- 細菌性髄膜炎ではListeriaを除きステロイド投与が推奨される
- 抗菌薬投与後でも4時間以内であれば投与を検討する
- ウイルス性髄膜炎に関するエビデンスは不十分
- 結核性髄膜炎ではステロイド投与が推奨される
- Cryptococcus髄膜炎ステロイド投与は推奨されない
細菌性髄膜炎として治療する場合は、抗菌薬投与時にステロイドも投与することが多いと思います。
今回はどの起炎菌でも有効なのか?、抗菌薬投与後では効果がないのか?、他の感染性髄膜炎ではどうなのか?などの疑問について検討しました。
髄膜炎に対するステロイドのエビデンスは?
細菌性髄膜炎
Corticosteroids for acute bacterial meningitis
Matthijs C Brouwer, Peter McIntyre, Kameshwar Prasad et al.
Cochrane Database Syst Rev. 2015 Sep 12;2015(9):CD004405. doi: 10.1002/14651858.CD004405.pub5.
細菌性髄膜炎に対するステロイド投与に関するMeta-analysis
25のRCT、成人・小児含め41,121症例を組み入れ
髄膜炎全体で死亡率の有意な低下はみられなかった
成人:RR 0.74, 95% CI 0.53 to 1.05; P = 0.09
Streptococcus pneumoniaeでは死亡率の低下がみられた
RR 0.84, 95% CI 0.72 to 0.98
Haemophilus influenzae、Neisseria meningitidisでは死亡率の低下はみられなかった
難聴、神経合併症の低下がみられた
高度難聴:RR 0.67, 95% CI 0.51 to 0.88
全ての難聴:RR 0.74, 95% CI 0.63 to 0.87
神経合併症:RR 0.83, 95% CI 0.69 to 1.00
高所得国では低下がみられたが低所得国では低下はみられなかった
Community-acquired bacterial meningitis in adults in the Netherlands, 2006-14: a prospective cohort study
Merijn W Bijlsma, Matthijs C Brouwer, E Soemirien Kasanmoentalib et al.
Lancet Infect Dis. 2016 Mar;16(3):339-47. doi: 10.1016/S1473-3099(15)00430-2.
細菌性髄膜炎に関するオランダの前向きコホート研究
89%(1234/1384)でデキサメサゾンが投与され、78%では抗菌薬初回投与時・前に開始され10mg 6時間毎で4日間投与された
多変量解析で、デキサメサゾン投与群では予後不良、死亡が少なかった
予後不良:OR 0.54 (95% CI 0.39–0.73)
死亡:OR 0.46 (95% CI 0.32–0.66)
デキサメサゾン投与群では肺炎球菌、その他の細菌ともに予後不良が少なかった
肺炎球菌:OR 0.55 (95% CI 0.38–0.80)
その他の細菌:OR 0.44 (95% CI 0.23–0.85)
Adjunctive dexamethasone in bacterial meningitis: a meta-analysis of individual patient data
Diederik van de Beek, Jeremy J Farrar, Jan de Gans et al.
Lancet Neurol. 2010 Mar;9(3):254-63. doi: 10.1016/S1474-4422(10)70023-5.
細菌性髄膜炎に対するステロイド投与に関するMeta-analysis
5つのRCT、成人・小児含め2,029症例を組み入れ
ステロイド投与前に抗菌薬が投与されていても難聴に対する効果は保たれ、死亡率に差はなかった
Clinical features and prognostic factors of listeriosis: the MONALISA national prospective cohort study
Caroline Charlier, Élodie Perrodeau, Alexandre Leclercq et al.
Lancet Infect Dis. 2017 May;17(5):510-519. doi: 10.1016/S1473-3099(16)30521-7.
Listeria感染症に関する前向きコホート研究
神経Listeria症ではデキサメタゾン投与と死亡率の関連がみられた
OR 4.58, 95% CI 1.50-13.98; p=0.008
Adjunctive dexamethasone treatment in adults with listeria monocytogenes meningitis: a prospective nationwide cohort study
Matthijs C Brouwer, Diederik van de Beek.
EClinicalMedicine. 2023 Mar 24:58:101922. doi: 10.1016/j.eclinm.2023.101922.
Listeria monocytogenes髄膜炎に関する前向きコホート研究
58%で抗菌薬と同時にデキサメタゾンが使用された
デキサメタゾン併用(10mg QID 4日間)は予後良好と関連していた
adjusted OR 0.40 (95% CI 0.19-0.81)
Predisposing factor, impactful adjunctive treatment or unfavorable prognostic marker: a meta-analysis on the elusive role of dexamethasone for Listeria monocytogenes meningitis
Alberto Enrico Maraolo, Maria Mazzitelli.
J Infect Dev Ctries. 2023 Dec 31;17(12):1748-1752. doi: 10.3855/jidc.18804.
