蜂窩織炎はcommonな感染症の一つですが、血液培養の陽性率が低いことが知られています。
ルーチンでの血液培養は採取されない先生方もいらっしゃると思います。(わたしは出たらラッキーと思ってほぼルーチンです)
そのため起炎菌の確定が難しく、治療に難渋した場合に抗菌薬が当たっていないのか他の原因(DVTなど)なのか悩むことが良くあります。
また、近年MRSAが増えてきており、MRSAカバーを追加するかどうかが蜂窩織炎に対する抗菌薬選択のポイントの一つだと思います。
今回は、血液培養以外の方法で起炎菌を推定できないか、特にレンサ球菌と黄色ブドウ球菌を区別出来ないか調べてみました。
蜂窩織炎の起炎菌は?
まずは一般的な蜂窩織炎の起炎菌をまとめました。
A systematic review of bacteremias in cellulitis and erysipelas
Craig G Gunderson, Richard A Martinello et al.
J Infect. 2012 Feb;64(2):148-55. doi: 10.1016/j.jinf.2011.11.004.
19研究の血液培養で陽性は7.9% (125/1578)
A群レンサ球菌:19% (24/125)
非A群β溶血性レンサ球菌:38% (48/125)
黄色ブドウ球菌:14% (17/125)
グラム陰性菌:28% (35/125)
その他:2% (2/125)
High Yield of Blood Cultures in the Etiologic Diagnosis of Cellulitis, Erysipelas, and Cutaneous Abscess in Elderly Patients
Tomohiro Taniguchi, Sanefumi Tsuha, Soichi Shiiki et al.
Open Forum Infect Dis. 2022 Jun 24;9(7):ofac317. doi: 10.1093/ofid/ofac317.
日本の単施設(沖縄県立中部病院)で蜂窩織炎・丹毒・皮下膿瘍の症例の血液培養を検討
全体の21.7% (48/221)で血液培養陽性であった
65歳以上での培養陽性率が高かった (P = .013)
<65歳:8.5% (4/47)
≥65歳:25.3% (44/174)
S. dysgalactiaeが最多(62.5%)、次いでS. agalactiae(16.7%)の検出が多かった
年齢、抗菌薬使用、悪寒戦慄、WBC≥13,000/µL、重症感染症が培養陽性と関連していた
Cellulitis: current insights into pathophysiology and clinical management
D R Cranendonk, A P M Lavrijsen, J M Prins et al.
Neth J Med. 2017 Nov;75(9):366-378.
各種培養毎の起炎菌の検出率
非典型的な起炎菌と背景
蜂窩織炎の起炎菌は一般的にレンサ球菌や黄色ブドウ球菌が多いと言われていますが、血液培養の陽性率は高くなく10%未満です。
ただし、国内の報告では高齢者で陽性率が高いため、血液培養は積極的に採取してもよいと考えます。
多くの症例ではペニシリン系・第1世代セファロスポリン系抗菌薬での治療が奏功することから、血液培養が陰性でもそれらの細菌が起炎菌であることが多いのだと思います。
研究によっては皮膚のスワブ検体などを参考にしていることもありますが、常在菌を検出している可能性もあり真の起炎菌と言えるかは微妙なところです。
患者背景や細菌のエントリーを疑うエピソードによってはグラム陰性桿菌など稀な細菌を想起する必要があります。
- 蜂窩織炎の起炎菌はレンサ球菌や黄色ブドウ球菌が多い
- 患者背景や病歴によってはグラム陰性桿菌などを想起する
身体所見
それでは、血液培養に頼らずに起炎菌を推定することはできるのでしょうか?
まずは身体所見に関する報告をまとめました。
リンパ浮腫
Clinical features, microbiological epidemiology and recommendations for management of cellulitis in extremity lymphedema
Jose R Rodriguez, Frank Hsieh, Ching-Tai Huang et al.
