- 呼吸器感染症ではSIADHを生じる頻度が高い
- 細菌性肺炎では重症度に相関してADHが上昇する
- レジオネラ症の低ナトリウム血症ではSIADH以外の機序も示唆される
- 結核の病態にバゾプレシンが関与している可能性がある
抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)は低ナトリウム血症の頻度の高い原因の一つです。
SIADH自体もさまざまな背景によって引き起こされますが、呼吸器疾患は重要な鑑別になります。
肺癌であれば腫瘍が異所性に産生するADHとイメージしやすいですが、呼吸器感染症はどうでしょうか?
今回は呼吸器感染症に関連したSIADHについて調べてみました。
呼吸器感染症とSIADHの関連は?
The syndrome of inappropriate antidiuretic hormone secretion: Distribution and characterization according to etiologies
Daniel Shepshelovich, Chiya Leibovitch, Alina Klein et al.
Eur J Intern Med. 2015 Dec;26(10):819-24. doi: 10.1016/j.ejim.2015.10.020.
イスラエルの単施設でSIADHと診断された症例の解析
基準:Na ≤134 mEq/L、尿浸透圧 ≥100 mOsm/kg、尿Na ≥30 mEq/Lかつ他の病態を除外
12.3% (68/555)が呼吸器感染症だった
やはり呼吸器感染症ではSIADHを生じる頻度が高いようです。
統計の手法にもよるかもしれませんが、他の感染症と違い呼吸器感染症で特に頻度が高いのはなぜでしょう?
- 呼吸器感染症ではSIADHを生じる頻度が高い
呼吸器感染症に伴うSIADHの機序は?
肺炎
Pro-atrial natriuretic peptide and pro-vasopressin for predicting short-term and long-term survival in community-acquired pneumonia: results from the German Competence Network CAPNETZ
Stefan Krüger, Santiago Ewig, Jan Kunde et al.
Thorax. 2010 Mar;65(3):208-14. doi: 10.1136/thx.2009.121178.
市中肺炎1740例でMR-proANP (ANPの前駆体フラグメント)、CT-proAVP (AVPの前駆体フラグメント)を測定した研究
MR-proANP、CT-proAVPともに重症度(CRB-65)に相関して高値であった (p<0.0001)
死亡例では生存例に比べMR-proANP、CT-proAVPともに高値であった
多変量解析でMR-proANP、CT-proAVPがそれぞれ死亡と関連がみられた
MR-proANP >102 pmol/l:HR 10.98 (95% CI 6.90-17.47), p<0.0001
CT-proAVP >22.3 pmol/l:HR 6.47 (95% CI 4.69-8.94), p<0.0001
Hyponatremia and anti-diuretic hormone in Legionnaires’ disease
Philipp Schuetz, Sebastian Haubitz, Mirjam Christ-Crain et al.
BMC Infect Dis. 2013 Dec 11;13:585. doi: 10.1186/1471-2334-13-585.
27例のレジオネラ症(抗原陽性例)と873例の市中肺炎でCT-Pro Vasopressin(ADHの前駆フラグメント)を比較
レジオネラ症の方が低ナトリウム血症(Na < 130 mmol/L)の頻度は高かった
44.4% vs 8.2% (p < 0.01)
CT-ProVasopressin (pmol/l)の平均値は同程度だった
39.4 (±7) vs 51.2 (±2.7) (p = 0.43)
Hypothalamic-pituitary-adrenal axis activation and stimulation of systemic vasopressin secretion by recombinant interleukin-6 in humans: potential implications for the syndrome of inappropriate vasopressin secretion
G Mastorakos, J S Weber, M A Magiakou et al.
J Clin Endocrinol Metab. 1994 Oct;79(4):934-9. doi: 10.1210/jcem.79.4.7962300.
IL-6の内分泌系への作用を検証した研究
3 μg/kg以上のIL-6では投与から2時間の間にAVPの上昇がみられた
細菌性肺炎では重症度に相関してADHは上昇するようですが、具体的な機序に関する研究は見つけられませんでした。
炎症性サイトカインであるIL-6によりADHは上昇するようですが、それでは他の感染症と比べてよく言及されている頻度が高い理由にはなりません。
低ナトリウム血症が特徴的なレジオネラ症で他の細菌性肺炎とADH産生が同程度と示唆されており、レジオネラ症の低ナトリウム血症では他の機序が関与しているかもしれません。
結核
Involvement of Vasopressin in the Pathogenesis of Pulmonary Tuberculosis: A New Therapeutic Target?
Mario Zetter, Jorge Barrios-Payán, Dulce Mata-Espinosa et al.
Front Endocrinol (Lausanne). 2019 Jun 6;10:351. doi: 10.3389/fendo.2019.00351.
マウスを用いて結核でバゾプレシンの異所性産生を評価した研究
肺の主にマクロファージでバゾプレシン遺伝子の発現がみられた
バゾプレシン受容体の刺激(DdAVP)で菌量が増加し、受容体の阻害(Cvp)で菌量が減少した
結核の病態にバゾプレシンが関与している可能性が示唆されます。
局所のADH産生で低ナトリウム血症まで生じるかはわかりませんが、過剰なADHの由来として有用な仮説の一つになるかもしれません。
- 細菌性肺炎では重症度に相関してADHが上昇する
- レジオネラ症の低ナトリウム血症ではSIADH以外の機序も示唆される
- 結核の病態にバゾプレシンが関与している可能性がある
まとめ
呼吸器感染症とSIADHの関連について調べました。
頻度は高いようですが、残念ながら明確な機序についてはわかっていないようです。
- 呼吸器感染症ではSIADHを生じる頻度が高い
- 細菌性肺炎では重症度に相関してADHが上昇する
- レジオネラ症の低ナトリウム血症ではSIADH以外の機序も示唆される
- 結核の病態にバゾプレシンが関与している可能性がある