クレアチンキナーゼ(CK)高値に出会ったらどうしますか?
まずは筋疾患や心疾患を考えることが多いと思います。
ところが、筋力低下などの症状や心筋障害がなく、偶発的なCK上昇がみられることがあります。
今回は、無症候性高CK血症の鑑別の方法について説明し、
内科で時々出会う鑑別をいくつか紹介します。
CKのはたらきや分類は?
そもそもCKとはいったい何でしょうか?
まずはCKが生体内でどんなはたらきをしているのか、どんな種類があるのか解説します。
Relating structure to mechanism in creatine kinase
Michael J McLeish, George L Kenyon.
Crit Rev Biochem Mol Biol. Jan-Feb 2005;40(1):1-20. doi: 10.1080/10409230590918577.
CKはMgATPからホスホリル基がクレアチンへ移動し、ホスホクレアチンとMgADPが生成される反応を触媒する酵素
細胞内のエネルギー変化を仲介するATPはホスホクレアチンからホスホリル基が移動することで生成される
CKは細胞質内・ミトコンドリア内に存在し、ATPの産生・消費に関わる
CKには4つのアイソザイムがある
細胞質型:CK-M(筋型)、CK-B(脳型)
通常CK-MMとCK-BBの2量体で存在する
筋型と脳型のヘテロダイマーがCK-MB
ミトコンドリア型:CK-Miu(ユビキチン型)、CK-Mis(サルコメア型)
通常8量体で存在するが、容易に2量体に分離する
クレアチンキナーゼ (CK), CK-MB, CK-MM
庄司進一.
日本臨床. 2009;67(増刊号8):367-372.
骨格筋にはCK-MMが主に存在する
CK-MBの含まれる割合は白筋より赤筋で高い
心筋はCK-MMとCK-MBからなり、CK-MBの割合は2-68%
心筋の障害で血清CK-MB/CK比は6%以上
脳と平滑筋にはCK-BBのみ
CK-BBは血液脳関門を通過しにくく、血清中で半減期が短いため、中枢神経疾患で血清CK-BBが認められることが少ない
その他の臓器はCK活性が比較的低く、大部分がCK-BB
CKはATPの産生に関わり、生体内でのエネルギーのやり取りに重要な酵素の一つです。
そのため、エネルギー消費の大きい骨格筋に多く分布すると考えられています。CKが上昇している場合に、骨格筋から由来のことが多いのもそのためです。
4種類のアイソザイムがあり、臨床的には心筋障害の評価でCK-MBを測定することが多いと思います。
ミトコンドリア型はミトコンドリア障害をきたす薬剤性高CK血症の由来となることがあります。
- CKは生体内でエネルギーのやりとりに関わる重要な酵素の一つ
- 4つのアイソザイムがある
無症候性高CK血症の鑑別は?
それでは、実際に無症候性高CK血症に出会ったときの考え方を解説します。
無症候性高CK血症に対するアプローチは?
Approach to asymptomatic creatine kinase elevation
Siamak Moghadam-Kia, Chester V Oddis, Rohit Aggarwal.
Cleve Clin J Med. 2016 Jan;83(1):37-42. doi: 10.3949/ccjm.83a.14120.
CKが上昇しているにもかかわらず筋症状・症候が乏しい場合のアプローチに関する論文
異常値の基準を確認
多くの検査室では正規分布を想定して中央95%を正常範囲としているが、実際は非正規分布で高値の方へ偏って分布するため、過剰診断しがち
欧州神経学会連合はCK上昇を正常上限の1.5倍以上と定義
性別・人種により基準値が異なる
運動・労作による上昇を考慮
血清CKは運動後24時間以内に正常上限の30倍まで上昇することがあり、7日間かけて徐々に低下する
無症候の場合は7日後に再検査することが勧められる
ノルウェーの研究では、偶発的に見つかった高CK血症は、3日後に70%が正常範囲であった
非神経筋疾患を評価
再検でも正常上限の1.5倍以上の場合は非神経筋疾患を評価する
神経筋疾患の精査を検討する
非神経筋疾患が除外された場合は神経筋疾患の精査を検討する
欧州神経学会連合は以下の場合に筋生検を推奨している
筋電図で筋症を示唆する所見がみられた場合
CKが正常上限の3倍以上の場合
年齢が25歳未満の場合
運動不耐容の場合
精査で異常がなければ‘特発性高CK血症’と判断
CKは施設の基準値によっては、実際に異常がなくても異常値として表示されることがあります。
また、日常の労作や筋力トレーニングで容易に上昇するため、問診や再検が重要です。
続いて、個人的に見かけることが多い高CK血症の原因として、甲状腺機能低下症と低Na血症を紹介します。
甲状腺機能低下症
Serum creatine kinase and lactate dehydrogenase activities in patients with thyroid disorders
D A McGrowder, Y P Fraser, L Gordon, T V Crawford et al.
