General Internal Medicine

脾臓が小さいときの機能や感染症のリスクは?

Answer

脾臓のサイズについて、脾腫について言及されることは多いですが、小さいとき=小脾症はあまり取り上げられていません。

今回は脾臓が小さい時の考え方をまとめました。

正常な脾臓の機能やサイズは?

まずは正常な脾臓について確認しましょう。

正常な脾臓の機能は?

Assessment of splenic function
A P N A de Porto, A J J Lammers, R J Bennink et al.
Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2010 Dec;29(12):1465-73. doi: 10.1007/s10096-010-1049-1.

赤脾髄
必要時に髄外造血
赤血球の不要な物質を除去
外来物質や傷害・老化血球の除去
鉄・赤血球・血小板・形質細胞の貯蔵
赤脾髄の形質細胞から抗原特異抗体の放出
マクロファージの鉄代謝による細菌に対する防御

白脾髄

T細胞領域・B細胞領域
T細胞・B細胞の貯蔵
抗原負荷によるT細胞・B細胞の成熟
免疫グロブリンの放出
補体、オプソニン、プロペルジン、タフトシンなどの免疫メディエーターの産生

辺縁帯
マクロファージによる細菌や免疫複合体の貪食
辺縁帯B細胞の成熟
T細胞・B細胞の血液への移行
免疫グロブリンの放出


Asplenia and spleen hypofunction
Marco Vincenzo Lenti, Sarah Luu, Rita Carsetti et al.
Nat Rev Dis Primers. 2022 Nov 3;8(1):71. doi: 10.1038/s41572-022-00399-x.

脾機能評価の検査


脾臓の機能は赤脾髄白脾髄で異なり、それぞれ血球の処理、免疫系に関与した役割を担っています。

脾機能の検査はいくつかありますが、現実的にはHowell-Jolly小体の確認くらいしかできないと思います。

正常な脾臓のサイズは?

Spleen size of live donors for liver transplantation
Junichi Kaneko, Yasuhiko Sugawara, Yuichi Matsui et al.
Surg Radiol Anat. 2008 Aug;30(6):515-8. doi: 10.1007/s00276-008-0364-z.

国内の生体肝移植ドナーで脾臓のサイズを評価

脾臓の体積は平均で123 ± 45 cm3 (範囲 37–285 cm3)

年齢、BMIとの関連がみられた


Splenic volume measurements on computed tomography utilizing automatically contouring software and its relationship with age, gender, and anthropometric parameters
Ardene Harris, Tamotsu Kamishima, Hong Yi Hao et al.
Eur J Radiol. 2010 Jul;75(1):e97-101. doi: 10.1016/j.ejrad.2009.08.013.

日本人の脾臓の体積を評価した研究

脾臓の体積は平均で127.4 ± 62.9 cm3 (範囲 22-417 cm3)

体積(S)は年齢(A)、体表面積(BSA)、性別と相関した

予測式:S =W[6.47A(−0.31)]
    S = BSA[278A(−0.36)]


脾臓のサイズは年齢、性別、体格によって異なります。

日本人の健常者の脾臓体積は平均で120 cm3程度のようです。

  • 脾臓の機能は赤脾髄・白脾髄で異なる
  • 脾臓のサイズは年齢、性別、体格によって異なり、日本人の健常者の脾臓体積は平均で120 cm3程度

小脾症の意義は

小脾症と脾機能の関連は

まずは脾臓が小さい時の脾機能についてまとめました。


Hyposplenism: comparison of different methods for determining splenic function
A J Jolanda Lammers, Alexander P N A de Porto, Roelof J Bennink et al.
Am J Hematol. 2012 May;87(5):484-9. doi: 10.1002/ajh.23154.

脾臓の機能的体積(シンチグラフィー)と免疫機能(B細胞サブセット)、貪食機能(Howell-Jolly小体、pitted red cells)を比較検討した研究

鎌状赤血球症症例、脾摘後症例を健常コントロールと比較

機能的体積と免疫機能、貪食機能との相関がみられた


Howell-Jolly小体の出現とCT検査により計測される脾体積の検討
東 龍哉, 木村 聡, 松本 森作 ら.
日集中医誌. 2013;20:395-399.

