Nephrology

膀胱弛緩後出血の病態は?

Answer

尿閉の解除後に血尿がみられることがあり、これを膀胱弛緩後出血と呼びます。

基本的には経過観察で改善することが多く、臨床的に問題になることはあまりないかもしれません。

今回は膀胱弛緩後出血の機序が気になったので調べてみました。

膀胱弛緩後出血とは?

Hematuria Following Rapid Bladder Decompression
Christopher Gabriel, Jeffrey R Suchard.
Clin Pract Cases Emerg Med. 2017 Oct 18;1(4):443-445. doi: 10.5811/cpcem.2017.9.35803.

尿閉の急速解除後に2-16%で血尿が生じる

典型的には自然に止血し予後良好

カテーテル挿入時の尿

3時間後の尿


膀胱弛緩後出血は尿閉解除後に一定の割合で生じます。

肉眼的血尿のため尿道損傷かと心配になることもありますが、基本的には自然に改善します。

  • 膀胱弛緩後出血は尿閉の急速解除後に一定の割合で生じる
  • 典型的には自然に止血し予後良好

膀胱弛緩後出血の病態は?

それでは膀胱弛緩後出血の病態について考えます。

圧変化による出血

Pathophysiology and management of urinary retention in men
Ahmed Muhammed, Abdulkadir Abubakar.
Arch Int Surg. 2012;2:63-9.

出血は急速な除圧による静脈の充血や破裂によると考えられている


Intravesical pressure changes during bladder drainage in patients with acute urinary retention
J Christensen, P Ostri, C Frimodt-Møller et al.
Urol Int. 1987;42(3):181-4. doi: 10.1159/000281891.

急性尿閉の解除に伴う膀胱内圧の変化を検討

全10例のうち、7例で持続ドレナージ、3例で100 cm3ずつの間欠ドレナージが行われた

ドレナージ前の膀胱内圧は30-48 cmH2O

100 cm3ドレナージされた時点で全例で圧が50%程度低下した


The Effect and Safety of Rapid and Gradual Urinary Decompression in Urine Retention: A Systematic Review and Meta-Analysis
Meng-Yu Wu, Jer-Ruey Chang, Yi-Kung Lee et al.
Medicina (Kaunas). 2022 Oct 13;58(10):1441. doi: 10.3390/medicina58101441.

急性尿閉に対するドレナージの速度に関するMeta-analysis

4研究を組み入れ

急速ドレナージは緩徐ドレナージに比べ血尿のリスクは上がらなかった
RR = 0.91; 95% CI: 0.62 to 1.35; p = 0.642


機序の一つとして急速な圧変化が考えられていますが、ドレナージの速度を変えても血尿のリスクは変わらないようです。

虚血再灌流障害

Current Mechanistic Concepts in Ischemia and Reperfusion Injury
Meng-Yu Wu, Giou-Teng Yiang, Wan-Ting Liao et al.
Cell Physiol Biochem. 2018;46(4):1650-1667. doi: 10.1159/000489241.

虚血再灌流障害の機序
虚血状態で嫌気代謝が誘導され、ATP産生が低下する
チャネルのイオン交換が不全になり、細胞浮腫が生じ、細胞質内の酵素活性が阻害される
ミトコンドリアの障害や電解質の不均衡のため、再灌流時に酸化ストレスが亢進する
ROSによる細胞傷害で細胞死が生じる


Ischemia, Hypoxia and Oxidative Stress in Bladder Outlet Obstruction and Bladder Overdistention Injury
Alex Tong Long Lin, Yung-Shun Juan et al.
Low Urin Tract Symptoms. 2012 Mar;4 Suppl 1:27-31. doi: 10.1111/j.1757-5672.2011.00134.x.

膀胱の過伸展により膀胱血流が減少する

膀胱の減圧により血流が回復し、虚血状態だった膀胱組織に再灌流障害が生じる

ラットを用いた研究で、過伸展した膀胱の減圧後、ROSの増加や脂質過酸化反応が確認された


虚血再灌流も機序として挙げられています。

上の研究でドレナージ前の膀胱内圧は40 cmH2O(≒ 29 mmHg)前後であり、組織灌流圧を考慮すると膀胱組織の虚血はイメージしやすいと思います。

  • 病態として圧変化や虚血再灌流が考えられている
  • ドレナージ速度を変えても出血のリスクは同様

まとめ

膀胱弛緩後出血の病態は圧変化虚血再灌流が考えられていますが、調べた限りでは虚血再灌流の方が論理的であり有力かな、と思います。

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