- ビスホスホネートやDenosumabは骨代謝を抑制するが骨折治癒の遅延はしない
- Teriparatideは骨折治癒を促進する可能性がある
骨粗鬆症は加齢で頻発し、ステロイドの副作用としても有名であり、診断・治療に関してよく知っておくべき病態のひとつです。
治療の目標は骨折の予防ですが、既に骨折を起こしてしまっていることもあります。
骨折の急性期には整形外科で診られることが多いと思いますが、圧迫骨折など内科で担当することも少なくないと思います。
骨粗鬆症の治療薬の開始基準は主に骨密度検査と脆弱骨折で決まりますが、骨折直後に治療を開始することで骨折治癒への影響はないのでしょうか。
例えばビスホスホネート(BP)は作用機序が骨リモデリングの抑制、なんとなく骨折の治癒に影響しそうな気もしますよね。
今回は、骨折に対する骨粗鬆症治療薬の影響について考えてみました。
骨折治癒の機序は?
まずは骨折治癒の機序を確認しましょう。
骨折の治癒過程 1)
骨治癒にかかる時間は骨により異なるが、通常長管骨で6-8週間、椎体骨で8-10週間かかる
血腫や骨折部周囲の炎症が生じ、サイトカインを介して骨膜・骨内膜骨折部に間葉系幹細胞が遊走し、血管新生も起こる
膜内骨化が先行し、次第に軟骨内骨化が起こり骨折間隙の架橋が生じる
膜内骨化:骨膜では骨芽細胞が類骨を蓄積し、後に骨化する
軟骨内骨化:骨折間隙では軟骨細胞が形成され、その軟骨基質が次第に骨化する
膜内骨化・軟骨内骨化で形成された仮骨が、破骨細胞と骨芽細胞によるリモデリングを経て成熟する
骨折治癒には骨芽細胞を主体とした骨形成と、破骨細胞も加わったリモデリングが重要です。
作用機序を考えると、BPやDenosumabのような破骨細胞のはたらきを抑制する薬剤は骨折治癒に悪影響な気がしませんか?
反対に、骨形成を促進するTeriparatideは骨癒合を促進してくれそうなイメージがあります。
骨粗鬆症治療薬は骨折治癒への影響は?
それでは、骨粗鬆症治療薬がどのような機序で骨折治癒に影響を与えるのか、臨床試験の結果も交えて考えてみます。
ビタミンD
作用機序 2)
骨折後に1,25(OH)2D3の消費が亢進するため、仮骨での治癒過程の制御に関与すると考えられる
骨芽細胞のVitD受容体を介して、細胞外マトリックスの骨化を促進する
VitD受容体は破骨細胞にも発現しており、骨リモデリングを促進する
臨床試験 2)
観察研究で骨癒合不全のうち25/37例でVitD欠乏があった
大腿骨近位部骨折患者を対象としたRCTでVitD+Ca群ではプラセボ群と比較して、骨折部の骨密度の優位な増加がみられた
選択的エストロゲン受容体調整薬(SERM)
作用機序 2)
骨芽細胞の働きを維持したまま破骨細胞のはたらきを弱める
骨折部では仮骨のリモデリングを軽度抑制するが骨折治癒の進行を妨げることはない
治癒過程の早期では軟骨形成を促進し後期では骨梁の密度を高め、骨皮質を厚くする
臨床試験 2)
骨折治癒への影響に関する臨床的なエビデンスは乏しい
ビスホスホネート
作用機序 2)
破骨細胞に取り込まれ、骨吸収の抑制やアポトーシスの誘導により骨リモデリングを遅延させる
骨折部の軟骨内骨化で仮骨・骨梁・骨塩量を増加させる
仮骨の形成に影響は与えないが成熟を遅延させる
骨折後の投与タイミングが仮骨に影響を与え、動物実験では2週間後の投与が最もサイズ・強度を高めた
臨床試験 3)4)
Meta-analysis
骨折後3カ月以内のBP開始と3カ月以降or非使用を比較した研究のMeta-analysis
16研究を組み入れ
骨折治癒に対して有意な影響はなかった
骨密度を有意に上昇させた
橈骨遠位端骨折
RCT
2-4週間後のアレンドロン酸開始でプラセボ群と比較して骨折治癒に有意差はなく、骨梁の増加がみられた
2週間後・3か月後のアレンドロン酸開始で骨折治癒に有意差はなかった
2週間以内のアレンドロン酸開始でプラセボ群と比較して骨折治癒に有意差はなかった
観察研究
数日以内・4か月後のアレンドロン酸開始で骨折治癒に有意差はなかった
股関節部骨折
RCT
90日以内のゾレドロン酸開始で骨折治癒遅延はなかった
1週間後・1カ月後・3か月後のリセドロン酸開始で骨折治癒に有意差はなかった
Denosumab
作用機序 2)
RANKLに対する抗体で、骨芽細胞の産生するRANKLが破骨細胞のRANK受容体に結合するのを妨げることで、破骨細胞の活動が抑制され骨吸収が低下する
骨折部での軟骨内骨化に関して、仮骨が大きくなりリモデリングが遅延するが、骨化や骨折治癒の妨げにはならない
臨床試験 5)
FREEDOM trial
閉経後の女性を対象としたRCT
試験中に851件の非椎体骨折があった
Denosumab群:386件、プラセボ群:465件
骨折の前後6週間以内にDenosumabを投与しても、骨癒合不全は生じなかった
Teriparatide
作用機序 2)
前骨芽細胞の生存・分化を促進し、骨芽細胞の機能・寿命を向上させることで、骨形成・骨強度を増加させる
骨折部では早期から効果的に作用し、軟骨・仮骨の増大、成熟を促進する
臨床試験 3)
橈骨遠位端骨折
RCT
1週間後の開始で骨癒合までの時間が短縮した
股関節部骨折
RCT
大腿骨頸部骨折に対して、2週間以内の開始でプラセボ群と比較して画像、痛みについて有意差はなかった
後ろ向き研究
転子部骨折に対して、2週間以内の開始で痛み・機能を有意に改善した
転子部骨折に対して、骨折治癒、6か月後の痛み・機能を有意に改善した
作用機序の点からBPやDenosumabでは骨癒合遅延の懸念がありましたが、臨床研究では骨折後早期に開始しても問題とならないようです。
Teriparatideは骨折治癒に関して有利にはたらく可能性があります。
全体的に椎体骨折に関するエビデンスは乏しいようです。
まとめ
骨粗鬆症治療薬の骨折に対する影響についてまとめました。
脆弱骨折のある症例では新規の骨折予防も重要であり、はビタミンD製剤を併用しつつ、骨折後早期からSERMよりもBPなど効果の高い薬剤を使うべきだと思います。
Teriparatideは投与期間や金銭的なハードルもありますが、骨折治癒を促進させる可能性もあるため、骨折後に使用を検討してもよいかもしれません。
- ビスホスホネートやDenosumabは骨代謝を抑制するが骨折治癒の遅延はしない
- Teriparatideは骨折治癒を促進する可能性がある
References
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