- 疾患毎にCracklesのPhaseが異なる
- Early inspiratory crackles
- 肺気腫・慢性気管支炎
- Early-to-mid inspiratory crackles
- 気管支拡張症
- Late inspiratory crackles
- 肺線維症・非定型肺炎
- Pan-inspiratory crackles
- 肺水腫・細菌性肺炎
- 疾患の重症度や経過を評価することもできる
Crackles(ラ音)は、教科書的にはCoarse(湿性)・Fine(乾性)といった、音調・音色で区別することが多いです。
Coarse cracklesは肺水腫や肺炎、Fine cracklesは肺線維症をそれぞれ示唆する所見として有用です。
もう一つのCracklesの分類として、Phaseによる分類があり、これを主体に鑑別している先生も多いと思います。
Phaseによる分類はCracklesが吸気の中のどの時相で聴こえるかに注目した分類で、次の4つに分類されることが多いです。
- Early inspiratory crackles
- Early-to-mid inspiratory crackles
- Late inspiratory crackles
- Pan-inspiratory crackles
それぞれに特徴的な疾患があり、鑑別に役立ちます。
音調・音色による分類よりも、検者間の再現性に優れ(ているような気がする)、4つに分類するため鑑別がより狭めることができます。
わたしも研修医を指導するときはPhaseによる分類を用いることが多いです。
今回はPhaseによるCracklesの分類について解説します。
疾患毎のCracklesのPhaseは?
まずは、Cracklesがどのように分類されるか、研究の発展とともに紹介します。
Inspiratory crackles—early and late
A. R. Nath, L. H. Capel.
Thorax. 1974 Mar; 29(2): 223–227.
Early inspiratory cracklesとLate inspiratory cracklesを区別し定義
Early inspiratory crackles
吸気開始直後から生じ、半分を越えない
Late inspiratory crackles
開始はどこでもよく、半分を越える
Early | Late | |
定義 | 吸気開始直後から生じ、 半分を越えない |
開始はどこでもよく、 半分を越える |
FEV1/VC | 31 % (19-39) | 74 % (58-90) |
疾患 | 慢性気管支炎、喘息、肺気腫 | 間質性肺炎、石綿肺、肺炎、肺水腫、サルコイドーシス |
疾患によるcracklesのphaseの違いについて考察した論文の中でも、閲覧できる範囲ではこれが最も古いものではないかと思います。
EarlyとLateの区別で肺気腫と肺炎の大まかな区別がされるようになりました。
Lung crackle characteristics in patients with asbestosis, asbestos-related pleural disease and left ventricular failure using a time-expanded waveform analysis–a comparative study
N al Jarad, S W Davies, R Logan-Sinclair et al.
Respir Med. 1994 Jan;88(1):37-46. doi: 10.1016/0954-6111(94)90172-4.
石綿肺、左心不全、アスベスト関連胸膜疾患の呼吸音を評価
石綿肺(AS):吸気中~後期(mid-to late-inspiratory)
左心不全(LVF):吸気全体(pan-inspiratory)
アスベスト関連胸膜疾患(ARPD):吸気中~後期(mid-to late-inspiratory)
左心不全のCracklesがPan-inspiratory cracklesと記述されるようになりました。
Crackles in patients with fibrosing alveolitis, bronchiectasis, COPD, and heart failure
P Piirilä, A R Sovijärvi, T Kaisla et al.
Chest. 1991 May;99(5):1076-83. doi: 10.1378/chest.99.5.1076.
疾患毎のCracklesを解析した研究
研究毎の差異はありますが、概ね肺線維症は吸気の後半、気管支拡張症は前半~中間、COPDは前半、心不全は中間~全体にCracklesが聴取されています。
Phasic characteristics of inspiratory crackles of bacterial and atypical pneumonia
Y Norisue, Y Tokuda, M Koizumi et al.
Postgrad Med J. 2008 Aug;84(994):432-6. doi: 10.1136/pgmj.2007.067389.