J Surg Oncol. 2020 Jan;121(1):25-36. doi: 10.1002/jso.25525.
リンパ浮腫に合併した蜂窩織炎131例を評価
血液培養陽性は11.4% (9/79)で、そのうち55.6% (5/9)でStreptococcus agalactiaeが検出された
Prevalence and Epidemiological Factors Involved in Cellulitis in Korean Patients With Lymphedema
Sae In Park, Eun Joo Yang, Dong Kyu Kim et al.
Ann Rehabil Med. 2016 Apr;40(2):326-33. doi: 10.5535/arm.2016.40.2.326.
リンパ浮腫に合併した蜂窩織炎99例を評価
血液培養陽性は12.9% (8/62)で、全てβ溶血性レンサ球菌であった (B群 5例、G群 3例)
リンパ浮腫が蜂窩織炎のリスクになることが知られています。
リンパ浮腫とレンサ球菌の関連が疑われますが、元々レンサ球菌が多いことを反映しているだけかもしれません。
リンパ管炎
Is lymphangitic streaking associated with different pathogens?
Rotem Kimia, Berenika Voskoboynik, Joel D Hudgins et al.
Am J Emerg Med. 2021 Aug;46:34-37. doi: 10.1016/j.ajem.2021.02.055.
爪囲炎から蜂窩織炎を生じた9カ月~20歳の266例を検討
爪囲炎の創部培養で黄色ブドウ球菌が最多であった (MSSA 40%、MRSA 26%)
リンパ管炎の所見(リンパ管の発赤)は8.3% (22/266)でみられたが、リンパ管炎の有無と起炎菌の関連はみられなかった
蜂窩織炎の罹患部位の中枢側にリンパ管の発赤がみられることがありますが、リンパ管炎と起炎菌の関連は検出できていません。
膿瘍
Clinical and microbiological characteristics of purulent and non-purulent cellulitis in hospitalized Taiwanese adults in the era of community-associated methicillin-resistant Staphylococcus aureus
Chun-Yuan Lee, Hung-Chin Tsai, Calvin M Kunin et al.
BMC Infect Dis. 2015 Aug 5;15:311. doi: 10.1186/s12879-015-1064-z.
蜂窩織炎465例を非膿性(369例)、膿性(96例)に分けて比較
血液・創部培養、血清学的検査を基に、45.4 % (211/465)で起炎菌が決定された
非膿性例ではβ溶血性レンサ球菌が最も多かった (70.2% [92/131])
膿性例では黄色ブドウ球菌が最も多かった (60.0% [48/80])
Point-of-Care Ultrasonography for the Diagnosis of Skin and Soft Tissue Abscesses: A Systematic Review and Meta-analysis
Michael Gottlieb, Jacob Avila, Mark Chottiner et al.
Ann Emerg Med. 2020 Jul;76(1):67-77. doi: 10.1016/j.annemergmed.2020.01.004.
Point of care超音波検査は、膿瘍の診断に関して感度 94.6% (95% CI 89.4-97.4%)、特異度 85.4% (95% CI 78.9-90.2%)、陽性尤度比6.5 (95% CI 4.4-9.6) 陰性尤度比 0.06 (95% CI 0.03-0.13)
有用な身体所見で唯一といってもよいのが膿瘍形成の有無です。
膿瘍がみられる場合は黄色ブドウ球菌が起炎菌である可能性が高く、初期治療としてセファロスポリン系、場合によっては抗MRSA薬が勧められます。
身体所見ではありませんが、膿瘍の検出にはエコーが有用です。
- 膿瘍形成がみられた場合は黄色ブドウ球菌が起炎菌である可能性が高い
検査
次に起炎菌の推定に有用化もしれない検査についてまとめました。
ASO
The role of beta-hemolytic streptococci in causing diffuse, nonculturable cellulitis: a prospective investigation
Arthur Jeng, Manie Beheshti, John Li et al.
