CRPは最も多用される検査の一つですが、一部で嫌われることがある検査でもあります。
特に感染症診療においてCRPは使えない、と仰る先生も多いと思います。
そんなCRPですが、産生に関わるメカニズムを理解すれば、診断において役立つこともあります。
また、推移から治療経過を評価できたり、予後予測に使えるという報告もあったりします。
今回は診断の場面でのCRPの使い方を解説します。
CRPはなぜ使いにくいか?
まずはCRPの上昇するメカニズムなど、基礎的なことを通して使いづらいと言われる理由を説明します。
C-reactive protein: a valuable marker of sepsis
Pedro Póvoa.
Intensive Care Med. 2002 Mar;28(3):235-43. doi: 10.1007/s00134-002-1209-6.
急性期反応蛋白のひとつで、肺炎球菌のC多糖を析出させる物質として発見された
IL-6に反応して主に肝臓で産生され、TNF-αやIL-1βも合成に関与する
補体の活性化や微生物の除去に関わる
刺激後4~6時間で上昇し、8時間ごとに倍化し、35~60時間でピークに達する
Gram-negative bacteremia induces greater magnitude of inflammatory response than Gram-positive bacteremia
Ryuzo Abe, Shigeto Oda, Tomohito Sadahiro et al.
Crit Care. 2010;14(2):R27. doi: 10.1186/cc8898.
菌血症ではグラム陽性菌よりもグラム陰性菌の方がCRP、IL-6が高い

Diagnostic utilities of procalcitonin and C-reactive protein for the prediction of bacteremia determined by blood culture
Seri Jeong, Yongjung Park, Yonggeun Cho et al.
Clin Chim Acta. 2012 Nov 12;413(21-22):1731-6. doi: 10.1016/j.cca.2012.06.030.
菌血症が疑われた患者を対象とした後ろ向き研究
CRPは菌血症で非菌血症よりも高値だった
菌血症の中ではグラム陰性桿菌で高値だった

Comparison of C Reactive Protein and Procalcitonin Levels in Cerebrospinal Fluid and Serum to Differentiate Bacterial from Viral Meningitis
José Diego Santotoribio, Juan Francisco Cuadros-Muñoz, Natalia García-Casares.
Ann Clin Lab Sci. 2018 Jul;48(4):506-510..
細菌性髄膜炎とウイルス性髄膜炎の血清CRP値を比較
細菌性:26.0-295.5 mg/L(中央値:177.0)
ウイルス性:1.6-117.8 mg/L(中央値:6.1)
Pitfalls in using serum C-reactive protein to predict bacteremia in febrile adults in the ED
Ching-Chi Lee, Ming-Yuan Hong, Nan-Yao Lee et al.
Am J Emerg Med. 2012 May;30(4):562-9. doi: 10.1016/j.ajem.2011.02.012.
発熱後12時間以内では菌血症、非菌血症、非感染症で有意差はなかった

CRPは炎症で産生されるIL-6に誘導され上昇し、疾患や菌種により程度に差があるものの、疾患特異性は非常に低いです。
発症から上昇するまでにタイムラグがあり、特に発症から早期に受診する救急外来では使いづらいです。
“髄膜炎ではCRPが上昇しにくい”としばしば言われますが、実際は上昇する前に(数時間以内に)重症化するため、CRPで判断するなというメッセージなのだと思います。
- CRPは炎症で上昇するが疾患特異性は低い
- 発症から上昇までにタイムラグがある
CRPはどんなときに役に立つ?
CRPは特異度が低く、上昇しているときに疾患を絞り込むのには向いていません。
反対に、いかにも上昇していそうな、炎症がありそうなときに思ったよりも低値だった場合には鑑別に役立つことがあります。
まず前提として、IL-6が上昇しない=炎症性疾患でない場合には理論上CRPは上昇しません。
(実際には軽度高値のこともありますが・・・)
内分泌性や薬剤性、心因性の発熱がこれにあたります。
ここでは、炎症性疾患であるにもかかわらずCRPが低値になるメカニズムを説明します。
Ⅰ型インターフェロン
Type I interferons in host defence and inflammatory diseases
Mary K Crow, Lars Ronnblom.
Lupus Sci Med. 2019 May 28;6(1):e000336. doi: 10.1136/lupus-2019-000336.
Ⅰ型インターフェロン(IFNα, βなど)のはたらき
樹状細胞の抗原提示細胞への成熟
B細胞・T細胞の生存・活性化・分化
pDCによるIFNの産生
IFNが病態に関わる疾患
SLE、Sjögren症候群、強皮症、筋炎、関節リウマチ、結核、ウイルス感染、HIV、悪性腫瘍
Kikuchi-Fujimoto disease is mediated by an aberrant type I interferon response
Elizabeth Y Li, Jason Xu, Nya D Nelson et al.
Mod Pathol. 2021 Dec 24. doi: 10.1038/s41379-021-00992-7.
菊池病のリンパ節でRNAを評価
非菊池病のリンパ節炎と比べて44の発現亢進遺伝子があり、68%がⅠ型インターフェロンの反応経路に関連していた
Interferon-alpha mediates suppression of C-reactive protein: explanation for muted C-reactive protein response in lupus flares?
Helena Enocsson, Christopher Sjöwall, Thomas Skogh et al.
Arthritis Rheum. 2009 Dec;60(12):3755-60. doi: 10.1002/art.25042.
IFNαはIL-6/ IL-1βによるCRP誘導を抑制する

