Nephrology

造影剤腎症とは?予防はどうする?

Answer

造影剤によって腎障害が起こることはよく知られています。

いわゆる“造影剤腎症”の定義や病態、予防に関してまとめました。

造影剤腎症とは?

はじめに、造影剤腎症の定義や病態について確認しましょう。

定義

Use of Intravenous Iodinated Contrast Media in Patients With Kidney Disease: Consensus Statements from the American College of Radiology and the National Kidney Foundation
Matthew S Davenport, Mark A Perazella, Jerry Yee et al.
Kidney Med. 2020 Jan 22;2(1):85-93. doi: 10.1016/j.xkme.2020.01.001.

米国放射線学会と全米腎臓財団による腎疾患での造影剤使用に関するコンセンサス・ステートメント

造影剤関連急性腎障害(Contrast-associated acute kidney injury)
造影剤投与後48時間以内に生じた腎障害をすべて含んだ用語

造影剤誘発性急性腎障害(Contrast-induced acute kidney injury)
造影剤投与との因果関係が証明された腎障害
臨床的には証明し難く、コントロール群との比較試験でのみ証明できる


KDIGO clinical practice guidelines for acute kidney injury
Arif Khwaja
Nephron Clin Pract. 2012;120(4):c179-84. doi: 10.1159/000339789.

KDIGO(Kidney Disease:Improving Global Outcomes)によるAKIの定義
48時間以内に血清Cr > 0.3 mg/dLの上昇
血清Crがそれ以前7日以内の値より> 1.5倍の上昇
尿量が 6 時間にわたって < 0.5 mL/kg/h


A comparison between different definitions of contrast-induced acute kidney injury for long-term mortality in patients with acute myocardial infarction
Li Lei, Yan Xue, Zhaodong Guo et al.
Int J Cardiol Heart Vasc. 2020 Apr 30;28:100522. doi: 10.1016/j.ijcha.2020.100522.

中国で血管造影検査を受けた心筋梗塞患者1300人について、造影剤腎症の基準による予後の違いを検討した研究

造影剤腎症の定義
CI-AKIA: 72時間以内に血清Cr 50%以上もしくは0.3 mg/dL以上の上昇
※KDIGO基準と同等
CI-AKIB: 72時間以内に血清Cr 0.5 mg/dL以上の上昇
CI-AKIC: 72時間以内に血清Cr 25%以上の上昇

人口寄与危険度はCI-AKIAで最も高かった
※人口寄与危険度: 一般人口からその危険因子が除去され た場合、どれくらい病気が減少するか


実は、最近の研究では“造影剤腎症(Contrast-induced nephropathy)”という用語はあまり使われないようです。

ただ、“造影剤関連~”や“造影剤誘発性~”とすると長いので、“造影剤腎症”って使いやすいですよね。
この記事でも“造影剤腎症”を使います。

腎障害の基準はKDIGO基準がよく使われていると思いますが、実際に有用な基準のようです。

病態

Contrast-Associated Acute Kidney Injury
Roxana Mehran, George D Dangas, Steven D Weisbord
N Engl J Med. 2019 May 30;380(22):2146-2155. doi: 10.1056/NEJMra1805256.

NEJMの造影剤腎症に関するレビュー

造影剤腎症の病態は完全には明らかにされていないが、以下のように提唱されている

直接障害
尿細管上皮細胞に対する毒性により、機能障害・アポトーシス・ネクローシスが生じる

間接障害
血管作動物質(エンドセリン・NO・プロスタグランジンなど)による血管収縮に伴う虚血が生じる

血行動態の作用
血液粘度の上昇による微小循環血流量の減少や、浸透圧変化に伴う赤血球可塑性の阻害で微小血栓が生じやすくなる


造影剤腎症の病態は、尿細管上皮の障害と虚血に大別されます。

  • 造影剤使用後72時間以内に血清Cr 50%以上もしくは0.3 mg/dL以上の上昇で造影剤腎症とされる
  • 造影剤腎症の病態は、主に尿細管上皮の障害と虚血による

造影剤腎症の予防は?

輸液

現在のガイドラインでは、腎障害のある患者に対して造影剤使用時の輸液がすすめられています。

多くの病院で輸液が行われていると思いますし、当院でも腎機能に合わせた輸液プロトコルがあります。

しかし、造影剤腎症の予防に関してどのタイミングで、そのくらい輸液をするのか、確定的なものがないのが実状です。

最近では、輸液が必要ないのでは?という研究結果も報告されています。

造影剤使用時の輸液に関して、代表的な研究を紹介します。


A randomized prospective trial to assess the role of saline hydration on the development of contrast nephrotoxicity
Hariprasad S Trivedi, Harold Moore, Samer Nasr et al.
Nephron Clin Pract. 2003 Jan;93(1):C29-34. doi: 10.1159/000066641.

