Infection

便グラム染色の有用性は?

Answer

皆さんは便のグラム染色はしていますか?

便には当然ですが腸内細菌叢がいるため、目的をもって観察しないと評価が非常に難しいです。

便グラム染色では他の検体と同様ですが、主に特定の病原体白血球が評価の対象となります。

今回は便グラム染色の有用性についてまとめました。

病原体の評価

便で評価できる病原体は、腸内細菌叢とある程度区別できる特徴的な形態のものに限ります。

グラム染色で確認しやすいものとして有名なのはCampylobacterGiardiaです。

Campylobacter

Detection of Campylobacter species in faecal samples by direct Gram stain microscopy
Hui Wang, David R Murdoch et al.
Pathology. 2004 Aug;36(4):343-4. doi: 10.1080/0031302042000224575.

842例の下痢便検体を用い、グラム染色と培養でCampylobacter spp.を検出

培養と比較し、グラム染色による検出の精度は感度 89%特異度 99.7%、PPV 97%、NPV 99%


自験例


おそらく便のグラム染色で一番に思い浮かぶのはCampylobacterだと思います。

腸炎の患者さんで鶏肉などの摂食歴に加えて、便グラム染色で特徴的ならせん菌が見えればCampylobacterが原因と考えられます。

ちなみに、便にはCampylobacter以外のらせん菌もいるので注意が必要です。

区別の仕方としては、Campylobacter2-3回の短めのらせんであるのに対し、それ以外(Brachyspiraなど)では長めのらせんと言われています。

Giardia

Comparison of microscopy, real-time PCR and a rapid immunoassay for the detection of Giardia lamblia in human stool specimens
T Schuurman, P Lankamp, A van Belkum et al.
Clin Microbiol Infect. 2007 Dec;13(12):1186-91. doi: 10.1111/j.1469-0691.2007.01836.x.

G. lamblia陽性の103検体と陰性の97検体を用いて検査の精度を評価

検鏡の感度 99%特異度 97%、PPV 97%、NPV 99%であった
※グラム染色ではない


自験例


頻度はCampylobacterほど高くありませんが、Giardiaもグラム染色で確認できます。

ただし、運動を確認したい場合には、染色せずに直接検鏡する必要があります。

腸内細菌叢

Patterns of Gram-stained fecal flora as a quick diagnostic marker in patients with severe SIRS
Kentaro Shimizu, Hiroshi Ogura, Kazunori Tomono et al.
Dig Dis Sci. 2011 Jun;56(6):1782-8. doi: 10.1007/s10620-010-1486-9.

SIRS患者52例の腸内細菌叢をグラム染色で評価
Diverse pattern:複数菌種が多数存在
Single pattern:1菌種が有意に存在
Depleted pattern:菌がほとんど存在しない

多臓器不全による死亡はDiverse pattern (6%)と比較し、Single pattern (52%)、Depleted pattern (64%)で優位に多かった (p<0.05)


最近は腸内細菌叢の全身への影響がよく研究されています。

重症例の腸内細菌叢は、使用している抗菌薬にも左右されそうですが、全身状態も反映しているようです。

  • CampylobacterGiardiaなど特徴的な形態の病原体を確認できる
  • 重症例では腸内細菌叢が予後と関連する

白血球の評価

次は便中の白血球についてです。

他検体では炎症の有無の評価に使われることがありますが、便ではどうでしょうか。


Faecal leucocytes in patients with infectious diarrhoea
T Alvarado.
Trans R Soc Trop Med Hyg. 1983;77(3):316-20. doi: 10.1016/0035-9203(83)90151-7.

急性下痢症376例と健常者50例の便検体を評価
便中白血球は5視野以上で≥2/HPFで陽性と判定

細菌性下痢症(ShigellaCampylobacterSalmonella)では便中白血球の陽性率が高かった

ウイルス、寄生虫、非感染症では便中白血球の陽性率が低かった


Performance assessment of the fecal leukocyte test for inpatients
L A Granville, P Cernoch, G A Land et al.
J Clin Microbiol. 2004 Mar;42(3):1254-6. doi: 10.1128/JCM.42.3.1254-1256.2004.

入院患者205例の便中好中球を評価
粘膜破壊の想定される疾患(Group 1:感染性・炎症性・血便・血管障害)と想定されない疾患(Group 2)に分けて比較

便中好中球 >1/HPFをカットオフとすると、Group 2 (グラフ中の黒棒)について感度 28%、特異度 92%、PPV 67%、NPV 70%であった
※None-Few=0-1/HPF、Occasional-Many=>1/HPF


Is Fecal Leukocyte Test a good predictor of Clostridium difficile associated diarrhea?
Savio Reddymasu, Ankur Sheth, Daniel E Banks.
Ann Clin Microbiol Antimicrob. 2006 Apr 19;5:9. doi: 10.1186/1476-0711-5-9.

CD関連下痢症が疑われた症例の便263検体で白血球とトキシンを評価

便中白血球はGiemsa染色で> 1 WBC/HPFで陽性

トキシン陽性例に対する便中白血球の感度 30 %、特異度 74.9 %、PPV 13.2 %、NPV 89.3 %であった


便中白血球は腸炎以外でも粘膜の破綻があれば出現するため、感度や特異度はあまり高くありません。

それぞれの研究では1-2/HPFをカットオフとしていますが、もっと白血球が多い症例ではより腸炎らしいと言えるのかもしれません。

  • 便中白血球は腸炎以外でも粘膜の破綻があれば出現する

まとめ

便グラム染色の有用性についてまとめました。

特殊な形態をした病原体の評価には有用ですが、白血球の解釈は難しく参考程度にするのが良いと思います。

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