Infection

血液培養ボトルは非血液検体の培養に有用か?

Answer

培養検査は感染症診療の中でも重要な検査の一つで、起炎菌の同定、感受性検査のために必須の検査となります。

通常血液以外の検体は必要に応じて処理され、検体や予想される菌に合わせて選択された培地で培養されますが、菌量が少ない場合には培養されないこともあります。

増菌培養を行うこともありますが、腹水培養の感度を上げるために血液培養ボトルを使うように教わった先生方もいらっしゃるのではないでしょうか。

今回は腹水も含む非血液検体血液培養ボトルで培養することの有用性についてまとめました。

血液培養ボトルで非血液検体の培養検査はできる?

そもそも血液以外の検体を使用していいのか?

そもそも血液培養ボトルで血液以外の検体を培養することは想定されているのでしょうか?

血液培養ボトルのメーカーからの文書にある記載を紹介します。


BD 血液培養実践マニュアル 第2版

血液以外の無菌的検体を血液培養ボトルで培養することは可能ですか?
血液以外の無菌的検体を血液培養ボトルに入れた状態で検査室に提出すべきではありません。
滅菌スピッツ等で提出された無菌的検体は、肉眼的な確認や適切な寒天培地に接種した後、血液培養ボトルに接種して培養することも可能です。
髄液や心膜液、関節液などでは、Neisseria 属が関与している可能性もあるため、そのような場合は血液培養ボトルを用いるべきではありません。
血液を含まない検体、特に髄液などではヘミンの不足によってHaemophilus 属の検出ができないことがあります。

血液以外の検体を血液培養ボトルで培養する際に添加剤などを利用できますか?
FOS(Fastidious Organism Supplement)を利用することが可能です。
血液培養ボトルにヒト新鮮血液などを添加することも可能です。
通常の平板培地を併用することにより検出率が向上するという報告があります。


バクテアラート Virtuo FA Plus培養ボトルの添付文書

血液以外の通常無菌体液または0.5 mL以下の微量血液の培養に使用する場合、特にHaemophilus influenzae, Streptococcus pneumoniaeおよびNeisseria gonorrhoeaeのような栄養要求性の厳しい微生物の回収のために、発育補助として無菌ウマ脱繊維血液(10%v/v)のような血液を加える必要があります。


血液培養ボトルでの非血液検体の培養はメーカーでも想定されてはいるようです。

栄養要求性細菌を検出するための添加物に関する記載もありますが、実際に添加することは少ないように思います。

非血液検体の培養に関する血液培養ボトルの性能は?

では、実際に非血液検体が血液培養ボトルで培養されたときに、細菌の検出率は上がるのでしょうか?


Use of the BacT/Alert blood culture system for culture of sterile body fluids other than blood
P Bourbeau, J Riley, B J Heiter et al.
J Clin Microbiol. 1998 Nov;36(11):3273-7. doi: 10.1128/JCM.36.11.3273-3277.1998.

血液以外の検体の培養精度について、BacT/Alertの従来ボトル、FANボトル (現在の主流)と通常培養を比較

検体は腹膜透析液、腹水、羊水、心嚢液、関節液、胸水
※添加物に関する記載なし (おそらく不使用)

1,140検体のうち、193検体で培養陽性、227の細菌が検出された

細菌の検出率は、BacT/Alert 従来ボトルで82% (186/227)、FANボトルで96% (217/227)、通常培養で81% (184/227)であった


Performance of the BacT/Alert Virtuo Microbial Detection System for the culture of sterile body fluids: prospective multicentre study
R C She, M G Romney, W Jang et al.
Clin Microbiol Infect. 2018 Sep;24(9):992-996. doi: 10.1016/j.cmi.2017.12.011.

血液以外の検体の培養精度について、BacT/Alert Virtuo (2014年頃の最新型)、BacT/Alert 3D (旧型)と通常培養を比較

検体は腹水、髄液、心嚢液、胸水、関節液

BacT/Alertはシステム間で共通の培養ボトルを使用
※添加物に関する記載なし (おそらく不使用)

811検体のうち、145検体で培養陽性、155の細菌が検出された

BacT/Alert Virtuo (127/155, 81.9%)、3D (126/155, 81.3%)ともに、通常培養 (95/155, 61.3%)よりも臨床的意義のある細菌の検出率が高かった (p <0.001))

Virtuoでは3Dよりも検出までの時間が短かった
  12.5 (2.8-101.5)時間 vs 15.5 (4.3-78.5)時間, p <0.001


血液培養ボトルを用いた培養検査は、通常の培養方法に比べて細菌の検出率が高くなることが報告されています。

  • 血液培養ボトルでは非血液検体の培養検査も可能
  • 栄養要求性細菌の検出には添加物の使用を検討する
  • 血液培養ボトルでは通常の培養方法に比べて細菌の検出率が高くなることが報告されている

検体ごとの血液培養ボトルの有用性は?

ここからは検体ごとに血液培養ボトルの有用性を検討した報告をみていきます。

血液培養ボトルや培養システムは時代とともに進歩しているため、できるだけ最近の報告をまとめました。

腹水

Bacterial isolation with on-site inoculation of ascites fluid into hemoculture bottle in spontaneous bacterial peritonitis
Sumittra Charoenhirunyingyos, Chertsak Dhiraputra, Amorn Leelarasamee.
J Med Assoc Thai. 2004 May;87(5):486-91.