ウイルス感染や、SLEをはじめとする自己免疫疾患など、”CRPが上昇しにくい疾患”と言われるものの多くはⅠ型インターフェロンが関与していると考えられます。
薬剤
Is initial C-reactive protein level associated with corticosteroid use in lupus erythematosus patients during a bacterial infection episode
Kuo-Cheng Wang, Peng-Huei Liu, Kuang-Hui Yu et al.
Immunol Lett. 2017 May;185:84-89. doi: 10.1016/j.imlet.2017.03.008.
ステロイド、免疫抑制剤を使用しているSLE患者でCRPを評価
感染症は非感染症に比べCRPが有意に高かった (図A)
ステロイド使用でCRPが低い傾向にあった (図B)
ステロイドの用量とCRP値の関連はみられなかった (図D)
免疫抑制剤の有無でCRPに差はなかった (図C)

Measurement of whole body interleukin-6 (IL-6) production: prediction of the efficacy of anti-IL-6 treatments
Z Y Lu, H Brailly, J Wijdenes et al.
Blood. 1995 Oct 15;86(8):3123-31.
IL-6に対する抗IL-6抗体の比率が高いほどCRPが抑制された

ステロイド使用でCRPは比較的低値になります。
抗IL-6抗体(トシリズマブ)を使用している場合は、CRPを誘導するIL-6そのものを阻害するためCRPが上昇しません。
肝硬変
Production of C-reactive protein in Escherichia coli-infected patients with liver dysfunction due to liver cirrhosis
Wan Beom Park, Ki-Deok Lee, Chang Seop Lee et al.
Diagn Microbiol Infect Dis. 2005 Apr;51(4):227-30. doi: 10.1016/j.diagmicrobio.2004.11.014.
肝硬変患者の大腸菌菌血症におけるCRPを評価
非肝硬変に比べ肝硬変ではCRPが低く、肝硬変の重症度と相関した

CRPは主に肝臓で産生されるため、肝臓の合成能が低下した肝硬変では比較的低値になります。
CRPが上昇する場合に比べ、低値になる状況は限られます。
問診・診察で炎症性疾患らしいと思った場合に、CRPが低値だったときはこれらの状況を考えます。
- CRPが低値の場合に以下を考える
- 炎症性疾患でない
- Ⅰ型インターフェロンが関与する病態
- ステロイド、抗IL-6抗体
- 肝硬変
まとめ
CRPの使いどころについてまとめました。
CRPが上昇しているときには炎症がある、以上のことは言えません。
発熱や局所の炎症所見があり、十分な時間が経過したのにCRPが低い場合に診断に役立つことがあります。
もちろん問診や身体診察があって初めて役に立つものですが、診断をサポートする一つの指標にはなるのではないかと思います。
以下にCRPの高低に関わる病態をまとめました。
CRP高値 | CRP低値 |
IL-6 炎症 細菌感染(特にグラム陰性桿菌) 真菌感染症 一部のウイルス感染症 |
Ⅰ型インターフェロン 自己免疫疾患(SLEなど) 慢性感染症(結核など) ウイルス感染症 悪性腫瘍 菊池病 |
薬剤 ステロイド 抗IL-6抗体(トシリズマブ) |
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肝硬変 |