血液培養の採取についてある程度の共通認識はあると思いますが、その根拠は知っていますか?
今回はそのエビデンスをまとめました。
血液培養のタイミングは?
発熱は指標になる?
血液培養を採取しようと思うタイミングは、多くの場合“発熱”ですよね。
実際、看護師さんへの指示で“38℃以上で血液培養採取”みたいな指示もよく見かけます。
まずは発熱と血液培養の関連についてみていきます。
Blood cultures for febrile patients in the acute care setting: Too quick on the draw?
Barbara K Chesnutt, Martin R Zamora, Ruth M Kleinpell
J Am Acad Nurse Pract. 2008 Nov;20(11):539-46. doi: 10.1111/j.1745-7599.2008.00356.x.
様々なガイドラインで提示される“38.3℃以上”が適切な採取タイミングなのか考察したレビュー
“38.3℃以上”という基準は臨床研究よりはエキスパートオピニオンに基づいている
Timing of Specimen Collection for Blood Cultures from Febrile Patients with Bacteremia
Stefan Riedel, Paul Bourbeau, Brandi Swartz
J Clin Microbiol. 2008 Apr;46(4):1381-5. doi: 10.1128/JCM.02033-07.
米国の7施設で1,436人の血液培養陽性患者のデータを後ろ向き解析
血液培養採取時に測定された体温が、前後48時間での最高体温だったのは44%
体温のスパイク時の採取と血液培養の陽性率は有意な関連がみられなかった
Inadequacy of temperature and white blood cell count in predicting bacteremia in patients with suspected infection
Todd A Seigel, Michael N Cocchi, Justin Salciccioli et al.
J Emerg Med. 2012 Mar;42(3):254-9. doi: 10.1016/j.jemermed.2010.05.038.
米国での前向き観察研究の事後解析
血液培養陽性患者の33%が正常体温(36.1~38℃)であった
体温の平均値は37.5℃(SD±2.4)、中央値は38.4℃であった
血液培養採取時の発熱は、必ずしも陽性率と関連があるわけではなさそうです。
体温が高くなくても細菌感染を疑った場合は血液培養を採取するのがよいでしょう。
- 発熱と血液培養陽性率はあまり相関しない
発熱以外の症状は?
“悪寒戦慄”と菌血症の関連は有名ですよね。
ここではそのエビデンスを確認しましょう。
The degree of chills for risk of bacteremia in acute febrile illness
Yasuharu Tokuda, Hitoshi Miyasato, Gerald H Stein et al.
Am J Med. 2005 Dec;118(12):1417. doi: 10.1016/j.amjmed.2005.06.043.
沖縄中部病院の有名な論文
定義
“mild chills”: 上着を着たくなるくらいの寒気
“moderate chills”: 厚い毛布が欲しくなるくらいの寒気
“shaking chills”: 厚い毛布をかぶっても震える(=悪寒戦慄)
悪寒がない患者と比べた場合の菌血症リスク(risk ratio)
“mild chills”: RR 1.8 (95% CI 0.9-3.3)
“moderate chills”: RR 4.1 (95% CI 1.6-10.7)
“shaking chills”: RR 12.1 (95% CI 4.1-36.2)
Risk of bacteremia in patients presenting with shaking chills and vomiting – a prospective cohort study
M Holmqvist, M Inghammar, L I Påhlman et al.
Epidemiol Infect. 2020 Mar 31;148:e86. doi: 10.1017/S0950268820000746.
スイス・スウェーデン・カナダの4施設での前向き観察研究
血液培養陽性患者の34%(11/32)で悪寒戦慄があった(OR 3.23; 95% CI 1.35-7.52)
嘔吐についても解析されたが有意な関連はみられなかった
“悪寒戦慄”は菌血症=血液培養陽性を示唆する症状ですね。
尿路感染などの感染症患者さんでは嘔吐もしばしばみられますが、菌血症との有意な関連は示されていないようです。
- 悪寒戦慄は血液培養陽性と関連する
血液培養の採取方法は?
何セット採取するのがよい?
“血液培養は必ず2セット”
研修医に必ず指導しますよね。
エビデンスを確認しましょう。
Optimal Testing Parameters for Blood Cultures
F R Cockerill 3rd, J W Wilson, E A Vetter et al.
Clin Infect Dis. 2004 Jun 15;38(12):1724-30. doi: 10.1086/421087.
米国の単施設(Mayo)での血液培養データを解析
4セット以上採取された非感染性心内膜炎の陽性率
1セット目で61.4%、2セット目までで78.2%、3セット目までで98.0%
Detection of bloodstream infections in adults: how many blood cultures are needed?
Andrew Lee, Stanley Mirrett, L Barth Reller et al.
J Clin Microbiol . 2007 Nov;45(11):3546-8. doi: 10.1128/JCM.01555-07.
米国の2病院での血液培養陽性患者のデータを解析
4セット以上採取された単一菌の陽性率
1セット目で73.1%、2セット目までで89.7%、3セット目までで98.2%
陽性率を上げるために、血液培養は2セット採取するようにしましょう。
できれば3セット採取するのが望ましいです。
- 最低でも2セット、可能であれば3セット採取すべき
何mL採取するのがよい?
ボトル1本あたり何mL注入していますか?
A Guide to Utilization of the Microbiology Laboratory for Diagnosis of Infectious Diseases: 2018 Update by the Infectious Diseases Society of America and the American Society for Microbiology
J Michael Miller, Matthew J Binnicker, Sheldon Campbell et al.
Clin Infect Dis. 2018 Aug 31;67(6):e1-e94. doi: 10.1093/cid/ciy381.
IDSA(米国感染症学会)とASM(アメリカ微生物学会)による細菌検査に関するガイドライン
成人では1セット20~30mL(1本あたり10~15mL)採取
10mL以下しか採取できない場合はすべて好気ボトルへ入れる
1セット20mLだと2セットで40mLも採血する必要があります。
血液検査の難しい患者さんでは、少量しか採血できないこともよくありますよね。
一般的に嫌気性菌よりも好気性菌が原因であることが多く、好気培養を優先させましょう
- 1本あたり10~15mL採取する
- 少量の場合は好気ボトルを優先
まとめ
発熱があれば血液培養、とは言えないようです。
それよりも病歴や悪寒戦慄などの症状、身体診察から細菌感染を疑った時が血液培養を採取するタイミングなのかな、と思います。
血液培養を採取する場合は2セット・40mL採取を心がけましょう。
- 体温にとらわれず、細菌感染を疑ったら血液培養を採取すべき
- 悪寒戦慄は血液培養陽性と関連する
- 最低2セットは採取するのがよい