救急外来でめまいを主訴に受診される方って多いですよね。
「めまい」で受診しても内科疾患(起立性低血圧や低血糖など)のこともあり、慣れないうちはとても難しいです。
さらに、急性のめまいを診るときに気を付けなければいけないのが、重篤な疾患、特に脳血管疾患の除外です。
今回は、末梢性・中枢性の鑑別に有用な身体診察を中心に紹介します。
めまいに対するアプローチ
これまでに診察所見を組み合わせた急性めまいに対するアプローチ方法がたくさん報告されています。
特に有名なHINTSも含めて、いくつか紹介します。
TiTrATE
TiTrATE: A Novel, Evidence-Based Approach to Diagnosing Acute Dizziness and Vertigo
David E Newman-Toker, Jonathan A Edlow.
Neurol Clin. 2015 Aug;33(3):577-99, viii. doi: 10.1016/j.ncl.2015.04.011.
TiTrATE
めまいを発症様式(Timing)、誘発性(Triggers)から4パターンに分け、それぞれをさらに(And)診察(Targeted Examination)で鑑別するアプローチ
HINTS
HINTS to diagnose stroke in the acute vestibular syndrome: three-step bedside oculomotor examination more sensitive than early MRI diffusion-weighted imaging
Jonathan A Edlow, David Newman-Toker.
Stroke. 2009 Nov;40(11):3504-10. doi: 10.1161/STROKEAHA.109.551234.
有名なHINTSの原著
脳梗塞リスクのある急性前庭症候群患者で脳梗塞の鑑別に有用な診察を検討
HINTSの3項目が以下の所見のとき、脳梗塞を感度 100%、特異度 96%で検出
Head Impulse test:正常
Nystagmus:側方視で方向交代性眼振
Test of Skew:垂直性の眼位異常
STANDING
STANDING, a four-step bedside algorithm for differential diagnosis of acute vertigo in the Emergency Department
S Vanni, R Pecci, C Casati et al.
Acta Otorhinolaryngol Ital. 2014 Dec;34(6):419-26.
急性めまい症を中枢性、非中枢性に鑑別する診察アプローチ
STANDINGの4項目で、感度 100%、特異度 94.3%
SponTAneous Nystagmus
Direction
head Impulse test
standiNG
症状や身体診察の組み合わせで、かなりの精度で脳梗塞の除外が可能です。
- 身体所見の組み合わせで脳梗塞の除外が可能
身体診察
続いて、上で登場した身体診察について、それぞれ解説します。
眼振
Using the Physical Examination to Diagnose Patients with Acute Dizziness and Vertigo
Jonathan A Edlow, David Newman-Toker.
J Emerg Med. 2016 Apr;50(4):617-28. doi: 10.1016/j.jemermed.2015.10.040.
急速相の方向で表現するが、病的なのは緩徐相の動き
上下左右や回旋の向きは患者から見た方向で表現する
自発眼振・注視性眼振を評価する
生理的極位眼振がみられることがある(※極端な側方注視時の一過性眼振)
方向交代性眼振は中枢性を示唆する
固視は眼振を減弱させるが、中枢性では減弱しないことがある
Alexander’s law: its behavior and origin in the human vestibulo-ocular reflex
D A Robinson, D S Zee, T C Hain et al.
Ann Neurol. 1984 Dec;16(6):714-22. doi: 10.1002/ana.410160614.
Alexanderの法則
1912年にG Alexanderが末梢性前庭疾患を3段階に分類
- 急速相方向の注視でのみ眼振が出現
- 正中視でも眼振が出現
- どの方向を注視していても眼振が出現
以上から「末梢性めまい症で、眼振は急速相方向の注視で増強する」という法則として知られる
HIT
Video head impulse test(vHIT)記録の原理と実際
岩﨑真一.
Equilibrium Res. 2019;78(4):295-301. doi: 10.3757/jser.78.295.
Head Impulse Testの方法と原理
被験者に固定した指標を注視するよう指示した上で、被験者の頭部を急速に10~20°程度、左右方向に回転させる
少なくとも100°/秒を超える急激な頭部運動が不可欠
外側半規管機能が正常であれば、前庭動眼反射が働くため、指標を固視したままでいられる
半規管障害を有する患者では、患側方向へ頭を回転させると、前庭動眼反射が働かず、指標と眼位にずれを生じ、指標をとらえるための急速眼球運動(corrective saccade)が直後に生じる
Video head impulse test
軽量・高速のビデオカメラを使用して、HIT の解析を行う
HIT で出現するcorrective saccade には、頭部が回転している最中に出現するcovert saccade と、頭部が回転した後に出現するovert saccade に分けられる
ベッドサイドのHIT でみられるcorrective saccade は、これらのうちovert saccade だけで,covert saccade は肉眼では観察することが出来ない
ベッドサイドのHIT で、corrective saccade が認められない場合にも、covert saccade が出ている可能性は否定出来ない
covert saccade の有無を知るには、vHIT による記録が有用
Comparison of the Bedside Head-Impulse Test with the Video Head-Impulse Test in a Clinical Practice Setting: A Prospective Study of 500 Outpatients
Chun Wai Yip, Miriam Glaser, Claudia Frenzel et al.
