General Internal Medicine

ベッドサイドでできる起立性低血圧の鑑別は?

Answer

救急外来で失神を診る機会はかなり多いです。

その中でも、起立性低血圧は2番目に多い原因で、15%を占めると言われています。
(Ricci F et al. J Am Coll Cardiol. 2015;66:848–60)

ところで、“起立性低血圧”とわかったところで診断を終わりにしていないでしょうか?

一口に起立性低血圧といっても、背景にある病態はいくつもあります

今回は救急外来でできる、ベッドサイドでの起立性低血圧の鑑別についてまとめました。

起立性低血圧の病態

はじめに起立性低血圧の病態について解説します。


Orthostatic hypotension: a common, serious and underrecognized problem in hospitalized patients
Carlos Feldstein, Alan B Weder.
J Am Soc Hypertens. Jan-Feb 2012;6(1):27-39. doi: 10.1016/j.jash.2011.08.008.

臥位から立位への体位変換で500~700mLの血液が下肢・内臓・肺循環に移行する

静脈潅流・心室充満の低下で心拍出量が低下し、正常では、交感神経の亢進・副交感神経の抑制で心拍数・末梢血管抵抗の上昇が生じ血圧が維持される

圧反射の障害や血液量の不足がある場合に血圧が低下する

起立性低血圧を生じる疾患
自律神経疾患 循環血漿量減少 内分泌 心血管 薬剤
原発性
 多系統萎縮症
 特発性起立性低血圧症
2次性
 Parkinson病
 Lewy小体型認知症
 Alzheimer病
 脊髄病変
 Guillain-Barre症候群
 自己免疫性
 糖尿病
 アミロイドーシス
 尿毒症
 ポルフィリア
脱水
低ナトリウム血症
出血
貧血
透析
熱傷











低アルドステロン症
高アルドステロン症
Bartter症候群
褐色細胞腫
副腎不全
尿崩症










高血圧症
心不全
大動脈狭窄症
頸動脈内膜剥離術
妊娠












利尿薬
β阻害薬
α阻害薬
抗パーキンソン薬
抗うつ薬
抗精神病薬
PDE5阻害薬+ニトログリセリン
睡眠薬
アルコール






 


上の論文では臓器別の分類となっていますが、起立性低血圧は病態で分類したほうが分かりやすいです。

血圧は以下の式で表されます。

BP = CO(心拍出量) × PVR(末梢血管抵抗)
   = SV(1回拍出量) × HR(心拍数) × PVR

右辺のそれぞれの要素が低下、もしくは反応性に上昇しない場合に血圧が低下します。

病態によって疾患を分類すると以下のようになります。

起立性低血圧の病態
交感神経失調 循環血漿量減少 心原性 血管拡張物質
HR→、PVR↓ SV↓ SV↓、(HR→) (SV↓)、PVR↓
中枢性(MSAなど)
末梢性(糖尿病、アミロイドーシスなど)
薬剤性(α/β阻害薬)
脱水
出血
透析
薬剤性(利尿薬)

心筋症
肺塞栓症
心タンポナーデ


薬剤性(CCB)
アルコール
尿毒症
CO2ナルコーシス

 

例外として、アルドステロン作用の低下する病態では、循環血漿量の低下、血管トーヌスの低下といった複合要因によるものなので1つのカテゴリーに分類することはできません。

  • 起立性低血圧は病態によって分類する

起立性低血圧の診断

続いて、起立性低血圧の診断について解説します。

誘発試験にはバリエーションがいくつかあり、それぞれにメリット、デメリットがあります。


Diagnosing orthostatic hypotension: a narrative review of the evidence
James Frith.
Br Med Bull. 2015 Sep;115(1):123-34. doi: 10.1093/bmb/ldv025.

誘発試験に関するRecommendation
5分間の臥位後の血圧をベースラインとする
誘発試験は起立試験Tilt試験が望ましい
立位時間は2~3分。遅発性を評価する場合は延長する
収縮期血圧 20mmHg以上の低下、もしくは拡張期血圧 10mmHg以上の低下を基準とする

誘発試験のバリエーション

Tilt試験
メリット:状況やタイミングをコントロールできる、立位のとれない患者にも可能
デメリット:日常の状況を反映しない、設備が必要

臥位→立位(※いわゆる起立試験)
メリット:通常の生理的反応を反映
デメリット:体位変換に時間がかかる場合がある

臥位→座位
メリット:立位のとれない患者にも可能
デメリット:姿勢保持の等尺運動で拡張期血圧が上昇する可能性

座位→立位
メリット:日常動作を反映
デメリット:体位変換前から下肢・骨盤部に血液貯留

蹲踞位→立位
メリット:心血管系への負荷が大きい
デメリット:実用的でない、偽陽性が多い


Tilt試験はベッドサイドでは行えないので、起立試験が基本となります。

救急外来ではもともとADLの低下した高齢患者さんも多いため、立位保持の困難な場合は端坐位(ベッドから足を下した座位)での評価をお勧めします。

  • ベッドサイドでは起立試験を行う
  • 立位が困難な場合は端坐位で評価する

起立性低血圧の鑑別

それでは、ベッドサイドでできる起立性低血圧の鑑別について解説します。

起立試験が陽性かどうか、だけでなく、パラメータを基に病態を鑑別します。


Clinical classification of orthostatic hypotensions
William P Cheshire Jr.
Clin Auton Res. 2017 Jun;27(3):133-135. doi: 10.1007/s10286-017-0414-x.

誘発試験のパターンによる病態の分類

iOH:initial orthostatic hypotension
パターン:立位後5-15秒以内に生じる一過性の血圧低下
通常立位後20秒以内に回復
病態:健康な若年者に多い

nOH:neurogenic orthostatic hypotension
パターン:収縮期・拡張期血圧ともに低下、心拍数の上昇が乏しい
病態:起立負荷に対する交感神経を介した心血管反射不全
交感神経を制御する中枢性~節性~節後性の障害

dOH:delayed orthostatic hypotension
パターン:3分経過後に基準を満たす
病態:神経障害の早期・軽症例や降圧薬・神経液性因子の障害など

vOH:vasovagal orthostatic hypotension
パターン:収縮期・拡張期血圧ともに低下、心拍数の上昇あり
病態:発作性の血管トーヌスの低下

cOH:cardiovascular orthostatic hypotension
パターン:収縮期血圧は低下するが、拡張期血圧は保たれる、心拍数の上昇あり
病態:循環血漿量減少、心筋症など

pOH:orthostatic pseudohypotension
パターン:臥位血圧高値のため基準を満たす場合


以上を踏まえて、実際には以下のように鑑別しています。

起立性低血圧の鑑別
sBP dBP HR 頸静脈圧 病態
循環血漿量減少
心原性
  交感神経失調
  血管拡張物質

拡張期血圧が低下せず収縮期血圧のみ低下するパターンには循環血漿量減少・心機能低下の2つの病態が含まれるため、頸静脈圧など体液量の評価で鑑別します。

循環血漿量減少を鑑別するために、可能な限り輸液を投与する前に体液量の評価、起立試験を行います。

収縮期・拡張期の療法が低下する場合は心拍数の上昇の有無で交感神経失調か血管拡張物質か区別します。

β阻害薬を内服している場合はどのパターンでも反射性の頻脈が起こりにくいため注意が必要です。

  • 起立試験のパターンで病態を鑑別する

まとめ

ベッドサイドでの起立性低血圧症の鑑別についてまとめました。

病態を理解し、起立試験のパラメータを利用するとかなりの確度で鑑別することができます。

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