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β-D-グルカンは治療の効果判定に使えるか?

Answer

  • 臨床的に改善している症例では低下傾向がみられる
  • 多くの症例で長期間高値が持続する

β-D-グルカンは多くの真菌の細胞壁に存在する多糖体で、特異性はありませんがカンジダ症やアスペルギルス症などの真菌症のスクリーニングに利用されます。

ところで、β-D-グルカンは治療開始後の経過フォローにも使えるのでしょうか?

β-D-グルカンは治療の効果判定に使えるか?

いくつかの真菌症に関して、β-D-グルカンと治療経過に関する論文を紹介します。

カンジダ

Post-diagnostic kinetics of the (1→3)-β-D-glucan assay in invasive aspergillosis, invasive candidiasis and Pneumocystis jirovecii pneumonia
S Koo, L R Baden, F M Marty et al.
Clin Microbiol Infect. 2012 May;18(5):E122-7. doi: 10.1111/j.1469-0691.2012.03777.x.

侵襲性カンジダ症39例で診断後1週間のβ-D-グルカンの変動は中央値0 pg/mL (IQR -65 to 12; range -365 to 243)であった

6週間後のβ-D-グルカンは70%(16/23例)で高値(>80 pg/mL)であった
中央値138 pg/mL (IQR 82–489; range 47 to >501)

12週間後のβ-D-グルカンは63%(10/16例)で高値(>80 pg/mL)であった
中央値140 pg/mL (IQR 70 to 428; range 31 to >500)

1週間・2週間のβ-D-グルカンの変動は6週間後・12週間後の予後予測因子とならなかった


(1,3)-β-D-glucan as a prognostic marker of treatment response in invasive candidiasis
Siraya Jaijakul, Jose A Vazquez, Robert N Swanson et al.
Clin Infect Dis. 2012 Aug;55(4):521-6. doi: 10.1093/cid/cis456.

侵襲性カンジダ症203例でβ-D-グルカンを測定(治療開始時・終了時・2週間後・6週間後)

β-D-グルカンの推移は治療成功例で573 ± 681 pg/mL→499 ± 635 pg/mL (P = .03)、失敗例で1224 ± 1585 pg/mL→1293 ± 1283 pg/mL (P = .29)であった

β-D-グルカンの低下傾向は治療成功との関連がみられた
感度 62%、特異度 61%、PPV 90%、NPV 22%


Usefulness of ß-D-glucan for diagnosis and follow-up of invasive candidiasis in onco-haematological patients
J Guitard, F Isnard, M-D Tabone et al.
J Infect. 2018 May;76(5):483-488. doi: 10.1016/j.jinf.2018.01.011.

血液腫瘍患者におけるカンジダ血症、慢性播種性カンジダ症でβ-D-グルカンを測定

臨床的に改善したカンジダ血症13例では1例を除きβ-D-グルカンの低下がみられた (図A)

カンジダ血症でβ-D-グルカンの低下がみられなかった10例のうち、4例は死亡、5例は慢性播種性カンジダ症へ移行、1例はカンジダ血症が遷延した (図B)

生存した慢性播種性カンジダ症9例のうち、7例でβ-D-グルカンは2-6カ月で低下がみられた (図C)

慢性播種性カンジダ症でβ-D-グルカンの高値が持続した2例は死亡 (図D)


Combined Use of Presepsin and (1,3)-β-D-glucan as Biomarkers for Diagnosing Candida Sepsis and Monitoring the Effectiveness of Treatment in Critically Ill Patients
Radim Dobiáš, Marcela Káňová, Naděžda Petejová et al.
J Fungi (Basel). 2022 Mar 17;8(3):308. doi: 10.3390/jof8030308.

カンジダ血症58例でβ-D-グルカンを経時的に測定

β-D-グルカンは抗真菌薬治療開始後28日後に有意な低下がみられた

アスペルギルス

Post-diagnostic kinetics of the (1→3)-β-D-glucan assay in invasive aspergillosis, invasive candidiasis and Pneumocystis jirovecii pneumonia
S Koo, L R Baden, F M Marty et al.
Clin Microbiol Infect. 2012 May;18(5):E122-7. doi: 10.1111/j.1469-0691.2012.03777.x.