Front Neurol. 2016 Apr 20;7:58. doi: 10.3389/fneur.2016.00058.
ベッドサイドHITとビデオHITの比較
ビデオHITをreferenceとすると、ベッドサイドHITの検査性能は
感度 66.0%、特異度 86.2%、PPV 44.3%、NPV 93.9%
HITが陰性であれば前庭眼反射は正常である可能性が高い
Skew deviation
Skew deviation revisited
Michael C Brodsky, Sean P Donahue, Michael Vaphiades et al.
Surv Ophthalmol. Mar-Apr 2006;51(2):105-28. doi: 10.1016/j.survophthal.2005.12.008.
左右の前庭機能の不均衡により、垂直性の眼位異常が生じる
脳幹梗塞などの後頭蓋窩病変を示唆する
※HINTSでは片眼を交互に覆い、眼位の変化をみる
頭位変換眼振検査
良性発作性頭位めまい症の原著と現況
重野浩一郎.
Equilibrium Res. 2017;76(6):661-673. doi: 10.3757/jser.76.661.
Dix-Hallpike法
後半規管型BPPVの検査法
潜伏期間があり、時に5~6秒になる
眼振は主として回旋性で、方向は下の耳に向かう
水平性眼振も伴い、方向は下の耳に向かう
長くて10秒で急速に増強し、その後急速に減弱する
坐位に戻ると弱いめまいが再び起こり、眼振方向は逆転する
2~3回繰り返すと、しばらく休まない限り眼振はみられなくなる
Head roll test
外側半規管型BPPVの検査法
半規管結石症
向地性水平性眼振
患側耳下での潜伏時間は3秒以内
眼振は強く、急速に増大し次第に減弱する
健側耳下では患側耳下より眼振は弱く、持続は長い
クプラ結石症
背地性水平性眼振
潜伏時間は短く、ある頭位を維持する限り少なくとも1分以上眼振は持続する
患側耳下で弱く、健側耳下で強い
患側下約20度近くでは、耳石塊が固着したクプラが鉛直になるため頭位眼振が消失する
外側半規管型クプラ結石症と中枢性頭位めまい症との鑑別
今井貴夫.
Equilibrium Res. 2018;77(6):592-597. doi: 10.3757/jser.77.592.
方向交代性上向性(背地性)眼振が観察された場合、以下の4つのうち、少なくとも1つに当てはまれば、外側半規管のクプラ結石症でなく中枢性疾患を疑う
方向交代性上向性眼振が不規則である
方向交代性上向性眼振に減衰を認める
臥位にて眼振が観察されないneutral positionが存在しない
座位前後屈にて垂直性眼振が観察される
HINTSで診察する項目やBPPVの診察をまとめました。
眼振はHINTSで評価する「注視で方向交代性」以外にも末梢性・中枢性で性状が異なります。
Head impulse testは専門家の間ではvHITが流行ってきていますが、導入が難しい病院もあると思います。(残念ながら当院にもまだありません・・・)
ただ、通常のHITでも評価はできますし、その他の問診や診察と組み合わせれば末梢性・中枢性の区別はできると思います。
頭位変換で誘発されるめまいは多くの場合BPPVですが、Head roll test(Supine roll test)で背地性眼振がみられた場合、クプラ結石と中枢性の鑑別が必要になります。
- 眼振の性状は末梢性、中枢性で異なる
- Head roll testで背地性眼振がみられた場合、クプラ結石と中枢性を鑑別する
まとめ
急性めまいで有用なアプローチ、診察をまとめました。
ルーチンで評価する簡単な神経所見(運動・感覚・脳神経など)と、ここで紹介した診察を組み合わせれば、かなりの精度で末梢性めまいと診断できると思います。
ただし、複数の診察所見のうち一つでも怪しいと思ったら中枢性を疑って画像検査に進むことをお勧めします。
最後にめまい診療を勉強するのにおすすめの教科書を紹介します。
めまいの専門家がアプローチのしかたや診察法についてわかりやすく解説しています。