市中肺炎の呼吸音の違いを検討した研究
評価にあたり、過去の研究を参考にして呼吸音をPhaseの違いで定義
Early | Early-to-mid | Late | Pan |
吸気の始まりと同時に出現し、 半分を越えずに消失 |
吸気の開始直後に出現し、 半分を越えてから消失 |
出現は吸気開始後どこでもよく、 吸気の終わりまで続く |
吸気の始まりと同時に出現し、 吸気の終わりまで続く |
慢性気管支炎 | 気管支拡張症 | 肺線維症 うっ血性心不全早期 |
肺水腫 |
細菌性肺炎ではPan-inspiratory cracklesが多く、非定型肺炎ではLate inspiratory cracklesが多い
細菌性肺炎 (n = 100) |
非定型肺炎 (n = 83) |
p値 | |
Pan-inspiratory | 49 (49.0%) | 5 (6.0%) | <0.0001 |
Late inspiratory | 9 (9.0%) | 28 (33.7%) | <0.0001 |
Early-to-mid inspiratory | 1 (1.0%) | 2 (2.4%) | 0.591 |
Early inspiratory | 0 | 0 | 1.000 |
なし | 41 (41.0%) | 48 (57.8%) | 0.027 |
日本で呼吸音をPhaseで分類している先生方の多くはこれをベースにしていると思います。
わたしもこれを参考にして聴診しています。
実際には音の大きさの変化もあるので、図にすると次のようなイメージになります。
- 疾患毎にCracklesのPhaseが異なる
- Early inspiratory crackles
- 肺気腫・慢性気管支炎
- Early-to-mid inspiratory crackles
- 気管支拡張症
- Late inspiratory crackles
- 肺線維症・非定型肺炎
- Pan-inspiratory crackles
- 肺水腫・細菌性肺炎
さらに一歩進んで・・・
Phaseの違いにより疾患の鑑別だけでなく、疾患の重症度や経過を評価することもできます。
COPD
Inspiratory crackles-early and late-revisited: identifying COPD by crackle characteristics
Hasse Melbye, Juan Carlos Aviles Solis, Cristina Jácome et al.
BMJ Open Respir Res. 2021 Mar;8(1):e000852. doi: 10.1136/bmjresp-2020-000852.
COPDの進行に伴い、Early cracklesの聴取される頻度が高くなる
COPDの診断自体には呼吸音よりも病歴や他の身体所見(Crico-sternum distanceなど)の方が役立ちますが、Early inspiratory cracklesが聴取される時点で1秒率の低下が示唆されます。
間質性肺炎
The acoustic characteristics of fine crackles predict honeycombing on high-resolution computed tomography
Toshikazu Fukumitsu, Yasushi Obase, Yuji Ishimatsu et al.
BMC Pulm Med. 2019 Aug 17;19(1):153. doi: 10.1186/s12890-019-0916-5.
間質性肺疾患でCracklesの開始のタイミングをEarly、Mid、Lateに分類
CTでHoneycombingがみられる群ではほとんどの症例でCracklesはEarlyに開始
Honeycombing (n = 24) |
Non-honeycombing (n = 47) |
p | |
Early / Mid / Late | 20 / 4 / 0 | 12 / 27 / 8 | < 0.001 |
Late inspiratory cracklesが吸気の早期から聴取されるほど、UIPパターンの間質性肺炎や、進行した肺線維症が示唆されます。
細菌性肺炎
Changes in crackle characteristics during the clinical course of pneumonia
P Piirilä.
Chest. 1992 Jul;102(1):176-83. doi: 10.1378/chest.102.1.176.
肺炎の経過の中で呼吸音の変化を評価
発症後5.8±2.3日の1回目と、2.7±1.0日経過した2回目を比較
Cracklesは時間経過で後方に移行
呼吸数、グラム染色などと同様に、Cracklesの変化も肺炎の治療経過の評価に役立ちます。
- 疾患の重症度や経過を評価することもできる
まとめ
CracklesのPhaseによる分類についてまとめました。
CoarseやFineといった違いと併せて評価することで、より正確な鑑別ができます。
また、疾患の経過の評価にも有用なので、是非身に付けてください。
- 疾患毎にCracklesのPhaseが異なる
- Early inspiratory crackles
- 肺気腫・慢性気管支炎
- Early-to-mid inspiratory crackles
- 気管支拡張症
- Late inspiratory crackles
- 肺線維症・非定型肺炎
- Pan-inspiratory crackles
- 肺水腫・細菌性肺炎
- 疾患の重症度や経過を評価することもできる