- 現時点では48~72時間毎の定期入れ替えが推奨されている
- 必要時入れ替えの方が合併症リスクが高い
血管内カテーテルは長期間の留置で合併症、特にカテーテル関連血流感染(CRBSI)が問題になります。
2011年のCRBSI予防に関するCDCガイドランでは末梢静脈カテーテルについて以下のように述べられています。
(O’Grady NP et al. Clin Infect Dis. 2011; 52: e162-93)
感染・静脈炎を減らすために72~96時間の間隔よりも頻繁に入れ替える必要はない
臨床的に必要な場合の入れ替えに関するエビデンスは不十分
これを踏まえて、一般的には72~96時間で入れ替えるルールにしていることが多いと思います。
このガイドラインは他項目はしばしば改訂されていますが、末梢静脈カテーテルについては2011年当時から変わっていません。
発表から10年も経っており、新たな知見がないのか気になりますよね。
今回はガイドライン以降に報告された末梢静脈カテーテルの留置期間に関するエビデンスを紹介します。
末梢静脈カテーテルの合併症は?
まずは、末梢静脈カテーテルの合併症や頻度に関する報告をまとめました。
Incidence of peripheral intravenous catheter failure among inpatients: variability between microbiological data and clinical signs and symptoms
Ian Blanco-Mavillard, Miguel Ángel Rodríguez-Calero, Joan de Pedro-Gómez et al.
Antimicrob Resist Infect Control. 2019 Jul 22;8:124. doi: 10.1186/s13756-019-0581-8.
スペインの市中病院で、末梢静脈カテーテルを抜去した全例でPIVC failureを評価し先端培養を施行
41.8% (297/711例)でPIVC failureと判断された
閉塞:6.2% (44/711例)
静脈炎:15.0% (107/711例)
位置異常:1.5% (11/711例)
血管外漏出:18.3% (130/711例)
感染疑い:0.7% (5/711例)
5.8% (41/711例)で培養陽性となった
そのうち53.6% (22/41例)で感染を示唆する局所所見がみられた
The risk of bloodstream infection in adults with different intravascular devices: a systematic review of 200 published prospective studies
Dennis G Maki, Daniel M Kluger, Christopher J Crnich.
Mayo Clin Proc. 2006 Sep;81(9):1159-71. doi: 10.4065/81.9.1159.
デバイス毎のCRBSIの発症率に関するシステマティックレビュー
末梢静脈カテーテル:0.5/1,000 PVC days
中心静脈カテーテル:2.7/1000 CVC days
動脈カテーテル:1.7/1000 CVC days
Six-year multicenter study on short-term peripheral venous catheters-related bloodstream infection rates in 727 intensive care units of 268 hospitals in 141 cities of 42 countries of Africa, the Americas, Eastern Mediterranean, Europe, South East Asia, and Western Pacific Regions: International Nosocomial Infection Control Consortium (INICC) findings
Víctor Daniel Rosenthal, Ider Bat-Erdene, Debkishore Gupta et al.
Infect Control Hosp Epidemiol. 2020 May;41(5):553-563. doi: 10.1017/ice.2020.20.
発展途上国から先進国を含む42ヵ国268病院のICUにおける末梢静脈CRBSIを評価
中心静脈カテーテルのない患者での血液培養陽性で、臨床的に末梢静脈CRBSIと判断
発症率は2.41/1,000 PVC daysであった
末梢静脈カテーテルの合併症は感染だけでなく閉塞や血管外漏出などもあります。
それらは頻度は高いもののカテーテル抜去で解決するため、やはり感染症が問題となります。
血流感染に関して、中心静脈カテーテルや動脈カテーテルに比べるとリスクは低い傾向がありそうです。
ただし、発展途上国を含む研究で頻度が高いことを鑑みると、管理次第では十分高いリスクになりうると考えられます。
末梢静脈カテーテル入れ替えのタイミングは?