Listeria monocytogenes髄膜炎に対するデキサメタゾン併用に関するMeta-analysis
5研究を組み入れ(※上記2研究も含む)
デキサメタゾン併用群では全死亡率がわずかに低かったが有意差はなかった
OR 0.96, 95% CI 0.42-2.19
ステロイドが有用な起炎菌に関して、最近のLancetのReview (van de Beek D et al. Lancet. 2021; 398: 1171-83)でも、肺炎球菌以外の細菌にも投与すべきかどうか議論になっていました。
Listeria以外の細菌性髄膜炎が疑わしい状況(髄液で好中球優位など)では、培養結果が分かるまで継続してもよいのではないかと思います。
Listeria髄膜炎については研究によりばらつきがあり、今後の比較試験が期待されます。
ステロイド投与のタイミングに関して、抗菌薬前・同時のステロイド投与がプロトコルとなっている研究が多いようですが、Meta-analysisでは抗菌薬投与後でも死亡率の差はないようです。
ESCMID (European Society for Clinical Microbiology and Infectious Diseases)ガイドラインでは、抗菌薬投与後でも4時間以内であればステロイド投与が推奨されています(Grade C)。
ウイルス性髄膜炎
ウイルス性髄膜炎に対する研究はあまり見つからなかったので、HSV脳炎に関するエビデンスを紹介します。
Evaluation of combination therapy using aciclovir and corticosteroid in adult patients with herpes simplex virus encephalitis
S Kamei, T Sekizawa, H Shiota et al.
J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2005 Nov;76(11):1544-9. doi: 10.1136/jnnp.2004.049676.
HSV脳炎に対するステロイドの効果を検討した後ろ向き研究
ステロイドの用法用量は主治医の意向による
用量(プレドニゾロン換算):中央値 64.0 mg/day (40.0–96.0)、期間:中央値 6.0日 (2.0–42.0)
ステロイド投与は、アシクロビル終了3か月後の予後良好と関連した
OR 8.964, 95% CI 1.13 to 70.99; p=0.038
The German trial on Aciclovir and Corticosteroids in Herpes-simplex-virus-Encephalitis (GACHE): a multicenter, randomized, double-blind, placebo-controlled trial
U Meyding-Lamadé, C Jacobi, F Martinez-Torres et al.
Neurol Res Pract. 2019 Sep 12;1:26. doi: 10.1186/s42466-019-0031-3.
HSV脳炎に対するステロイドの効果を検討したRCT
デキサメサゾン 40mg 24時間毎 4日間
372例を予定していたが症例が少なく41例で中止となった
機能予後、死亡率の有意差は検出できなかった
ウイルス性髄膜炎、HSV脳炎に対するステロイドは、まだ確立したエビデンスがないようです。
現時点では脳浮腫の軽減など症例を選んで投与を検討、くらいだと思います。
結核性髄膜炎
Corticosteroids for managing tuberculous meningitis
Kameshwar Prasad, Mamta B Singh, Hannah Ryan et al.
Cochrane Database Syst Rev. 2016 Apr 28;4(4):CD002244. doi: 10.1002/14651858.CD002244.pub4.
結核性髄膜炎に対するステロイド投与に関するMeta-analysis
9つのRCT、1,337症例を組み入れ
ステロイド投与で死亡率が低下した
RR 0.75, 95% CI 0.65 to 0.87
神経予後に対する影響は乏しかった
RR 0.92, 95% CI 0.71 to 1.20
結核性髄膜炎ではステロイド投与が推奨されます。
投与期間は文献にもよりますが、UpToDateなどでは計8週間の投与が採用されています。
Cryptococcus髄膜炎
Adjunctive Dexamethasone in HIV-Associated Cryptococcal Meningitis
Justin Beardsley, Marcel Wolbers, Freddie M Kibengo et al.
N Engl J Med. 2016 Feb 11;374(6):542-54. doi: 10.1056/NEJMoa1509024.
HIV関連Cryptococcus髄膜炎に対するデキサメタゾンの効果を検討したRCT
安全性の問題で早期打ち切りとなった
10週・6カ月時点での死亡率に有意差はなかった
ステロイド投与群で10週時点の機能予後が悪かった
OR 0.42; 95% CI 0.25 to 0.69; P<0.001
ステロイド投与群で6カ月までの有害事象が多かった
667 vs 494; P = 0.01
一般的にCryptococcus髄膜炎ではステロイド投与は推奨されていません。
まとめ
髄膜炎に対するステロイドについてまとめました。
救急外来などで細菌性髄膜炎を疑った場合は、初期治療の一つとしてステロイド投与をお奨めします。
ただし、ステロイドはあくまでも補助療法なので、必要なカバーができる抗菌薬を必ず投与しましょう。
髄液検査で好中球優位の細胞増多があればそのまま継続でよいと思いますが、リンパ球優位であれば中止を検討してもよいかもしれません。
- 細菌性髄膜炎ではListeriaを除きステロイド投与が推奨される
- 抗菌薬投与後でも4時間以内であれば投与を検討する
- ウイルス性髄膜炎に関するエビデンスは不十分
- 結核性髄膜炎ではステロイド投与が推奨される
- Cryptococcus髄膜炎ステロイド投与は推奨されない