Infection

自己免疫疾患でインフルエンザワクチンは有効か?

Answer

新型コロナウイルスの流行の影響か、すっかりrare diseaseになってしまったインフルエンザです。

免疫抑制患者さんには毎シーズン予防接種を勧めていると思います。

ところで、“免疫”が抑制されている状態でワクチンの効果はあるのか疑問に感じたことはありませんか?

今回は特にリウマチ疾患に対する免疫抑制患者さんに対するインフルエンザワクチンについてまとめました。

インフルエンザの影響は?

そもそも、自己免疫疾患に対するインフルエンザのインパクトはどれほどあるのでしょうか?


Rheumatoid arthritis and the incidence of influenza and influenza-related complications: a retrospective cohort study
William A Blumentals, Anna Arreglado, Pavel Napalkov et al.
BMC Musculoskelet Disord. 2012 Aug 27;13:158. doi: 10.1186/1471-2474-13-158.

米国のデータベースを用いた後ろ向きコホート研究

関節リウマチとインフルエンザ罹患、合併症の関連を検討

インフルエンザ罹患率は関節リウマチ患者で対照群よりも多かった
409.33/10万人年 vs 306.12/10万人年

合併症は関節リウマチ患者で2.75倍多かった

DMARDs、製剤の影響は有意でなかった


関節リウマチでは罹患率そのものが高く、合併症も多いようです。

予想はされましたが、予防の重要性がはっきりしました。

  • 関節リウマチではインフルエンザの罹患率・合併症が多い

ワクチンの効果は?

それでは、ワクチンの効果についてみていきましょう。

ワクチンの効果は大きく分けて次の2つの評価があります。

  • 免疫応答を血清学的に評価
  • インフルエンザの罹患や合併症、死亡を評価

後者の方が実用的な評価ですね。

免疫応答

Effect of methotrexate, anti-tumor necrosis factor α, and rituximab on the immune response to influenza and pneumococcal vaccines in patients with rheumatoid arthritis: a systematic review and meta-analysis
Charlotte Hua, Thomas Barnetche, Bernard Combe et al.
Arthritis Care Res (Hoboken). 2014 Jul;66(7):1016-26. doi: 10.1002/acr.22246.

関節リウマチ患者でワクチン接種に対する免疫抑制薬の影響を検討したメタアナリシス

免疫応答はリツキシマブで低下したが、TNFα阻害薬では低下しなかった

MTXでは解析により結果が異なった


Immunogenicity and Safety of Influenza Vaccination in Systemic Lupus Erythematosus Patients Compared with Healthy Controls: A Meta-Analysis
Zhengfa Liao, Hao Tang, Xiaojia Xu et al.
PLoS One. 2016 Feb 4;11(2):e0147856. doi: 10.1371/journal.pone.0147856.

SLE患者のインフルエンザワクチンに対する免疫応答に関するメタアナリシス

抗体保有率はH1N1型・H3N2型ワクチンで有意に低かったがB型ワクチンでは有意差はなかった
H1N1型:OR 0.36, 95% CI 0.27–0.50
H3N2型:OR 0.48, 95% CI 0.24–0.93
B型:OR 0.55, 95% CI 0.24–1.25


Impact of temporary methotrexate discontinuation for 2 weeks on immunogenicity of seasonal influenza vaccination in patients with rheumatoid arthritis: a randomised clinical trial
Jin Kyun Park, Yun Jong Lee, Kichul Shin et al.
Ann Rheum Dis. 2018 Jun;77(6):898-904. doi: 10.1136/annrheumdis-2018-213222.

4価インフルエンザワクチン接種後にMTXを2週間中止することで効果に影響があるか検証したRCT

十分な免疫応答の割合はMTX中止群で高かった
2種以上の株に対する4倍以上の抗体価上昇と定義
中止群 75.5% vs 継続群 54.5%, p<0.001

患者アウトカム

Effects of annual influenza vaccination on morbidity and mortality in patients with Systemic Lupus Erythematosus: A Nationwide Cohort Study
Chi-Ching Chang, Yu-Sheng Chang, Wei-Sheng Chen et al.
Sci Rep. 2016 Dec 2;6:37817. doi: 10.1038/srep37817.

台湾のSLE患者に対するインフルエンザワクチンの効果を検証した後ろ向きコホート研究

ワクチン接種群では入院・死亡率ともに低かった
入院:HR 0.82 (95% CI 0.73–0.92)
死亡:adjusted HR 0.41 (95% CI 0.27-0.61)


Effectiveness of inactivated influenza vaccine in autoimmune rheumatic diseases treated with disease-modifying anti-rheumatic drugs
Georgina Nakafero, Matthew J Grainge, Puja R Myles et al.
Rheumatology (Oxford). 2020 Dec 1;59(12):3666-3675. doi: 10.1093/rheumatology/keaa078.

英国のデータベースを用いた後ろ向き研究

関節リウマチ、SLE、脊椎関節炎(乾癬性関節炎、反応性関節炎、炎症性腸疾患関連関節炎、強直性脊椎炎)で、DMARDs(メトトレキサート、レフルノミド、スルファサラジン、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル、タクロリムス)を使用している18歳以上の患者を対象

不活化インフルエンザワクチンは肺炎での入院、COPD増悪、全死亡、肺炎による死亡のリスクを低減した

ワクチンの効果は過去の健常者に関する研究と同程度であった


SLEでは免疫応答が起こりにくいようです。

MTXやリツキシマブといった免疫抑制薬でも免疫応答が抑制されてしまいます。

ただ、実際の予防としては健常者と同等の効果がありそうです。

MTXの中止について、2週間程度でリウマチの増悪はないでしょうから、今後の研究次第ではスタンダードになるかもしれませんね。

  • 自己免疫疾患や免疫抑制薬でワクチンに対する免疫応答は低下する
  • 自己免疫疾患や免疫抑制薬でもワクチンは予防に有効

まとめ

インフルエンザは自己免疫疾患の患者さんではリスクが高く、多少の免疫応答の低下はあるもののワクチン接種は有効です。

予想通りというか、当たり前の結果ではありますが、背景を知っておくことは大切ですね。

新型コロナウイルスに対する予防対策のおかげで感染そのものが減りましたが、“根絶”にでもならない限りは毎シーズン予防接種を勧めましょう。

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