好中球性腹水で腹水の従来培養と血液培養ボトルの比較

細菌の検出率は従来培養で14.9% (16/107)、血液培養ボトルで46.4% (26/56)であった


Ascitic Fluid Culture in Cirrhotic Patients with Spontaneous Bacterial Peritonitis
Mohammad Sajjad, Zard Ali Khan, Mohammad Shoaib Khan.
J Coll Physicians Surg Pak. 2016 Aug;26(8):658-61.

SBP患者で腹水の従来培養と血液培養ボトル(BACTEC)の比較

腹水培養は全体で25.72% (27/105)で陽性

従来培養では5.71% (6/105)、血液培養ボトルでは25.72% (27/105)で陽性であった


特発性細菌性腹膜炎における腹水培養および血液培養検査の評価と有効性の検討
手島裕治, 的野多加志, 浦園真司ら.
医学検査. 2022; 71(1):106-11. doi: 10.14932/jamt.21-47.

SBPの検査実施状況を評価した研究

腹水培養検査における血液培養ボトル(BACTEC)の使用率は32.2% (19/59)であった

血液培養ボトル使用群(n = 19)と未使用群(n = 40)間で比較すると,培養陽性率は血液培養ボトル使用群の方が有意に高かった (63.2% [12/19] vs 25% [10/40], p < 0.05)


腹水は昔から血液培養ボトルでの培養の有用性が報告されており、検索される論文も最も多かったです。

血液培養ボトルでは通常の培養方法と比較して高い細菌検出率が報告されています。

胸水

Blood culture bottle culture of pleural fluid in pleural infection
Sarah M Menzies, Najib M Rahman, John M Wrightson et al.
Thorax. 2011 Aug;66(8):658-62. doi: 10.1136/thx.2010.157842.

感染性胸水の従来培養に血液培養ボトル(BACTEC PLUS)を追加した効果を検証

従来培養に血液培養ボトルを追加することで、細菌の検出率は有意に向上した
37.7% (20/53) → 58.5% (31/53) (20.8%, 95% CI difference 8.9% to 20.8%, p<0.001)


Blood Culture Bottle and Standard Culture Bottle Methods for Detection of Bacterial Pathogens in Parapneumonic Pleural Effusion
Surapan Charoentunyarak, Sarassawan Kananuraks, Jarin Chindaprasirt et al.
Jundishapur J Microbiol. 2015 Oct 29;8(10):e24893. doi: 10.5812/jjm.24893.

膿胸・肺炎随伴性胸水で胸水の従来培養と血液培養ボトル(BacT/ALERT)の比較

細菌検出率は従来培養で14.0% (18/129)、血液培養ボトルで24.0% (31/129)であった (P<0.001)


腹水に比べると報告は少ないですが、胸水でも血液培養ボトルの有用性が報告されています。

関節液

Culture with BACTEC Peds Plus/F bottle compared with conventional methods for detection of bacteria in synovial fluid
J G Hughes, E A Vetter, R Patel et al.
J Clin Microbiol. 2001 Dec;39(12):4468-71. doi: 10.1128/JCM.39.12.4468-4471.2001.

関節液の従来培養と血液培養ボトル(BACTEC Peds Plus)の比較

805検体の培養で、血液培養ボトルの方が従来培養に比べ病原体が有意に多く検出された (62 vs 51 [P = 0.001])

血液培養ボトルの方が従来培養に比べコンタミネーションが有意に少なかった (1 vs 11 [P = 0.006])


Synovial fluid culture: agar plates vs. blood culture bottles for microbiological identification
Daniel Cohen, Ayman Natshe, Eli Ben Chetrit et al.
Clin Rheumatol. 2020 Jan;39(1):275-279. doi: 10.1007/s10067-019-04740-w.

関節液の従来培養と血液培養ボトル(BACTEC)の比較

細菌の検出率は従来培養で62.3% (96/154)、血液培養ボトルで76.4% (113/148)であった


関節液でも血液培養ボトルに関する報告があります。

検出率が高い分、有意でない細菌も検出されてしまうイメージがあったので、コンタミネーションが少ないという結果は意外に感じました。

人工関節感染の術中洗浄検体に関する報告も多く、これも血液培養ボトルが有用と言われています。

おまけ:結核

Use of the BacT/Alert MB mycobacterial blood culture system for detection of mycobacteria in sterile body fluids other than blood
Romano Mattei, Arnaldo Savarino, Marco Fabbri et al.
J Clin Microbiol. 2009 Mar;47(3):711-4. doi: 10.1128/JCM.01712-08.

肺外結核疑い症例で、血液以外の検体の培養精度についてBacT/Alert MPボトル (通常の抗酸菌用ボトル)とMBボトル (血液用ボトル)を比較

検体は胸水、腹水、生検検体

MPボトルへは処理後に注入、MBボトルへは直接注入

96例中11例で結核が検出された

MBボトルでは11例陽性、MPボトルでは9例陽性であった

陽性までの平均日数はMBボトルで19.9 (6-39)日、MPボトルで21.6 (9.5-32)日であった


抗酸菌培養用の血液培養ボトルもあり、これも通常の培養と比べると検出率が高くなる可能性があります。

  • 腹水・胸水・関節液では通常培養よりも細菌検出率が高いと報告されている
  • 結核菌培養でも血液培養ボトルが有用かもしれない

まとめ

非血液検体の培養における血液培養ボトルの有用性についてまとめました。

無菌検体では通常培養よりも血液培養ボトルの方が細菌検出率が高いという報告が多くみられ、可能な場合は血液培養ボトルでの提出を検討してもよいかもしれません。

血液以外の検体を血液培養ボトルで提出する場合は、事前に検査室、検査機関との打ち合わせを忘れないようにしましょう。

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