- 各種培養の陽性率は抗菌薬投与で1/3~2/3程度まで低下する
- 痰培養は1時間の猶予がある
- 手術検体(膿・骨組織)の培養は短期間であれば抗菌薬の影響を受けにくい
細菌感染症の診療において起炎菌の検出は重要なポイントです。
培養の検体採取は抗菌薬の投与前に行われることが望ましいですが、先に抗菌薬を投与せざるをえない状況もあると思います。
今回は培養検査に対する抗菌薬の影響についてまとめました。
培養検査に対する抗菌薬の影響は?
血液培養
Impact of antibiotic administration on blood culture positivity at the beginning of sepsis: a prospective clinical cohort study
C S Scheer, C Fuchs, M Gründling et al.
Clin Microbiol Infect. 2019 Mar;25(3):326-331. doi: 10.1016/j.cmi.2018.05.016.
敗血症患者で抗菌薬投与前に血液培養を採取された症例と抗菌薬投与後に血液培養を採取された症例を比較
抗菌薬投与前の血液培養は50.6% (78/154)で陽性
抗菌薬投与後の血液培養は27.7% (112/405)で陽性
Blood Culture Results Before and After Antimicrobial Administration in Patients With Severe Manifestations of Sepsis: A Diagnostic Study
Matthew P Cheng, Robert Stenstrom, Katryn Paquette et al.
Ann Intern Med. 2019 Oct 15;171(8):547-554. doi: 10.7326/M19-1696.
敗血症患者で抗菌薬投与の前後で血液培養を採取 (施設により抗菌薬投与後は1-2セット)
抗菌薬投与前の血液培養は31.4% (102/325)で陽性
抗菌薬投与後の血液培養は19.4% (63/325)で陽性
抗菌薬投与からの時間経過で血液培養の感度が低下する傾向がみられた
抗菌薬投与で血液培養の陽性率は半分近くまで低下してしまいます。
痰培養
Prospective, protocolized study evaluating effects of antibiotics on sputum culture results in injured patients
Matthew C Byrnes, Eric Irwin, Patty Reicks et al.
Surg Infect (Larchmt). 2013 Feb;14(1):24-9. doi: 10.1089/sur.2012.022.
肺炎疑いの人工呼吸患者で抗菌薬投与前・投与1時間後・6時間後・12時間後・24時間後の痰培養を評価
抗菌薬投与前の痰培養が陽性となった21例のうち、1時間後では全例培養陽性であった
6時間後以降は経時的に陽性率が低下した
6時間後:79%、12時間後:68%、24時間後:58% (p < 0.01)
Staphylococcus aureusは24時間後も検出された全例で培養陽性であった
※MSSA・MRSAに有効な抗菌薬が投与されていたとの考察
Influence of Antibiotics on the Detection of Bacteria by Culture-Based and Culture-Independent Diagnostic Tests in Patients Hospitalized With Community-Acquired Pneumonia
Aaron M Harris, Anna M Bramley, Seema Jain et al.
Open Forum Infect Dis. 2017 Feb 10;4(1):ofx014. doi: 10.1093/ofid/ofx014.
市中肺炎患者で抗菌薬投与前に検体が採取された症例と抗菌薬投与後に採取された症例を比較
血液培養と喀痰・気管内痰培養は抗菌薬投与後の採取で陽性率は低下した
血液培養:5.2% → 2.6%; P < .01
痰培養:50.0% → 26.8%; P < .01
抗菌薬投与からの時間経過で培養の陽性率は低下した
尿中抗原(肺炎球菌・レジオネラ)と咽頭PCR(マイコプラズマ・クラミジア)は抗菌薬投与前後で陽性率に有意差はなかった
尿中抗原:7.0% → 5.7%; P = .53
咽頭PCR:6.7% → 5.4%; P = .31
痰培養は抗菌薬投与で陽性率が低下しますが、組織への移行のせいか1時間程度の猶予がありそうです。
死菌でも検出できる抗原やPCRも有用です。
尿培養
Implications of culture collection after the first antimicrobial dose in septic emergency department patients
Vincent J Cascone, Rose S Cohen, Nicholas P Dodson et al.
Am J Emerg Med. 2019 May;37(5):947-951. doi: 10.1016/j.ajem.2019.02.016.
救急外来での敗血症患者で抗菌薬投与前に必要な培養を採取された症例と抗菌薬投与後に採取された症例を比較
尿路感染症で、抗菌薬投与前に培養(尿+血液)を採取した症例で陽性率が高かった
89.2% → 47.6%, p=0.01
尿培養・血液培養合わせた数値ですが、尿路感染症でも陽性率が低下します。
髄液培養
Effect of delayed lumbar punctures on the diagnosis of acute bacterial meningitis in adults
Benedict Michael, Brian F Menezes, John Cunniffe et al.
