腫瘍を有する患者さんでは発熱があることはとても多いですよね。
鑑別として腫瘍熱を挙げることもあると思います。
今回は腫瘍熱の病態や診断、対処についてまとめました。
腫瘍熱とは?
腫瘍熱といってもがん患者さんの発熱をすべて腫瘍熱と呼ぶわけではありません。
腫瘍熱の病態について解説します。
病態
Neoplastic fever: a neglected paraneoplastic syndrome
Jason A Zell, Jae C Chang.
Support Care Cancer. 2005 Nov;13(11):870-7. doi: 10.1007/s00520-005-0825-4.
腫瘍に関連した発熱の原因
腫瘍由来
中枢神経転移
感染症
化学療法関連
薬剤熱
輸血関連
放射線関連
副腎不全
腫瘍熱の病態
腫瘍細胞からIL-1、IL-6、TNF-α、INFといった発熱性サイトカインが放出される
壊死した腫瘍組織からTNFなどのpyogenが放出される
脳転移による脳組織の直接傷害
腫瘍に関連した発熱は様々な原因で生じます。
その中でも腫瘍やそのものや転移巣が原因となって生じる発熱が、一般的に腫瘍熱と呼ばれます。
- 腫瘍熱の病態
- 腫瘍そのものや壊死組織からのサイトカイン
- 中枢神経の直接傷害
腫瘍熱の診断や対処は?
続いて、腫瘍熱の診断や対処法について解説します。
診断基準
Neoplastic fever. A proposal for diagnosis
J C Chang.
Arch Intern Med. 1989 Aug;149(8):1728-30.
腫瘍熱の基準 |
1日に1回以上の37.8℃を超える発熱 |
2週間以上続く発熱 |
感染症を示唆する所見がない |
薬剤などのアレルギー機序を示唆するものがない |
7日以上のempiricな抗菌薬治療に反応しない |
ナプロキセンテストに反応して解熱 |
腫瘍熱の診断基準は色々提唱されていますが、これがベースとなっていることが多いです。
ナプロキセンテストについては後述します。
熱型
Using vital sign flow sheets can help to identify neoplastic fever and other possible causes in oncology patients: a retrospective observational study
Chuang-Chi Liaw, Jen-Sheng Huang, Jen-Shi Chen et al.
J Pain Symptom Manage. 2010 Aug;40(2):256-65. doi: 10.1016/j.jpainsymman.2010.01.015.
腫瘍熱と判断された進行・転移固形癌150症例を評価
体温のピークは39.0℃±0.6℃であった
全例で間欠熱(※1日の中で正常体温に下がる)のパターンあった
72% (108/150例)で1日1回のスパイク熱であった
スパイクは午前9時 (42%)、午後5時 (37%)に多かった
28% (42/150例)で1日2回のスパイク熱であった
腫瘍熱は1日1-2回のスパイク熱と、それ以外は正常体温となる間欠熱のパターンをとることが多いようです。
炎症反応
Role of procalcitonin and C-reactive protein for discrimination between tumor fever and infection in patients with hematological diseases
Sho Hangai, Yasuhito Nannya, Mineo Kurokawa.
Leuk Lymphoma. 2015 Apr;56(4):910-4. doi: 10.3109/10428194.2014.938329.
PCT/CRP比は腫瘍熱と感染症を鑑別するのに有用
GroupⅠ:腫瘍熱、GroupⅡ:感染症、GroupⅢ:重症感染症
CRPはやはり特異度が低く、腫瘍熱でも上昇します。
PCTは感染症との鑑別に有用かもしれません。
ナプロキセン
Utility of naproxen in the differential diagnosis of fever of undetermined origin in patients with cancer
J C Chang, H M Gross.
Am J Med. 1984 Apr;76(4):597-603. doi: 10.1016/0002-9343(84)90283-3.
7日以上の原因不明の発熱患者(癌 20例、膠原病 2例)に対しナプロキセン 250mg 1日2回投与
腫瘍熱と判断された15例中14例で完全に解熱した
24時間以内に解熱し、ナプロキセン内服中は解熱が維持された
感染症と判断された5例と膠原病 2例では部分的な解熱に留まった
Naproxen for the treatment of neoplastic fever: A PRISMA-compliant systematic review and meta-analysis
Sho Hangai, Yasuhito Nannya, Mineo Kurokawa.
Leuk Lymphoma. 2015 Apr;56(4):910-4. doi: 10.3109/10428194.2014.938329.
15の研究をまとめたMeta-analysis
腫瘍熱に対するナプロキセンの有効率は94.1% (95%CI:87.6%-97.3%)
250mg 1日2回の有効率は98.1% (95%CI:95.0%-99.3%)であったが、125mg 1日2回、375mg 1日2回、250mg 1日3回でも同様に有効であった
ナプロキセンは腫瘍熱に対して診断に役立つだけでなく、そのまま対症療法としても使えます。
腎障害など有害事象の懸念はありますが、症例によっては長期の継続も検討されます。
ステロイド
Antipyretic effect of naproxen and corticosteroids on neoplastic fever
J C Chang.
J Pain Symptom Manage. Summer 1988;3(3):141-4. doi: 10.1016/0885-3924(88)90159-5.
ナプロキセンで解熱した患者で、ステロイドに切り替えた場合の熱型を評価
12例のうち6例で完全に解熱したが、2例で部分的な解熱に留まり、4例で解熱しなかった
腫瘍による倦怠感や食欲低下に対してステロイドが使用されることも多いですが、腫瘍熱に関してはナプロキセンの方が有効かもしれません。
- 腫瘍熱は1日1-2回の間欠熱が多い
- ナプロキセンが診断、対症療法に有用
まとめ
腫瘍熱についてまとめました。
腫瘍患者さんの発熱は感染症など治療が遅れると命に係わるものもあり、まずはそちらを優先的に考えて動くことが多いと思います。
腫瘍熱は重症化するわけではありませんが、熱が続くだけでもQOLにかなり影響するため、適切に対処できるようにしたいですね。