Fitz-Hugh-Curtis症候群(FHCS)は骨盤内炎症性疾患(PID)に伴ってみられる肝周囲炎です。
PIDが先行していればわかりやすいですが、内科外来や救急外来に発熱や右季肋部痛で受診し、肝周囲炎が先に見つかることもあります。
PID症候があればFHCSの診断はほぼ間違いないと言えますが、婦人科診察でもはっきりした症候がみられないこともしばしば経験されます。
多くの場合で後日クラミジア陽性となりFHCSだったと分かりますが、肝周囲炎の鑑別として腹膜炎をきたす他の疾患(SLEなど)もあるため、PID症候がない場合に悩むことになります。
そこで、今回はFHCSにPID症候が必須かどうか調べてみました。
Fitz-Hugh-Curtis症候群の病態は?
Fitz-Hugh-Curtis syndrome: a diagnosis to consider in women with right upper quadrant pain
Nadja G Peter, Liana R Clark, Jeffrey R Jaeger.
Cleve Clin J Med. 2004 Mar;71(3):233-9. doi: 10.3949/ccjm.71.3.233.
病態ははっきりしておらず、いくつかの機序が想定されている
直接波及
病原体が陰部から卵管、傍結腸溝を介して肝被膜へ到達
肝表面や腹水からの病原体の検出は稀
骨盤から肝臓にかけての炎症所見の報告が乏しい
男性例も報告されている
血行性播種
肝臓の巣病変の報告はあるが稀
リンパ行性播種
女性生殖器からのリンパ路は通常後腹膜
骨盤、横隔膜下のリンパ系を関連付ける解剖学的証拠がない
免疫反応
卵管炎単独より肝周囲炎を伴った症例の方が抗クラミジアIgGの抗体価が高い
クラミジアの持つChsp60 (Chlamydia 60-kd heatshock protein)がヒトHSPと相同性があり、交差反応する可能性がある
Fitz-Hugh-Curtis syndrome in adolescent and young adult females: Utility of a decision rule
Hnin Khine, Sarah Barrett Wren, Ellen J Silver et al.
Am J Emerg Med. 2021 Dec:50:183-186. doi: 10.1016/j.ajem.2021.07.053.
救急外来を受診した右上腹部痛があり性交渉歴のある13-20歳の女性 106名のFHCSの診断に関する論文
32% (34/106)が性感染症(STI) NAAT陽性
クラミジア (29例)、淋菌 (1例)、両方 (4例)
FHCSの診断はSTI群で82% (28/34)、非STI群で24% (17/72)であった
Fitz-Hugh-Curtis症候群は病態についてはいくつかの説がありますが、直接波及などよりはクラミジア感染に伴う免疫反応が最も理にかなっているように思います。
男性症例の報告もあり、免疫反応でFHCSが起こるのであれば、はっきりしたPID症候がなくてもよいのではないかと思います。
- Fitz-Hugh-Curtis症候群の病態はクラミジア感染に伴う免疫反応が想定される
Fitz-Hugh-Curtis症候群の症候は?
Chlamydia trachomatis as possible cause of peritonitis and perihepatitis in young women
J W Müller-Schoop, S P Wang, J Munzinger et al.
Br Med J. 1978 Apr 22;1(6119):1022-4. doi: 10.1136/bmj.1.6119.1022.
腹腔鏡で腹膜炎がみられた若年女性11例の検討
9/11例で血清学的に細菌のクラミジア感染が示唆された
7/11例で肝周囲炎がみられた
卵管炎は2/11例でみられたが、肝周囲炎例ではみられなかった
Clinical features of Fitz-Hugh-Curtis Syndrome in the emergency department
Je Sung You, Min Joung Kim, Hyun Soo Chung et al.
Yonsei Med J. 2012 Jul 1;53(4):753-8. doi: 10.3349/ymj.2012.53.4.753.
救急外来を受診しFHCSと診断された82例の検討
89.2% (66/74)でC. trachomatis PCR陽性であった
子宮頸部他動痛は62.3% (48/77)、付属器圧痛は35.1% (27/77)でみられた
Fitz-Hugh-Curtis症候群の臨床診断126例の検討
村尾寛, 三浦耕子, 大畑尚子ら.
日産婦誌. 2002 Dec;54(12):1681-5.
国内の単施設でFHCS 126例
A群:慢性型 41例
B群:急性型 腹腔鏡診断例 21例
C群:急性型 臨床診断例 64例
B群とC群(診断基準合致例)の比較
FHCSの症候に関する研究で、子宮頸部痛などのPID症候は3~6割程度でしかみられないようです。
- PID症候は3~6割程度でしかみられない
まとめ
Fitz-Hugh-Curtis症候群でみられるPID症候について調べました。
FHCSにPID症候は必須ではなく、問診で可能性があればクラミジアを対象とした抗菌薬を投与すべきと思います。