Howell-Jolly小体と脾体積の関連を検討した研究

Howell-Jolly小体が出現する 病態として知られている血液・造血系疾患、摘脾後の 症例、および脾腫をきたす血液疾患、肝硬変、アミロイドーシスなどは除外

脾体積とHowell-Jolly小体出現は男性で相関を認めた

GroupⅠ:Howell-Jolly小体を常に確認、GroupⅡ:Howell-Jolly小体をときに確認、GroupⅢ:Howell-Jolly小体を一度も確認できず

脾臓のサイズが小さい時には、脾機能が低下した検査結果になるようですようです。

小脾症の臨床的な意義は

続いて、脾臓が小さい時に臨床的な影響があるのか調べてみました。


Splenic volume in pneumococcal pneumonia patients is associated with disease severity and mortality
Satoshi Anai, Ritsu Ibusuki, Tomoaki Takao et al.
J Infect Chemother. 2020 Sep;26(9):977-985. doi: 10.1016/j.jiac.2020.04.023.

肺炎球菌性肺炎症例で脾臓の体積を検討した研究

脾臓の体積が小さいほど肺炎の重症度が高く死亡率が高かった

脾臓の体積 < 40cm3が30日以内の死亡(OR 5.0, 95% CI 1.2-21.1, P < 0.05)、院内死亡(OR 7.4, 95% CI 1.8-30.6, P < 0.01)と関連していた

肺炎球菌性肺炎の発症前後で脾臓の体積の有意な変化はなかった


Splenic volume on computed tomography scans is associated with mortality in patients with sepsis
Yumi Mitsuyama, Kentaro Shimizu, Atsushi Hirayama et al.
Int J Infect Dis. 2021 Mar;104:624-630. doi: 10.1016/j.ijid.2021.01.012.

脾臓の体積と敗血症の予後の関連を検討した研究

敗血症症例を脾臓の体積で3群にわけて比較(カットオフ値:73.6cm3、128.7cm3)

脾臓の体積 <73.6 cm3の群では血液培養でStreptococcusの検出が多かった (37.5% vs 21.7% vs 5.0%)

脾臓の体積 <73.6 cm3の群で死亡率が高かった
>128.7cm3の群と比較してHR 3.46 (95% CI 1.32-10.19, p=0.01)


Prediction of the prognosis of patients with bacteremia caused by encapsulated organisms using spleen volume: A retrospective study
Keiichiro Shimoyama, Kazunari Azuma, Itaru Nakamura et al.
Acute Med Surg. 2021 Oct 22;8(1):e698. doi: 10.1002/ams2.698.

莢膜をもつ細菌(Streptococcus pneumoniaeHaemophilus influenzaeNeisseria meningitidisCapnocytophaga canimorsus)の菌血症で脾臓の体積と死亡率の関連を検討した研究

脾臓の体積は生存群に比べ死亡群で小さかった
中央値(IQR) 76.75 cm3 (55.19–144.53) vs. 23.09 cm3 (15.23–31.97) (p=0.004)

体積のカットオフ値を33.560 cm3とすると、予後予測に関して感度 94.1%、特異度 66.7%、PPV 94.1%NPV 66.7%


CT measurement of splenic volume changes as a result of hypovolemic shock
Takao Kiguchi, Takeshi Higuchi, Naoya Takahashi et al.
Jpn J Radiol. 2015 Oct;33(10):645-9. doi: 10.1007/s11604-015-0470-x.

循環血液量減少性ショックでの脾臓体積の変化を検討した研究

ショック状態と改善後のCTで脾臓のサイズを比較

脾臓の平均体積はショック状態で63 cm3、通常時で132 cm3であった


脾臓の体積が小さいほど感染症の死亡率が高く、肺炎球菌など莢膜をもつ細菌感染のリスクも高いようです。

このことからも小脾症では免疫機能が低下していることが示唆されます。

ただし、循環血液量減少によるサイズの変化もみられるため、できれば正常時のサイズを確認したいところです。

  • 脾臓のサイズと脾機能はある程度相関する
  • 小脾症では感染症の死亡率、莢膜を有する細菌感染のリスクが高い

まとめ

脾臓が小さい時の意義についてまとめました。

小脾症では脾機能低下や感染症の死亡率上昇が見られます。

脾臓のサイズは循環血液量の影響も受けますが、通常時にもサイズが小さいときはHowell-Jolly小体の有無を確認した方が良いかもしれません。

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