Medicine (Baltimore). 2010 Jul;89(4):217-226. doi: 10.1097/MD.0b013e3181e8d635.
蜂窩織炎179例を検討
73% (131/179)で血清学的(ASO+ and/or ADB+ 126例)、血液培養(B群レンサ球菌 5例)でβ溶血性レンサ球菌(BHS)が起炎菌と判断された
BHS症例では97% (71/73)でβラクタムに反応性があった
非BHS症例でも91% (21/23)でβラクタムに反応性があった
※83% (80/96)でセファゾリンが投与されていた
Evidence of streptococcal origin of acute non-necrotising cellulitis: a serological study
M Karppelin, T Siljander, A-M Haapala et al.
Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2015 Apr;34(4):669-72. doi: 10.1007/s10096-014-2274-9.
非壊死性の蜂窩織炎77例でASOを測定
69% (53/77)でASO陽性であった
コントロールの11% (10/89)でASO陽性だった
ASO陽性群のうち、ペニシリンで治療された症例の25% (6/24)で抗菌薬変更を要した
Suppression of the antistreptolysin O response by cholesterol and by lipid extracts of rabbit skin
E L Kaplan, L W Wannamaker.
J Exp Med. 1976 Sep 1;144(3):754-67. doi: 10.1084/jem.144.3.754.
Streptolysin Oに対する皮膚脂肪抽出物、コレステロールの影響を調べたラビットを用いた研究
ASOの産生はStreptolysin O+生食でStreptolysin O+皮膚抽出物/コレステロールよりも有意に高かった
Streptolysin Oによる溶血は他臓器(心臓・肺・脾臓・腎臓・肝臓)よりも皮膚抽出物で強く阻害された
ASO(anti-streptolysin‐O antibody)はA群・C群・G群レンサ球菌の産生する溶血毒素に対する中和抗体で、ADB (anti-DNAase-B antibody)はA群レンサ球菌に特異性が高い検査です。
いずれかが陽性であれば起炎菌としてレンサ球菌が示唆され、蜂窩織炎に関する多くの研究では血清学的検査を基にレンサ球菌が起炎菌と判断しています。
ただし、陽性例でもペニシリンでの治療失敗がみられ、必ずしも正確な検査とは言えません。
また、感度もそれほど高くなく、皮膚のコレステロールの影響でASOの産生が低下するためと考えられます。
MRSAスクリーニング
Role of nasal swab culture in guiding antimicrobial therapy for acute cellulitis in the era of community-acquired methicillin-resistant Staphylococcus aureus: A prospective study of 89 patients
Meng-Shiuan Hsu, Chun-Hsing Liao, Chi-Tai Fang et al.
J Microbiol Immunol Infect. 2019 Jun;52(3):494-497. doi: 10.1016/j.jmii.2019.04.001.
蜂窩織炎89例で鼻腔の黄色ブドウ球菌スクリーニングを評価
17% (15/89)で黄色ブドウ球菌の定着があり、12.4% (11/89)がMSSA、4.5% (4/89)がMRSAであった
MRSA定着例では治療反応遅延(25% [1/4] vs 18% [15/82])、膿瘍形成(50% [2/4] vs 27% [22/82])の傾向がみられた
24例で膿瘍形成があり、2例でMRSAが検出された
鼻腔MRSAスクリーニングはMRSAによる膿瘍形成例に関して感度 20%、特異度 95%であった
MRSAスクリーニング陽性で特に膿瘍形成がみられる症例では、他の培養結果が出る前にMRSAカバーを検討すべきだと思います。
- ASO陽性であればレンサ球菌が示唆される
- MRSAスクリーニング陽性であれば抗MRSA薬を検討する
まとめ
蜂窩織炎の起炎菌の推定についてまとめました。
血液培養の陽性率が低く結果的に起炎菌がわからないことが多いですが、身体所見や検査を組み合わせて抗菌薬を選択してみましょう。