Endocrinology

ステロイドミオパチーの特徴は?

Answer

  • 急性・慢性ステロイドミオパチーと炎症性ミオパチーの鑑別

ステロイドは糖尿病や高血圧など代謝に関する有害事象が有名ですが、使用中に筋力低下がみられることがあり、ステロイドミオパチーと呼ばれます。

症状は軽微なことが多い印象で、元々ADLが低下している場合には気付けないこともあると思います。

炎症性ミオパチーに対してステロイドを使用している場合は、ステロイドの影響なのか原疾患に関連したものなのか判断に困ることがあります。

また、スタチンなど横紋筋融解症をきたす薬剤の使用もあるとさらに鑑別は難しくなります。

ステロイドミオパチーは経過から急性慢性に区別されており、それぞれについてまとめました。

急性ステロイドミオパチー

急性ステロイドミオパチーの特徴は?

Acute Painful Reversible Steroid Myopathy with IV Methylprednisolone
Boby Varkey Maramattom, Hanna Angel Meleth.
Ann Indian Acad Neurol. 2021 Mar-Apr;24(2):257-259. doi: 10.4103/aian.AIAN_200_20.

疫学
報告は稀で、文献の時点で<50症例の報告

ステロイドとの関連
フッ化ステロイドでみられることが多い(トリアムシノロン、ベタメタゾン、デキサメタゾン)
プレドニゾロン換算 >1mg/kg/dayで生じやすい
投与経路は発症しやすさに影響しない
初回投与で特異反応として生じることもある
通常15日以内、1-3日目が多い
呼吸器疾患(気管支喘息、COPD)や悪性腫瘍での報告が多い

症候
典型的な発症様式は急速進行の近位筋筋力低下
遠位筋や呼吸筋への伸展もありうる
筋痛は症例による
全身性筋萎縮や横紋筋融解もありうる
早期に認識されステロイドが中止されれば数日~数カ月で改善する

検査
CPK、筋生検、神経伝導検査は正常
筋電図は正常のことが多いが筋原性変化を生じうる
生検はあまり施行されておらず、施行された症例では正常のことが多いが、空胞を伴う壊死性筋症がみられることもある
MRI STIRは正常で、他の疾患との鑑別に用いる


急性ステロイドミオパチーは稀な疾患と言われており、わたしも診断した症例の経験はありません。

特異的な検査所見もなく認識が難しそうですが、ステロイドの中止で改善するため認識することが重要です。

  • 急速進行の近位筋筋力低下が特徴
  • ステロイドの中止で数日~数カ月で改善する

慢性ステロイドミオパチー

慢性ステロイドミオパチーの特徴は?

Glucocorticoid-induced myopathy
Rosa Maria Rodrigues Pereira, Jozélio Freire de Carvalho.
Joint Bone Spine. 2011 Jan;78(1):41-4. doi: 10.1016/j.jbspin.2010.02.025.

疫学
Cushing症候群では50-80%でみられる
ステロイド治療による頻度は不詳

ステロイドとの関連
フッ化ステロイドで多い(デキサメタゾン、ベタメタゾン、トリアムシノロン)
投与期間や量に明確な基準はない
プレドニゾン換算 40-60mg/dayで、1カ月である程度の筋力低下が生じる
プレドニゾン換算 10mg/day以下では起こりにくいとされる
吸入ステロイドでは稀

症候
緩徐に進行する筋力低下
近位筋、特に骨盤帯の筋力低下が多い

検査
血液検査:筋酵素は正常~軽度高値
筋電図:早期には正常、晩期には筋原性パターン
筋生検:Ⅱb線維の萎縮、炎症細胞浸潤なし、線維サイズの不同、核は中心性

治療
可能であればステロイドの中止・減量
プレドニゾンなどの非フッ化ステロイドへの変更を検討
ステロイド中止後3-4週間で筋力の改善がみられる


Effect of long-term treatment with corticosteroids on skeletal muscle strength, functional exercise capacity and health status in patients with interstitial lung disease
Masatoshi Hanada, Noriho Sakamoto, Yuji Ishimatsu et al.
Respirology. 2016 Aug;21(6):1088-93. doi: 10.1111/resp.12807.

間質性肺疾患患者でのステロイド長期投与の影響を検討

ステロイド使用例では非使用例に比べて筋力低下がみられた
大腿四頭筋:52.6 ± 25.6 vs 77.1± 33.3 %predicted, P<0.001
握力:63.8 ± 22.4 vs 81.8± 28.3%predicted, P<0.001
ステロイド総投与量と負の相関がみられた

運動耐容能に差はなかった(6分間歩行、ADLスコア)


軽微なものも含めると慢性ステロイドミオパチーはかなり頻度が多いことが予想されます。

まだデータが不十分ですが、投与量や期間に依存して発症しそうですね。

慢性ステロイドミオパチーの機序は?

Glucocorticoid-induced myopathy in people with asthma: a systematic review
Kenneth Wu, Anna Michalski, Daniel Cortes et al.
J Asthma. 2022 Jul;59(7):1396-1409. doi: 10.1080/02770903.2021.1926488.

増殖・修復の低下
IGF-1経路を阻害し、骨格筋でのタンパク合成、衛星細胞の分化・増殖を抑制する
骨格筋でのセラミド産生が増加し、アミノ酸取り込みの低下、IGF-1を介したタンパク合成の抑制、細胞サイクルの低下につながる

筋委縮
IGF-1の阻害により筋細胞のユビキチン-プロテアソーム系が活性され、筋委縮をきたす
ユビキチン-プロテアソーム系のFoxOの過剰発現により、筋線維蛋白が破壊され、筋線維萎縮が生じる

アポトーシス
FADDの活性化で筋細胞のアポトーシスが進む
MyoDの発現低下、ID1の増加により筋芽細胞の分化・増殖を抑制する


Glucocorticoid-induced skeletal muscle atrophy
O Schakman, S Kalista, C Barbé et al.
Int J Biochem Cell Biol. 2013 Oct;45(10):2163-72. doi: 10.1016/j.biocel.2013.05.036.

蛋白破壊の亢進
FOXO1, 3aやGSK3βといった筋委縮に関連する遺伝子(“Atrogens”)の発現を促進
ユビキチン-プロテアソーム系やリソソームによるオートファジーが亢進

蛋白合成の低下
筋細胞へのアミノ酸輸送の抑制
mTOR/S6K1 経路の抑制


ステロイドは代謝に関して様々な作用があり、筋細胞もその一つのようです。

他の有害事象と同じように、筋力についても定期的に評価するのが望ましいかもしれません。

  • 軽微なものも含めると頻度が多いことが予想される
  • 総投与量と関連する可能性がある

まとめ

臨床的に問題になるほどのミオパチーをきたす頻度は多くない印象がありますが、原疾患が良くなっているにもかかわらずADLが低下する、ということもあります。

原疾患の状況によってはステロイドを中止できないことも多いですが、まずは認識することが重要です。

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  • 急性・慢性ステロイドミオパチーと炎症性ミオパチーの鑑別

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