Niger J Clin Pract. Oct-Dec 2011;14(4):454-9. doi: 10.4103/1119-3077.91755.
西インド諸島の大学病院内分泌科で甲状腺疾患患者のCKを評価
甲状腺機能低下症ではCK上昇がみられた
想定されるメカニズム
低体温
酵素クリアランスの低下
代謝の低下で生じる筋鞘の膜変化よるCK漏出
低Na血症
Asymptomatic elevation of creatine kinase in patients with hyponatremia
Kareeann S F Khow, Su Y Lau, Jordan Y Z Li et al.
Ren Fail. 2014 Jul;36(6):908-11. doi: 10.3109/0886022X.2014.900600.
低Na血症に高CK血症を合併した32例を評価
心筋障害や痙攣、薬剤性など低Na血症以外にCK上昇の原因がある症例を除外
16例(50%)が利尿薬による低Na血症、9例(28%)が多飲による低Na血症だった
全例で筋痛や筋力低下はなかった
低Na血症の重症度とピークCKの相関はみられなかったが、低Na血症の改善でCKも低下した
想定されるメカニズム
細胞内外の浸透圧不均衡による筋細胞の障害
Na-Ca交換の活性化により細胞内Ca濃度が過剰になることで筋細胞が障害される
どちらも筋症状などなく、CKのみ上昇していることがあり、知らなかった頃は非常に悩んでいました。
もちろん、意識障害や急激なADL低下のために臥床による筋挫滅が起こる、など他の原因で説明できる症例も多く存在します。
甲状腺機能低下や低Naがあっても、他の原因がないか必ず検討するようにしましょう。
最後に、稀にみられる高CK血症の原因としてマクロCK血症を紹介します。
マクロCK血症
Macroenzyme creatine kinase in the era of modern laboratory medicine
Chun-Yu Liu 1, Yi-Chun Lai, Yi-Chi Wu et al.
J Chin Med Assoc. 2010 Jan;73(1):35-9. doi: 10.1016/s1726-4901(10)70019-8.
無症状や症状に見合わないCK上昇、単独・持続するCK上昇ではマクロCK血症を考える
特にCK-MBの測定法が免疫阻害法の場合、心筋障害がない状況でCK-MBが偽性高値を示す場合がある
電気泳動で検出される
Type 1
CKアイソザイム(ほとんどCK-BB)と免疫グロブリン(ほとんどIgGκ軽鎖、たまにIgA、稀にIgM)の200kDa以上の複合体
頻度は0.54%~2.3%と報告されているが、臨床的意義ははっきりしていない
Type 2
ミトコンドリア型CKの300kDa以上のポリマー
入院患者の3.7%でみられると報告されており、重症患者や肝疾患、悪性腫瘍患者でみられることがある
免疫阻害によるCK-MB測定では、CK-Mの阻害抗体を用いることでCK-MM、CK-MB中のMサブユニット活性を阻害し、残存するBサブユニットの活性を測定します。
CK-MBは半分の活性が阻害されますが、血清中のCK-BBが無視できるくらい少ないため、CK-MBの活性が評価できます。マクロCKは阻害抗体で阻害されないため、CK-MBが異常高値となります。
CK-MBの単位がng/mLであればCLIA法などの免疫法やラテックス比濁法ですが、U/Lであれば免疫阻害法かもしれません。
マクロCK血症は稀ではありますが、余計な検査を避けるために知っておくべき鑑別の一つです。
- 無症候性高CK血症鑑別のアプローチ
- 異常値の基準を確認
- 運動・労作による上昇を考慮
- 非神経筋疾患を評価
- 神経筋疾患の精査を検討する
- 精査で異常がなければ‘特発性高CK血症’と判断
まとめ
CKに関して、生物学的な特徴と、無症候性の上昇がみられた場合の鑑別について解説しました。
CK高値がみられた場合、緊急性の高い心疾患が除外できれば、慌てずに再検など評価を進めていきましょう。