それでは、末梢静脈カテーテルの入れ替えに関する最近の知見を紹介します。
CDCガイドラインにもあるように、72~96時間程度での定期の入れ替え、もしくは臨床的に問題が生じた際の入れ替えで比較されることが多いです。
Clinically-indicated replacement versus routine replacement of peripheral venous catheters
Joan Webster, Sonya Osborne, Claire M Rickard et al.
Cochrane Database Syst Rev. 2019 Jan 23;1(1):CD007798. doi: 10.1002/14651858.CD007798.pub5.
2019年に更新されたCochraneのMeta-analysis
臨床的に必要時の入れ替えと定期(72~96時間毎)の入れ替えを比較
CRBSI、血栓性静脈炎の発症に明らかな差はみられなかった
血管外漏出、閉塞は定期の入れ替えで少なかった
血管外漏出:RR 1.16 (95% CI 1.06-1.26)
閉塞:RR 1.14 (95% CI 1.01-1.29)
The RESPECT trial-Replacement of peripheral intravenous catheters according to clinical reasons or every 96 hours: A randomized, controlled, non-inferiority trial
P Vendramim, A F M Avelar, C M Rickard et al.
Int J Nurs Stud. 2020 Jul;107:103504. doi: 10.1016/j.ijnurstu.2019.103504.
ブラジルの2病院で1319患者を対象とした、必要時入れ替えと96時間毎の定期入れ替えを比較したRCT
静脈炎の発症率に関して必要時入れ替えは定期入れ替えに対して非劣勢であった
The safety of clinically indicated replacement or routine replacement of peripheral intravenous catheters: A randomized controlled study
Huapeng Lu, Qinling Yang, Hilal Mohamed Nor et al.
J Vasc Access. 2021 Mar 12;1129729821998528. doi: 10.1177/1129729821998528.
中国の病院で60患者を対象とした、必要時入れ替えと96時間毎の定期入れ替えを比較したRCT
必要時入れ替えの方が定期入れ替えよりも合併症が有意に多かった
静注失敗:RR 4.448, 95% CI 3.158-6.265, p < 0.001
静脈炎:RR 2.416, 95% CI 1.595-3.660, p < 0.001
閉塞:RR 6.610, 95% CI 3.062-14.268, p < 0.001
血管外漏出:RR 2.607, 95% CI 1.130-6.016, p = 0.020
位置異常:RR 2.027, 95% CI 1.868-2.200, p = 0.013
挿入部の疼痛:RR 2.521, 95% CI 1.742-3.649, p < 0.001
Comparison of Routine Replacement With Clinically Indicated Replacement of Peripheral Intravenous Catheters
Niccolò Buetti, Mohamed Abbas, Didier Pittet et al.
JAMA Intern Med. 2021 Nov 1;181(11):1471-1478. doi: 10.1001/jamainternmed.2021.5345.
スイスの大学病院が主体となり、412,631の末梢静脈カテーテルについて、定期入れ替え、必要時入れ替えの期間を設けて比較
必要時入れ替えの方が血流感染の頻度が有意に高かった
IRR 7.20; 95%CI 3.65-14.22; P < .001
必要時入れ替え、定期入れ替えはCochraneレビューで有意差が出ていません。
ただし、JAMA Intern Medの比較的大規模なstudyで必要時入れ替えに関してnegativeな結果が出ており、今のところは定期入れ替えの方が良いかもしれません。
まとめ
静脈カテーテルの入れ替えタイミングについてまとめました。
現時点では48~72時間毎の定期入れ替えが勧められており、必要時入れ替えの方が感染リスクが高いという報告がでています。
閉塞や漏出など患者さんの症状として強くないものであれば、許容しながら必要に応じて入れ替える方法でもよいかもしれませんが、可能な限り定期で入れ替えたほうが安全と思われます。
- 現時点では48~72時間毎の定期入れ替えが推奨されている
- 必要時入れ替えの方が合併症リスクが高い