冠動脈造影を受ける患者に対して輸液の効果を検証したRCT

輸液プロトコル
Group 1: 生理食塩水 1mL/kg/hを12時間前から開始し計24時間
Group 2: 制限なしの飲水

Group 1で急性腎障害の発症が有意に少なかった
Group 1: 3.7%(1/27)
Group 2: 34.6%(9/26)


Prophylactic hydration to protect renal function from intravascular iodinated contrast material in patients at high risk of contrast-induced nephropathy (AMACING): a prospective, randomised, phase 3, controlled, open-label, non-inferiority trial
Estelle C Nijssen, Roger J Rennenberg, Patty J Nelemans et al.
Lancet. 2017 Apr 1;389(10076):1312-1322. doi: 10.1016/S0140-6736(17)30057-0.

eGFR 30~59 mL/min/1.73m2の患者に対する予防的生理食塩水の効果を検証した研究

輸液プロトコル
通常: 生理食塩水 3~4 mL/kg/hを造影剤投与前後4時間ずつ
心・腎不全: 生理食塩水 1 mL/kg/hを造影剤投与前後12時間ずつ

輸液の有無に関わらず、造影剤腎症の発症率に有意差はなかった
非輸液群: 2.6%(8/307)
輸液群: 2.7%(8/296)


Outcomes after Angiography with Sodium Bicarbonate and Acetylcysteine
Steven D Weisbord, Martin Gallagher, Hani Jneid et al.
N Engl J Med. 2018 Feb 15;378(7):603-614. doi: 10.1056/NEJMoa1710933.

血管造影を受ける患者(eGFR 15~44.9 mL/min/1.73m2 or 45~59.9mL/min/1.73m2)に対し、1.26% 炭酸水素ナトリウム(Na 150 mmol/L)or 生理食塩水(Na 154 mmol/L)とアセチルシステイン or プラセボの4群を比較したRCT

輸液プロトコル
造影前: 1~3 mL/kg/hを1~12時間投与、計3~12 mL/kg
造影中: 1~1.5 mL/kg/h
造影後: 1~3 mL/kg/hを2~12時間投与、計6~12 mL/kg

炭酸水素ナトリウムの生理食塩水に対する優位性はみられなかった
炭酸水素ナトリウム群: 4.4%(110/2511)
生理食塩水群: 4.7%(116/2482)


Effect of No Prehydration vs Sodium Bicarbonate Prehydration Prior to Contrast-Enhanced Computed Tomography in the Prevention of Postcontrast Acute Kidney Injury in Adults With Chronic Kidney Disease: The Kompas Randomized Clinical Trial
Rohit J Timal, Judith Kooiman, Yvo W J Sijpkens et al.
JAMA Intern Med. 2020 Apr 1;180(4):533-541. doi: 10.1001/jamainternmed.2019.7428.

造影CTを受けるstage 3 CKD患者に対する輸液の効果を評価したRCT

輸液プロトコル
造影前に1.4%炭酸水素ナトリウム 250 mLを1時間で投与

輸液の有無に関わらず、造影剤腎症の発症率に有意差はなかった
非輸液群: 2.7%(7/262)
輸液群: 1.5%(4/261)


今後の研究によっては腎機能など測定の条件下では輸液が不要とされるかもしれません。

また、尿アルカリ化による腎障害の軽減を期待して炭酸水素ナトリウムも使用されていますが、これについては生理食塩水に対する優位性は乏しいようです。

内服薬

Outcomes after Angiography with Sodium Bicarbonate and Acetylcysteine
Steven D Weisbord, Martin Gallagher, Hani Jneid et al.
N Engl J Med. 2018 Feb 15;378(7):603-614. doi: 10.1056/NEJMoa1710933.

血管造影を受ける患者(eGFR 15~44.9 mL/min/1.73m2 or 45~59.9mL/min/1.73m2)に対し、1.26% 炭酸水素ナトリウム(Na 150 mmol/L)or 生理食塩水(Na 154 mmol/L)とアセチルシステイン or プラセボの4群を比較したRCT

内服プロトコル
アセチルシステイン 1200mgを造影1時間前、1時間後に内服し、その後4日間1日2回内服を継続

アセチルシステインのプラセボに対する優位性はみられなかった


抗酸化作用を期待して、造影剤腎症の予防に様々な薬剤が検討されてきました。

ここで紹介したアセチルシステインを含め、スタチンや漢方薬など、現時点では推奨される内服薬はありません。

  • 造影剤腎症の予防に生理食塩水投与が推奨されるが、今後の研究次第では不要となるかもしれない
  • 造影剤腎症の予防に内服薬の有効性は認められない

まとめ

造影剤腎症についてまとめました。

輸液に関しては、今後さらに具体的なプロトコルや必要性が報告されると思います。

病院で決まったプロトコルがない先生方は、こちらを参考にしてください。

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