Nephrology

偽性高カリウム血症の機序は?再検は必須?

Answer

カリウムは細胞内に多く含まれる電解質であり、様々な要因で真のカリウム値よりも高値になることがあり、偽性高カリウム血症と呼ばれます。

たいていの場合は手技に思い当たるところがあって偽性と気付くことができますが、そうでない場合には再検することが多いと思います。

今回は偽性高カリウム血症の機序再検が必須かどうか調べてみました。

偽性高カリウム血症の機序は?

定義・分類

Pseudohyperkalemia: A new twist on an old phenomenon
Qing H Meng, Elizabeth A Wagar et al.
Crit Rev Clin Lab Sci. 2015;52(2):45-55. doi: 10.3109/10408363.2014.966898.

慣習的な定義は、正常な血漿Kと比べて > 0.4 mmol/Lの血清Kの上昇

検体採取や凝固の過程で細胞や血小板から放出されたKによる

偽性高K血症の要因
溶血
長時間の駆血
過剰な握り拳
ポビドンヨード消毒
EDTAの混入
点滴の下流からの採取
ヘパリンの混入
採血管の過剰な振盪
不適切な採血手技
検体の冷蔵
繰り返しの遠心
気送管搬送
血球分離の遅れ
骨髄増殖疾患や血小板増多
家族性偽性高K血症


偽性高カリウム血症の原因としてよく挙がるのが採血手技による溶血ですが、その他にも様々な要因があります。

この中で、特に採血手技による溶血血球増多についてまとめました。

採血手技による溶血

Pseudohyperkalemia caused by fist clenching during phlebotomy
B R Don, A Sebastian, M Cheitlin et al.
N Engl J Med. 1990 May 3;322(18):1290-2. doi: 10.1056/NEJM199005033221806.

採血時の前腕運動(fist clenching)により血漿K濃度が上昇した

駆血単独では上昇はみられなかった


Reducing the incidence of pseudohyperkalemia by avoiding making a fist during phlebotomy: a quality improvement report
Masanori Seimiya, Toshihiko Yoshida, Yuji Sawabe et al.
Am J Kidney Dis. 2010 Oct;56(4):686-92. doi: 10.1053/j.ajkd.2010.06.014.

7名の健常ボランティアで、20回の前腕運動後、10秒おきに10本の検体を採取

前腕運動終了後、血清カリウム値は8.4-25.9%低下した

採血時に握り拳を避ける方針に変更することで、偽性高K血症の頻度が減少した


A multidisciplinary approach to reducing spurious hyperkalemia in hospital outpatient clinics
Tze Ping Loh, Sunil K Sethi.
J Clin Nurs. 2015 Oct;24(19-20):2900-6. doi: 10.1111/jocn.12912.

採血に関するベストプラクティス
駆血は1分以内
前腕運動を避ける
穿刺部を叩かない
適切な径の穿刺針でゆっくり一定の速度で吸引
正しい順番で採血管に注入
採血管への注入時に力を入れない
採血管を振盪しすぎない
採血後すぐに検査室に送る
気送管のスピードを速くしすぎない

上記の教育により、説明のつかない高K血症(偽性疑い)の頻度が減少した


静脈が怒張し採血しやすくなるため採血時に握りこぶしや前腕運動(グーパーを繰り返す動き)をすることがありますが、偽性高カリウム血症が生じやすくなります。

血球増多

Pseudohyperkalemia in patients with increased cellular components of blood
Nikolaos Sevastos, George Theodossiades, Savvas P Savvas et al.
Am J Med Sci. 2006 Jan;331(1):17-21. doi: 10.1097/00000441-200601000-00006.

1系統以上の血球増多のある症例で血漿と血漿のKの差(Dk)を評価

血小板増多、赤血球増多、混合性の疾患で有意なDkの上昇がみられた (P <0.01)


Clinical Thresholds for Pseudohyperkalemia and Pseudonormokalemia in Patients with Thrombocytosis
Jose Antonio Delgado, Bernardo Lopez, Daniel Morell-García et al.
EJIFCC. 2022 Oct 28;33(3):233-241.

