General Internal Medicine

BMJのクリスマスおもしろ論文シリーズ【2014~2023】

Contents

BMJ(British Medical Journal)と言えばNEJM、Lancet、JAMAと並ぶ超有名医学雑誌です。

そのはじまりは1840年に遡る、めちゃめちゃ権威ある医学誌です。

そんなBMJが毎年クリスマスシーズンになると、ユーモアたっぷりな論文を掲載するのをご存じですか?

まるで小学生の自由研究のような身近なテーマを真面目に研究し、原著論文として発表しています。

2014年の論文から最新の論文まで、特に面白かったものを紹介していきます。

2014年

Silent night: retrospective database study assessing possibility of “weekend effect” in palliative care
Raymond Voltz, Robert Kamps, Ralf Greinwald
BMJ. 2014 Dec 16;349:g7370. doi: 10.1136/bmj.g7370.

緩和ケア病棟での平日と休日の死亡率を比較した研究

休日の死亡率は、平日に比べて18%高かった

緩和ケアに関するかなり真面目な内容。
休日に人手が少ないことの影響が大きいのかもしれませんね。

2015年

Bloodcurdling movies and measures of coagulation: Fear Factor crossover trial
Banne Nemeth, Luuk J J Scheres, Willem M Lijfering et al.
BMJ. 2015 Dec 16;351:h6367. doi: 10.1136/bmj.h6367.

血も凍るような”ホラー映画で血は固まるのか

ホラー映画とドキュメンタリー映画を観る前後で血液凝固因子を評価

交絡を避けるため満月、13日の金曜日を避けた

第Ⅷ因子はホラー映画を観た後の方が有意に高くなった

個人的に歴代最高の論文。
“13日の金曜日を避ける”ってのがツボでした。
有意差が出たのもポイント高いです。
そもそも英語でも“血も凍るような”って表現あったんですね。


Zombie infections: epidemiology, treatment, and prevention
Tara C Smith
BMJ. 2015 Dec 14;351:h6423. doi: 10.1136/bmj.h6423.

“ゾンビ”を感染症としてレビューした論文

これも非常に興味深い論文の一つです。
参考資料のほとんどがゾンビ映画で、現実に起こったこととして扱っています。
そのせいで何度もアウトブレイクしたことになってます。

2017年

The full moon and motorcycle related mortality: population based double control study
Donald A Redelmeier, Eldar Shafir
BMJ. 2017 Dec 11;359:j5367. doi: 10.1136/bmj.j5367.

満月とバイク事故の関連についての論文

満月によるバイク事故の相対リスクは1.05であった(95% CI 1.17~1.37, P<0.001)

ライダーが満月に気を取られて事故が増えるのでは、というテーマの論文。
実際の関連は不明ですが、実際に事故が多いのが興味深いです。

2019

The need for speed: observational study of physician driving behaviors
André Zimerman, Christopher Worsham, Jaemin Woo et al.
BMJ. 2019 Dec 18;367:l6354. doi: 10.1136/bmj.l6354.

医者のスピード違反に関する研究

20 mph以上のスピード違反での検挙は一般人口と変わりなかった
検挙されたうちのそれぞれ26.4% vs 26.8%

20 mph以上のスピード違反は精神科医で最も多かった
検挙されたうちの31.2%

アメリカの研究ですが、精神科医が最も速かったという意外な結果でした。

2020

The Babinski sign in Renaissance paintings-a reappraisal of the toe phenomenon in representations of the Christ Child: observational analysis
François Sellal, Laurent Tatu
BMJ. 2020 Dec 10;371:m4556. doi: 10.1136/bmj.m4556.

ルネサンス期の幼子キリストの絵画におけるBabinski徴候を評価した研究

302点中90点(30%)で拇趾の背屈がみられた

足底の刺激は90点中48点(53%)でみられた

実際にキリストを見ることはできなかったので、身近な赤ちゃんを参考にして描いたのでしょう。
ルネサンス期の画家たちがいかに観察力に優れていたかがわかります。
Sapiraが改訂されたら引用されそうな論文ですね。

2021年

The holly and the ivy: a festive platter of plant hazards
George R Huntington, Megan L Byrne
BMJ. 2021 Dec 15;375:BMJ-2021-066995. doi: 10.1136/bmj-2021-066995.

クリスマスに飾られたり料理に使われたりする植物の人体への有害性を検討した論文

ふつうに植物関連の中毒学の勉強になります。


Ghost in the machine or monkey with a typewriter-generating titles for Christmas research articles in The BMJ using artificial intelligence: observational study
Robin Marlow, Dora Wood
BMJ. 2021 Dec 15;375:e067732. doi: 10.1136/bmj-2021-067732.

