamycin 1800 mg × 7日間 静注
→TMP-SMZ 160 mg/800 mg 6錠 × 5週間
48時間時点で血液培養陽性 or 膿瘍の場合:
Rifampicin 1800 mg + Gentamicin 180 mg × 7日間 静注を追加

黄色ブドウ球菌によるIEに対して早期からST合剤への切り替えを行ったstudyです。

早期の経口切り替えが有効な可能性が示されましたが、RCTではなく、経口群で疣贅が少ない=軽症だった可能性があったり、19%も治療変更があったり、疑問点もあります。


Partial Oral versus Intravenous Antibiotic Treatment of Endocarditis
Kasper Iversen, Nikolaj Ihlemann, Sabine U Gill et al.
N Engl J Med. 2019 Jan 31;380(5):415-424. doi: 10.1056/NEJMoa1808312.

左心のIEを対象としたRCT

起因菌はstreptococcus, Enterococcus faecalis, Staphylococcus aureus (MRSAは検出されず), coagulase-negative staphylococci

10日以上の静注後、経口に切り替え、内服期間は10日以上と設定

ランダム化後の治療期間は、静注群で19日(中央値)、経口群で17日間(中央値)であった

6カ月以内の複合アウトカム(全死亡、予定にない心臓手術、塞栓イベント、菌血症の再発)は非劣勢が示された

3.5年のフォローで、死亡率は経口群の方が低かった
(Bundgaard H et al. N Engl J Med. 2019;380(14):1373-1374)
静注群 27.1% vs 経口群 16.4% (HR, 0.57, 95% CI, 0.37 to 0.87)

主な切り替え基準
  • 2日以上体温 < 38 ℃
  • CRP < ピークの25% or < 2.0 mg/dL
  • 白血球数 < 15,000 /µL
  • 心エコーで膿瘍形成がない
  • BMI ≤ 40
  • 抗菌薬静注が必要な他の感染症の合併がない
  • 腹部疾患による吸収低下の疑いがない
経口抗菌薬のレジメン
Penicillin and methicillin sensitive Staphylococcus aureus and coagulase-negative staphylococci Methicillin sensitive Staphylococcus aureus and coagulase-negative staphylococci
Amoxicillin 1 g × 4 + fusidic acid 0.75 g × 2 Dicloxacillin 1 g × 4 + fusidic acid 0.75 g × 2
Amoxicillin 1 g× 4 + rifampicin 0.6 g × 2 Dicloxacillin 1 g × 4 + rifampicin 0.6 g × 2
Linezolid 0.6 g × 2 + fusidic acid 0.75 g × 2 Linezolid 0.6 g × 2 + fucidic acid 0.75g × 2
Linezolid 0.6 g × 2 + rifampicin 0.6 g × 2 Linezolid 0.6 g × 2 + rifampicin 0.6 g × 2
Methicillin resistant coagulase-negative staphylococci Enterococcus faecalis
Linezolid 0.6 g × 2 + fusidic acid Amoxicillin 1 g × 4 + rifampicin 0.6 g × 2
Linezolid 0.6 g × 2 + rifampicin 0.6 g × 2 Amoxicillin 1 g × 4 + moxifloxacin 0.4 g × 1
  Linezolid 0.6 g × 2 + rifampicin 0.6 g × 2
  Linezolid 0.6 g × 2 + moxifloxacin 0.4 g × 1
Streptococci with a MIC for penicillin of <1 mg/L Streptococci with a MIC for penicillin of ≥1 mg/L
Amoxicillin 1 g × 4 + rifampicin 0.6 g × 2 Linezolid 0.6 g × 2 + rifampicin 0.6 g × 2
Linezolid 0.6 g × 2 + rifampicin 0.6 g × 2 Moxifloxacin 0.4 g × 1 + rifampicin 0.6 g × 2
Linezolid 0.6 g × 2 + moxifloxacin 0.4 g × 1 Moxifloxacin 0.4 g × 1 + clindamycin 0.6 g × 3

NEJMで報告された有名なPOET trialです。

RCTで経口内服薬への切り替えの静注治療に対する非劣勢が示されました。

AmoxicillinやRifampicinが高用量だったり、日本で使用できないレジメンもあったり、即臨床応用は難しい点や、MRSAが対象とならなかった点は注意が必要です。


Retrospective analysis of endocarditis patients to investigate the eligibility for oral antibiotic treatment in routine daily practice
J C Vroon, O C D Liesdek, C H E Boel et al.
Neth Heart J. 2021 Feb;29(2):105-110. doi: 10.1007/s12471-020-01490-2.

オランダの病院で、POET trialで内服切り替えの適応となりうる症例を後ろ向きに解析

32% (38/119例)で治療開始4週間以内に基準を満たした
10-13日:47.3% (18/38)
14-20日:21.1% (8/38)
21-27日:23.7% (9/38)
28-33日:7.9% (3/38)


実臨床で内服に切り替えられる症例がどれくらいあるのか検討した研究です。

わたしも実際に治療していて、2週間もすれば“内服に切り替えてもいいのでは?”と思う症例が出てくるように感じます。


実臨床で経口抗菌薬への切り替えが推奨されるには、まだまだエビデンス不足ですが、POET trialのインパクトはかなり大きく、今後IEの経口への切り替えに関する研究はどんどん進んでいくと思います。

今後の臨床研究

最後に、最近プロトコルが発表されたRCTを紹介します。

近いうちに結果が報告されると思います。


Oral switch versus standard intravenous antibiotic therapy in left-sided endocarditis due to susceptible staphylococci, streptococci or enterococci (RODEO): a protocol for two open-label randomised controlled trials
Adrien Lemaignen, Louis Bernard, Pierre Tattevin et al.
BMJ Open. 2020 Jul 14;10(7):e033540. doi: 10.1136/bmjopen-2019-033540.

左心のIEに対する経口切り替えの非劣勢を検討する2つのRCTのプロトコル
RODEO-1 trial:Staphylococcus を対象
RODEO-2 trial:StreptococcusEnterococcusを対象

POET trialとの違い
内服期間は14日以上で計4-6週
RODEO-1:Levofloxacin/Rifampicin感性株に限定 (MRSAは含む)
RODEO-2:Amoxicillin感性株(MIC ≤0.5 mg/L)に限定
両方:少なくとも5日間血液培養が陰性であることが条件、感染の可能性のある心臓内デバイス症例は除外

RODEO-1
≤ 70 kg < 70 kg
Levofroxacin 500 mg × 1 + Rifampicin 600 mg × 1 Levofroxacin 750 mg × 1 + Rifampicin 900 mg × 1
RODEO-2
≤ 70 kg < 70 kg
Amoxicillin 1500 mg × 3 Amoxicillin 2000 mg × 3

感受性の限定、血液培養陰性の確認やデバイス例の除外など、POET trialに比べると経口切り替えへの心理的ハードルが低い症例選択になっていると思います。

経口抗菌薬のレジメンはかなり異なります。
POET trialよりもシンプルで使いやすそうですが、Amoxicillinの1回量がかなりの高用量となっています。

positiveな結果が出れば治療の選択肢が広がるため、結果が楽しみですね。

まとめ

IEに対する経口抗菌薬への切り替えに関して、これまでの知見や今後の研究をまとめました。

他の感染症もそうですが、社会的な要求もあり治療期間・入院期間を短縮する方向に向かっています。

経口抗菌薬で治療がうまくいくのなら患者さんにとってもメリットが大きいため、今後の研究に期待したいところです。

Answer

  • 患者の状態や起因菌の感受性によっては経口抗菌薬への切り替えが推奨されるかもしれない

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