Emerg Med J. 2010 Jun;27(6):433-8. doi: 10.1136/emj.2009.075598.
髄液検査で髄膜炎と判断された92例
全例で抗菌薬投与後の髄液採取
培養が陽性となったのは16例
4時間以内の採取で73%(8/11)が培養陽性、4-8時間後の採取で11%(8/71)が培養陽性、8時間以上経過後の採取では全例陰性であった
結果的に細菌性髄膜炎とウイルス性髄膜炎が混在しており、結果の解釈が難しい論文ですが、抗菌薬投与から8時間以内であれば陽性の可能性があるようです。
関節液培養
Septic arthritis of the knee: the use and effect of antibiotics prior to diagnostic aspiration
P Hindle, E Davidson, L C Biant et al.
Ann R Coll Surg Engl. 2012 Jul;94(5):351-5. doi: 10.1308/003588412X13171221591015.
化膿性膝関節炎として治療された49例を検討
51%(25/49)で関節穿刺前に抗菌薬が投与された
検鏡の感度は抗菌薬投与で58%から12%に低下
培養の感度は抗菌薬投与で79%から28%に低下
Effect of Preoperative Antibiotic Therapy on Operative Culture Yield for Diagnosis of Native Joint Septic Arthritis
Ryan B Khodadadi, Pansachee Damronglerd, Jack W McHugh et al.
Clin Infect Dis. 2024 Oct 15;79(4):1062-1070. doi: 10.1093/cid/ciae136.
手術を受けた化膿性膝関節炎で術前検体と術中検体の培養結果に対する術前抗菌薬投与の影響を評価
術前検体の培養陽性率は68.0% (187/321)だったのに対し、抗菌薬投与後の術中検体の培養陽性率は57.1% (157/321)だった (P < .001)
関節穿刺の培養は感度が1/3程度まで低下してしまいます。
手術検体であればある程度検出率は維持できるようですが、関節液はグラム染色の感度も低いため、できれば抗菌薬投与前に検体採取をしたいところです。
手術検体の培養
Impact of prior antibiotic therapy on severe necrotizing soft-tissue infections in ICU patients: results from a French retrospective and observational study
Sébastien Tanaka, Michael Thy, Parvine Tashk et al.
Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2022 Jan;41(1):109-117. doi: 10.1007/s10096-021-04354-8.
手術を受けた重症壊死性軟部組織感染症100例を検討
23%(23/100)が手術前に24時間以上の抗菌薬投与を受けた
手術検体の培養は16%(16/100)で陰性であったが、術前の抗菌薬投与期間で有意差はなかった
抗菌薬>24h:13%(3/23)
抗菌薬≤24h:17%(13/77)
抗菌薬投与と検体採取のタイミングでICU滞在期間・入院期間・死亡率に有意差はなかった
Lack of effect of antibiotics on biopsy culture results in vertebral osteomyelitis
Louis D Saravolatz 2nd, Vladimir Labalo, Joel Fishbain et al.
Diagn Microbiol Infect Dis. 2018 Jul;91(3):273-274. doi: 10.1016/j.diagmicrobio.2018.02.017.
化膿性脊椎炎の生検検体の培養に抗菌薬が与える影響を検討
経皮的生検では、抗菌薬未投与例では50.0%、生検前72時間以内の投与例では47.2%で培養陽性であった (P = 0.83)
外科的生検では、抗菌薬未投与例では66.0%、生検前72時間以内の投与例では72.7%で培養陽性であった (P = 0.67)
外科的に採取される深部組織の検体は1~3日であれば抗菌薬の影響を受けにくいようです。
まとめ
培養検査に対する抗菌薬の影響についてまとめました。
やはり抗菌薬投与で細菌培養の検出率は低下し、検体によっては半分以下になってしまいます。
しかし、逆に言えば抗菌薬投与が先になっても半数は陽性になるため、あきらめずにできるだけ早く採取するのが望ましいと思います。
ただし、抗菌薬投与後に検出された細菌に関しては真の起炎菌なのか、残存している定着菌(特に耐性菌の場合)なのか判断に注意が必要です。
- 各種培養の陽性率は抗菌薬投与で1/2~1/3程度まで低下する
- 痰培養は1時間の猶予がある
- 手術検体(膿・骨組織)の培養は短期間であれば抗菌薬の影響を受けにくい