- 薬剤熱の機序は5つに分類される
- 体温調節機能の変化
- 薬剤投与に伴う発熱
- 薬理作用に関連した発熱
- 特異体質反応
- 過敏反応
- 入院・外来でみる発熱のうち、薬剤熱は数%程度
- いわゆる「比較3原則」が当てはまらない症例も多い
今回は入院中の発熱や不明熱の原因として問題となる薬剤熱について紹介します。
薬剤熱の機序は?
原因薬剤
Drug fever
Ruchi A Patel, Jason C Gallagher.
Pharmacotherapy. 2010 Jan;30(1):57-69. doi: 10.1592/phco.30.1.57.
多数の薬剤で薬剤熱の報告があるが、抗菌薬、抗痙攣薬、抗不整脈薬やその他の心臓作用薬で頻度が高い
Drug Fever: a descriptive cohort study from the French national pharmacovigilance database
Dominique Vodovar, Christine LeBeller, Bruno Mégarbane et al.
Drug Saf. 2012 Sep 1;35(9):759-67. doi: 10.2165/11630640-000000000-00000.
原因薬剤では抗菌薬が最も多く、次いで神経系作用薬や抗がん剤が多かった
Drug fever: a critical appraisal of conventional concepts. An analysis of 51 episodes in two Dallas hospitals and 97 episodes reported in the English literature
P A Mackowiak, C F LeMaistre.
Ann Intern Med. 1987 May;106(5):728-33. doi: 10.7326/0003-4819-106-5-728.
薬剤開始から発熱までの時間は平均で21日であったが、薬剤毎のばらつきが大きかった
薬剤熱は色々な薬で起こりうるため鑑別が難しいですが、抗菌薬、神経作用薬の頻度が高いです。
薬剤開始から発熱までの時間の違いは、次に説明する機序に関連すると考えられます。
機序
Drug fever
Ruchi A Patel, Jason C Gallagher.
Pharmacotherapy. 2010 Jan;30(1):57-69. doi: 10.1592/phco.30.1.57.
薬剤熱の機序は5つに分類される
体温調節機能の変化
薬剤のもつ熱産生の促進作用や熱放散の阻害作用により体温が上昇する
多くの場合で薬物過量がある
例:レボチロキシン(代謝亢進)、抗コリン薬(発汗低下)、シメチジン(視床下部に作用)、MAO阻害薬(代謝亢進・カテコラミン増加)、交感神経作動薬(末梢血管収縮)
薬剤投与に伴う発熱
製剤に含まれる発熱物質や、製剤の汚染、刺激による静脈炎による発熱
投与中~投与後数時間以内に発熱する
例:アムホテリシンB、ブレオマイシン、セファロスポリン、バンコマイシン、ワクチン
薬理作用に関連した発熱
薬剤が薬効を発揮した結果としての発熱
例:抗がん剤(破壊された細胞由来の発熱物質)、ペニシリン(破壊された菌体のエンドトキシン、Jarisch-Herxheimer反応)、ヘパリン(出血)、ワルファリン(出血)
特異体質反応
遺伝的な素因による発熱
悪性高熱、悪性症候群、溶血反応を含む
例:麻酔薬、クロラムフェニコール、D2受容体アンタゴニスト、メチルドパ、ニトロフラントイン、プリマキン、キニジン、キニン、スルホンアミド
過敏反応
液性免疫反応:薬剤やその分解産物が抗原やハプテンとなり、免疫複合体が形成され発熱を生じる
細胞性免疫反応:リンパ球が産生したリンフォカインがマクロファージを刺激し、発熱を生じる
薬剤熱の機序として最多で、発熱以外の反応(皮疹など)が生じることも多い
再投与で数時間以内に発熱すれば薬剤熱の可能性が高い
例:アロプリノール、抗菌薬、カルバマゼピン、ヘパリン、メチルドパ、フェニトイン、プロカインアミド、キニジン、キニン、スルホンアミド
1~4の機序は決まった薬剤であったり、投与前からある程度想定されたりするため、いわゆる薬剤熱として問題になるのは5の過敏反応だと思います。
- 薬剤熱の原因薬剤では抗菌薬、神経作用薬の頻度が高い
- 薬剤熱の機序は5つに分類される
- 体温調節機能の変化
- 薬剤投与に伴う発熱
- 薬理作用に関連した発熱
- 特異体質反応
- 過敏反応
薬剤熱の特徴は?
頻度
Fever in hospitalized medical patients: characteristics and significance
D H Bor, H J Makadon, G Friedland et al.
J Gen Intern Med. Mar-Apr 1988;3(2):119-25. doi: 10.1007/BF02596115.
米国の病院で入院中の発熱343例のうち、薬剤熱は23例(6.7%)であった
Diagnostic workup for fever of unknown origin: a multicenter collaborative retrospective study
Toshio Naito, Masafumi Mizooka, Fujiko Mitsumoto et al.
BMJ Open. 2013 Dec 20;3(12):e003971. doi: 10.1136/bmjopen-2013-003971.
日本の病院で不明熱として精査された121例のうち、薬剤熱は3例(2.5%)であった
Nosocomial Fever in General Medical Wards: A Prospective Cohort Study of Clinical Characteristics and Outcomes
Parita Dankul, Khemajira Karaketklang, Anupop Jitmuang et al.
Infect Drug Resist. 2021 Sep 21;14:3873-3881. doi: 10.2147/IDR.S328395.
タイの一般内科で入院中の発熱86例のうち、薬剤熱は3例(3.5%)であった
それぞれの研究で母集団は異なりますが、入院・外来でみる発熱のうち、薬剤熱は数%程度のようです。
症候・検査所見
Drug fever: a critical appraisal of conventional concepts. An analysis of 51 episodes in two Dallas hospitals and 97 episodes reported in the English literature
P A Mackowiak, C F LeMaistre.
Ann Intern Med. 1987 May;106(5):728-33. doi: 10.7326/0003-4819-106-5-728.
1959年~1986年の米国の2病院(51例)と、1966年~1986年の英語文献(97例)の薬剤熱計148例を解析
Drug Fever: a descriptive cohort study from the French national pharmacovigilance database
Dominique Vodovar, Christine LeBeller, Bruno Mégarbane et al.
Drug Saf. 2012 Sep 1;35(9):759-67. doi: 10.2165/11630640-000000000-00000.
1986年~2007年の仏国での皮疹を伴わない薬剤熱症例(167例)を解析
薬剤熱では、古典的に以下の特徴があると言われており、これらをまとめて「比較3原則」なんて呼ばれたりもしています。
- 熱のわりに比較的元気
- 比較的徐脈
- 比較的炎症反応低値
臨床ではこれらを参考にすることも多いですが、過去の報告では悪寒まで出現するる頻度も高く、CRP高値も一定数でみられるようです。
また、比較的徐脈もそれほど頻度の高い所見ではありませんが、これは比較的徐脈をどう定義するかによっても変わると思います。
比較的徐脈については以下の記事も参考にしてください。
- 入院・外来でみる発熱のうち、薬剤熱は数%程度
- いわゆる「比較3原則」が当てはまらない症例も多い
まとめ
薬剤熱の機序や特徴についてまとめました。
診断に特異的なものはなく、実際は他の鑑別を除外しながら被疑薬を中止するしかないのが現状です。
- 薬剤熱の機序は5つに分類される
- 体温調節機能の変化
- 薬剤投与に伴う発熱
- 薬理作用に関連した発熱
- 特異体質反応
- 過敏反応
- 入院・外来でみる発熱のうち、薬剤熱は数%程度
- いわゆる「比較3原則」が当てはまらない症例も多い