AIの作ったBMJのクリスマス論文のタイトルを、実際の論文タイトルと比べておもしろそうか検討した論文

ランダムに選んだ実際の論文タイトルの例
“The survival time of chocolates on hospital wards: covert observational study”
“Morphology and size of stem cells from mouse and whale: observational study”

 評価の高かったAI作成タイトルの例
“The effects of free gourmet coffee on emergency department waiting times: an observational study”
“The clinical effectiveness of lollipops as a treatment for sore throats: randomized controlled trial”

 評価の低かったAI作成タイトルの例
“Top ten reasons for repeated failed carjacking: a retrospective observational study” 
“Using the stethoscope as a lie detector”

BMJのクリスマス論文は元々かなり突き抜けたテーマが多いので、AIのつくったタイトルもかなりクセのあるものになっています

2022年

Direct Uptake of Nutrition and Caffeine Study (DUNCS): biscuit based comparative study
Ceri Jones, John Francis
BMJ. 2022 Dec 19;379:e072839. doi: 10.1136/bmj-2022-072839.

休憩時間の紅茶に合うビスケットの条件を検討した研究

4種のビスケットのうち、オーツ麦のビスケットが浸したときに紅茶を冷ます効果、栄養面などで総合的に最も適していた

英国のティータイムにかける情熱が伝わりました。


Everything causes cancer? Beliefs and attitudes towards cancer prevention among anti-vaxxers, flat earthers, and reptilian conspiracists: online cross sectional survey
Sonia Paytubi, Yolanda Benavente, Alexandra Montoliu et al.
BMJ. 2022 Dec 21;379:e072561. doi: 10.1136/bmj-2022-072561.

ワクチン反対派や陰謀論者たちのをがん予防に関する意識を調査した研究

がんの原因になりうる因子に関して、対照群と比較して科学的根拠のあるもの(喫煙や家族歴)に対する認識が低く、根拠のないもの(添加物やストレス)に対する認識が高かった

少しコメントしにくいですが、情報が正しく伝わることを期待します。

2023年

Effect of chair placement on physicians’ behavior and patients’ satisfaction: randomized deception trial
Ruchita Iyer, Do Park, Jenny Kim et al.
BMJ. 2023 Dec 15:383:e076309. doi: 10.1136/bmj-2023-076309.

病室でベッドサイドに椅子を置いておくことの効果を検証した研究

椅子に座って診察する医者が増え(OR 20.7, 95% CI 7.2-59.4; P<0.001)、患者満足度が向上した

特に長く問診するときなど、立っているのは威圧感があるので、座った方が良いと思います。


Common Healthcare Related Instruments Subjected To Magnetic Attraction Study (CHRISTMAS): prospective in situ experimental study
Shao J Ong, Koon Liang Chia, Teik Choon See et al.
BMJ. 2023 Dec 21:383:e077164. doi: 10.1136/bmj-2023-077164.

病院で扱う道具に対するMRIの影響を検証した研究

ナイフ、ティースプーン、フォーク、スプーン、コインは人体を模したゼラチンを貫通した

iphoneはMRI後も機能していた

金属製の道具をMRI室に持ち込むと危険、という論文です。

ホームページに動画もあるので、ぜひ見てみてください。


Association of health benefits and harms of Christmas dessert ingredients in recipes from The Great British Bake Off: umbrella review of umbrella reviews of meta-analyses of observational studies
Joshua D Wallach, Anant Gautam, Reshma Ramachandran et al.
BMJ. 2023 Dec 20:383:e077166. doi: 10.1136/bmj-2023-077166.

ブリティッシュ・ベイクオフ(英国の料理番組)で取り上げられたクリスマスのデザートに使われる食材の健康への有用性を検討した論文

ブリティッシュ・ベイクオフは人気の料理番組で、わたしもいくつか観たことがあります。

ただ単に食材の影響をレビューするだけでなく、テレビ番組にこじつけているところにユーモアがありますね。


Efficacy of cola ingestion for oesophageal food bolus impaction: open label, multicentre, randomised controlled trial
E G Tiebie, E P Baerends, T Boeije et al.
BMJ. 2023 Dec 11:383:e077294. doi: 10.1136/bmj-2023-077294.

食道に食物がつまった患者に対してコーラで改善するか検討したRCT

コーラで有意な改善はみられなかった

RCTとして行ったのがおもしろいです。

説明を受けた時の患者さんの反応が気になります。

まとめ

BMJのおもしろ論文を紹介しました。

2023年はかなりの豊作で、ここに挙げていない論文もおもしろいのでチェックしてみてください。

また来年が楽しみですね。

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