侵襲性アスペルギルス症53例で診断後1週間のβ-D-グルカンの変動は0 pg/mL (IQR 0 to 53; range -347 to 160)であった

6週間後のβ-D-グルカンは82%(22/27例)で高値であった
中央値221 pg/mL (IQR 116 to >500; range <31 to >501)

12週間後のβ-D-グルカンは60%(12/20例)で高値であった
中央値249 pg/mL (IQR 73 to >500; range <31 to >500)

1週間・2週間のβ-D-グルカンの変動は6週間後・12週間後の予後予測因子とならなかった

ニューモシスティス

β-d-Glucan kinetics for the assessment of treatment response in Pneumocystis jirovecii pneumonia
J Held, D Wagner.
Clin Microbiol Infect. 2011 Jul;17(7):1118-22. doi: 10.1111/j.1469-0691.2010.03452.x.

β-D-グルカンの低下がみられた8例中7例で治療成功であったが重症例1例が死亡

β-D-グルカンの上昇がみられた6例中3例で治療成功であったが1例で治療失敗、2例が死亡

β-D-グルカンの上下がみられた4例全例で治療成功であった

β-D-グルカンの推移と治療経過が一致したのは61%だった


Post-diagnostic kinetics of the (1→3)-β-D-glucan assay in invasive aspergillosis, invasive candidiasis and Pneumocystis jirovecii pneumonia
S Koo, L R Baden, F M Marty et al.
Clin Microbiol Infect. 2012 May;18(5):E122-7. doi: 10.1111/j.1469-0691.2012.03777.x.

PCP16例で診断後1週間のβ-D-グルカンの変動は中央値17 pg/mL (IQR 0 to 82; range -343 to 205)であった

6週間後のβ-D-グルカンは71%(5/7例)で高値(>80 pg/mL)であった

12週間後のβ-D-グルカンは67%(4/6例)で高値(>80 pg/mL)であった

1週間・2週間のβ-D-グルカンの変動は6週間後・12週間後の予後予測因子とならなかった

フザリウム

Performance of 1,3-beta-D-glucan in the diagnosis and monitoring of invasive fusariosis
Marcio Nucci, Gloria Barreiros, Henrique Reis et al.
Mycoses. 2019 Jul;62(7):570-575. doi: 10.1111/myc.12918.

侵襲性フザリウム症でβ-D-グルカンを測定

死亡例5例では上昇がみられた(30日以内に死亡)
中央値109→316 pg/mL (P = 0.04)

生存例6例では有意な変化はなかった(※測定日に関する正確な記載なし)
中央値99→101 pg/mL (P = 0.60)

まとめ

β-D-グルカンと治療経過の関連についてまとめました。

臨床的に改善している症例では低下傾向がみられますが、多くの症例で長期間高値が持続するようです。

臨床的な改善が乏しい症例では低下がみられなかったり、上昇がみられたりします。

臨床症状から判断しにくい症例では参考になるかもしれませんが、CRPなど他のマーカーと同様に、治療効果は数値よりも臨床経過で判断すべきだと思います。

Answer

  • 臨床的に改善している症例では低下傾向がみられる
  • 多くの症例で長期間高値が持続する

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コメント

  1. 下っ端呼吸器内科医 より:

    信越地方の内科医です。
    私も同じ疑問を頂き、論文検索をしようと思ったところで、拝見させて頂きました。
    大変勉強になりました、ありがとうございました。

    一つ参考までに教えて頂きたいのですが、先生の施設ではβ-Dグルカンをどのように使用していますか?
    先生の考察を拝見すると、診断時には参考にするものの、治療効果判定にはあまり有用でないという理解で、私も同じように考えていたのですが、それでよいでしょうか。
    私の施設では(科によっては)数日間隔で繰り返し検査を提出し、下がらないからといって当科にコンサルトがよく来ます。先生のお考えで、β-Dグルカンの取り直しのタイミングやより良い活用法があれば御教示頂ければ幸いです。

    繰り返しになりますが大変勉強になりました。ありがとうございました。
    よろしくお願い致します。

    1. MatoMed より:

      コメントありがとうございます。お返事が遅くなり申し訳ありません。
      当院では(というより周りの内科・感染症の先生は)、治療開始後の頻回な測定はあまり行なっていません。
      侵襲性真菌症では集中治療症例も多いため、経過が悪い時に臨床所見では判断が難しいこともあり、真菌症か他の要因かの判断材料の一つとして検討することはあります。
      ただし、数値での治療判定はやはり難しく、特に経過が悪くない場合の再検査はあまり有用ではないかと思います。

      1. 下っ端呼吸器内科医 より:

        お返事ありがとうございました。
        参考にさせて頂きます。

        先生のClinical questionに対する論文検索の姿勢を見習いたいと思います。
        日常診療でお忙しい中、ありがとうございました。

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