本態性血小板血症 54例で血小板正常時と増加時の血清K濃度変化を評価

血小板数のカットオフを598×103 /µL (95%CI 533-662×103 /µL)とすると、K上昇 (11.6%以上と定義)に関する感度 0.67 (95%CI 0.52-0.80)、特異度 0.58 (95%CI 0.42-0.72)であった


Establishing evidence-based thresholds and laboratory practices to reduce inappropriate treatment of pseudohyperkalemia
Pratistha Ranjitkar, Dina N Greene, Geoffrey S Baird et al.
Clin Biochem. 2017 Aug;50(12):663-669. doi: 10.1016/j.clinbiochem.2017.03.007.

血小板増多症、白血球増多症で全血と血清・血漿のK濃度を比較

血小板数 100×109 /Lの増加毎に血清K 0.05 mEq/L上昇した
血漿Kの変動はわずかであった

白血球数 100×109 /Lの増加毎に血清K 0.2 mEq/L、血漿K 0.6 mEq/L上昇した

血小板数 > 500×109 /Lの14%で全血と比較し血清Kが > 1 mEq/L高値であった
白血球数 > 50×109 /Lの25%で全血と比較し血清・血漿Kが > 1 mEq/L高値であった


血球増多がある場合も偽性高カリウム血症がみられます。

  • 偽性高カリウム血症は検体採取や凝固の過程で細胞や血小板から放出されたカリウムによって生じる
  • 採血手技の見直しで頻度が減る

偽性高カリウム血症で再検は必須か?

Do hemolyzed potassium specimens need to be repeated?
Boris Khodorkovsky, Bartholomew Cambria, Martin Lesser et al.
J Emerg Med. 2014 Sep;47(3):313-7. doi: 10.1016/j.jemermed.2014.04.019.

溶血による高カリウム血症 (≥ 5.5 mEq/L)で腎機能・心電図を評価

eGFR ≥ 60 mL/minのとき、再検で正常だったのは97.8% (44/45)

eGFR ≥ 60 mL/min心電図正常のとき、再検で正常だったのは100% (42/42)


Prevalence and factors associated with false hyperkalaemia in Asians in primary care: a cross-sectional study (the Unlysed Hyperkalaemia- the Unseen Burden (UHUB) study)
Alicia Ying Ying Boo, Yi Ling Eileen Koh, Pei Lin Hu et al.
BMJ Open. 2020 Sep 22;10(9):e033755. doi: 10.1136/bmjopen-2019-033755.

3014例のK高値 (> 5.5 mmol/L)のうち、溶血、ポリスチレンスルホン酸Na内服を除外

8日以内に再検された症例で、86.4% (1362/1575)がK ≤ 5.5 mmon/Lであり、偽性と判断された

腎機能毎の偽性高K血症のオッズ比


Accuracy of Hemolyzed Potassium Levels in the Emergency Department
Matt Wilson, Sam Adelman, J B Maitre et al.
West J Emerg Med. 2020 Oct 20;21(6):272-275. doi: 10.5811/westjem.2020.8.46812.

溶血によるK高値で以下の基準を設定
年齢 18-64歳
eGFR ≥60
HCO3 >20
CPK <500
カリウムを変動させる薬剤内服なし
血液悪性腫瘍なし
再検までにアルブテロール、HCO3、インスリン、フロセミド、カリウムバインダーなし

上記の基準を満たした66例では、再検でK高値はみられなかった


Role of point-of-care arterial blood potassium in diagnosing pseudohyperkalemia
Ghulam Mujtaba Ghumman, Abdul Baqi, Abid Nawaz Khan Adil et al.
Proc (Bayl Univ Med Cent). 2022 Aug 12;35(6):866-867. doi: 10.1080/08998280.2022.2108979.

動脈血液ガスでは駆血をしない、採血管を使用しない、気送管を使用しない、迅速な検査、のため白血球の破壊が少なくなる


予期せぬカリウム高値の場合に、腎機能正常、心電図正常などの条件を満たせば偽性と判断できるかもしれません。

動脈血液ガスは偽性高カリウム血症を生じにくいため、血清カリウム値との乖離も偽性の判断に有用と思います。

  • 腎機能正常、心電図正常などの条件を満たせば偽性と判断できるかもしれない
  • 動脈血液ガスとの乖離も判断に有用

まとめ

偽性高カリウム血症についてまとめました。

採血手技に思い当たるところがあったり、各種条件を満たしたりすれば偽性だろう、と思う場合も多いですが、高カリウム血症は重篤な合併症につながるおそれがあるため、少しでも気になるところがあれば再検をお奨めします。

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