Nephrology

低Na血症の補正の注意点は?

Answer

低ナトリウム血症は非常にcommonな電解質異常のひとつですが、治療でよく注意されるのがNaの過剰補正です。

特に慢性の低Na血症では脳の浸透圧が低下しており、その状態で血清Na濃度が急上昇すると浸透圧差で細胞が委縮し、橋などに脱髄が生じます。

これが有名な浸透圧脱髄症候群 (osmotic demyelination syndrome: ODS)で、頻度は高くありませんが重篤な合併症です。
(Adrogué H et al. N Engl J Med. 2000 May 25;342(21):1581-9.)

今回は低Na血症の治療で気を付ける点、特にODSを生じないようにする補正速度についてまとめました。

Na補正の目標はどうする?

Na補正の目標は?

低Na血症では数値の補正に目が行きがちですが、補正の目的は症状の緩和、特に脳浮腫による重症な症状(痙攣、意識障害)の予防や改善です。

では、それらの症状の改善にはどのくらい補正すれば十分なのでしょうか?


The treatment of hyponatremia
Richard H Sterns, Sagar U Nigwekar, John Kevin Hix.
Semin Nephrol. 2009 May;29(3):282-99. doi: 10.1016/j.semnephrol.2009.03.002.

低Na血症で痙攣昏睡をきたした過去の症例報告では、4-6 mmol/Lの上昇で症状は改善した


Reversal of transtentorial herniation with hypertonic saline
M A Koenig, M Bryan, J L Lewin 3rd  et al.
Neurology. 2008 Mar 25;70(13):1023-9. doi: 10.1212/01.wnl.0000304042.05557.60.

テント切痕ヘルニアに対し23.4%食塩水で治療した症例の後ろ向き研究

ベースのNaは141±9 mmol/L

血清Na ≥5 mmol/Lの上昇がヘルニアの改善と関連していた (p = 0.001)


低Na血症による痙攣や意識障害など、脳浮腫による症状を抑えるのには4–6 mEq/Lの上昇で十分だと考えられます。

過剰補正の定義は?

反対に補正しすぎた場合に生じるODSですが、どのくらいの過剰補正から生じるのでしょうか?


Adverse Consequences of Overly-Rapid Correction of Hyponatremia
Richard H Sterns.
Front Horm Res. 2019;52:130-142. doi: 10.1159/000493243.

低Na血症の過剰補正に伴うODSに関するレビュー

観察研究ではODSが生じた症例で補正速度が速い傾向があった

ODSのケースシリーズではほとんどの症例で24時間で>8 mEq/LのNa上昇


Treatment of Severe Hyponatremia
Richard H Sterns.
Clin J Am Soc Nephrol. 2018 Apr 6;13(4):641-649. doi: 10.2215/CJN.10440917.

ODSを生じた症例のほとんどでNaの補正は24時間で>10 mEq/L48時間で18mEq/Lであった


過去の報告ではODSを生じた症例では24時間で8 mEq/L以上のNa上昇があったとされており、このあたりが過剰補正のラインとなっています。

これらを踏まえて、各国のガイドラインでは過剰補正を以下のように定義しています。


Diagnosis, evaluation, and treatment of hyponatremia: expert panel recommendations
Joseph G Verbalis, Steven R Goldsmith, Arthur Greenberg et al.
Am J Med. 2013 Oct;126(10 Suppl 1):S1-42. doi: 10.1016/j.amjmed.2013.07.006.

米国のガイドライン

過剰補正の定義
24時間で10-12 mMol/L、48時間で18 mMol/Lを超える場合
高リスク症例では24時間で8 mMol/Lを超える場合


Clinical practice guideline on diagnosis and treatment of hyponatraemia
Goce Spasovski, Raymond Vanholder, Bruno Allolio et al.
Eur J Endocrinol. 2014 Feb 25;170(3):G1-47. doi: 10.1530/EJE-13-1020.

欧州のガイドライン

過剰補正の定義
始めの24時間で10 mMol/L、その後の24時間毎に8 mMol/Lを超える場合


低Na血症の補正は重症でなければ急ぐ必要はなく、重症例であっても症状の改善には4–6 mEq/Lの上昇で十分と言われています。

逆に過剰補正によるODSを防ぐために24時間で8-10mEq/Lを超えないように気を付けましょう。

  • 症状の改善には4–6 mEq/Lの上昇で十分
  • 24時間で8-10mEq/Lを超えるとODSのリスクになる

Na補正で気を付けることは?

過剰補正のリスクは?

ODS自体のリスクが分かればいいのですが、ODSの頻度が少ないため、ほとんどの研究で過剰補正が代替のアウトカムとして扱われています。


Derivation and Validation of a Novel Risk Score to Predict Overcorrection of Severe Hyponatremia: The Severe Hyponatremia Overcorrection Risk (SHOR) Score
Jason D Woodfine, Manish M Sood, Thomas E MacMillan et al.
Clin J Am Soc Nephrol. 2019 Jul 5;14(7):975-982. doi: 10.2215/CJN.12251018.

低Na血症(Na <116mmol/L)に対する過剰補正のリスクスコア

Severe Hyponatremic Overcorrection Risk (SHOR) スコア

過剰補正のリスクは3点未満で0%5点以上で55%であった


Risk factors for overcorrection of severe hyponatremia: a post hoc analysis of the SALSA trial
Huijin Yang, Songuk Yoon, Eun Jung Kim et al.
Kidney Res Clin Pract. 2022 May;41(3):298-309. doi: 10.23876/j.krcp.21.180.

低Na血症の補正に関するRCT(SALSA trial)の事後解析

過剰補正と有意に関連した4因子を抽出しスコア化

NASK (hypoNatremia, Alcoholism, Severe symptoms, and hypoKalemia) スコア

NASKスコアは過剰補正と有意に相関した (OR, 1.41;95% CI, 1.24–1.61; p < 0.01)


いずれのスコアも過剰補正のリスクをよく反映していますが、個人的にはスコアそのものよりも項目を知っておくのが大事だと思います。

特に両者で共通するベースのNaが低値の場合や低K血症の合併、有症状時には、Na再検の頻度を多くするなどの対策が必要です。

状況による目標のまとめ

最後に参考程度に状況に応じた補正の目標についてレビューから抜粋します。


Treatment of Severe Hyponatremia
Richard H Sterns.
Clin J Am Soc Nephrol. 2018 Apr 6;13(4):641-649. doi: 10.2215/CJN.10440917.

  • Na低値、低K血症、有症状は過剰補正のリスクになりやすい
  • 状況や背景疾患により補正の目標に差異がある

まとめ

低Naの補正速度に関してまとめました。

実際にはNaの再検を繰り返しながら輸液の種類や量を調整していくことになります。

こちらの記事ではNa補正の計算式を載せているので参考にしてみてください。

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