Gastroenterology

こんなときPPIの予防投与は必要か?

Answer

  • 抗血栓薬
    • 抗血小板薬内服中はPPIを併用する
    • 抗凝固薬内服中はリスクに応じて併用を検討する

  • NSAIDs
    • NSAIDs内服中はPPIを併用する

  • ステロイド
    • ステロイド内服中はリスクに応じて併用を検討する

  • ストレス潰瘍
    • 一般病棟の入院中は不要
    • ICUでは出血リスクは低下するが肺炎に注意が必要

プロトンポンプ阻害薬(PPI)は使用頻度のかなり高い薬で、患者さん数人に一人は内服している印象です。

胃潰瘍の予防効果は高く、PPIを内服していればかなりの安心感があります。

添付文書に適応として記載はないけど、慣習的に使用している場面も多いと思います。

そのPPI処方は、本当に適切なのでしょうか?

特に、臨床でよく使う予防的投与に関してまとめました。

PPIの適応や有害事象は?

適応

Potential costs of inappropriate use of proton pump inhibitors
Antonio Mendoza Ladd, Georgia Panagopoulos, Joshua Cohen et al.
Am J Med Sci. 2014 Jun;347(6):446-51. doi: 10.1097/MAJ.0b013e31829f87d5.

米国の3次病院に入院した患者におけるPPIの使用が適正かどうか評価

76% (155/204)が適応外の使用であり、そのうち40% (62/155)で退院後も継続されていた

もっとも多かった処方理由は“GI prophylaxis”であった

FDAで承認されているPPIの主な適応

有害事象

Discontinuing Long-Term PPI Therapy: Why, With Whom, and How?
Laura Targownik.
Am J Gastroenterol. 2018 Apr;113(4):519-528. doi: 10.1038/ajg.2018.29.

長期のPPI内服で多数の有害事象が報告されている


PPIは「なんとなく」処方されやすい薬の一つで、「胃薬がほしい」とおっしゃる患者さんも多いです。

主な適応は胃酸や薬剤に関連した消化管粘膜障害ですが、適応外の使用がかなり多くなっているようです。

全身で何らかの有害事象を起こす可能性があり、不要な投薬は避けなければなりません。

Microscopic colitisなんかは症例検討会でもよく出ますよね。

こんなときPPIは必要?

PPIの予防内服に関して、内科でよく出会ういくつかの場面についてまとめました。

抗血栓薬

Proton pump inhibitors in prevention of low-dose aspirin-associated upper gastrointestinal injuries
Chen Mo, Gang Sun, Ming-Liang Lu et al.
World J Gastroenterol. 2015 May 7;21(17):5382-92. doi: 10.3748/wjg.v21.i17.5382.

低用量アスピリン内服患者に対するPPIの予防内服に関するMeta-analysis

PPIは上部消化管潰瘍、出血のリスクを低下させた
潰瘍:OR 0.16; 95% CI 0.12-0.23
出血:OR 0.27; 95% CI 0.16-0.43


Association of Oral Anticoagulants and Proton Pump Inhibitor Cotherapy With Hospitalization for Upper Gastrointestinal Tract Bleeding
Wayne A Ray, Cecilia P Chung, Katherine T Murray et al.
JAMA. 2018 Dec 4;320(21):2221-2230. doi: 10.1001/jama.2018.17242.

抗凝固薬内服中の患者で、PPIの有無による上部消化管出血の発症率を評価

PPI内服患者では非内服患者よりも上部消化管出血での入院が少なかった
76/10,000人年 vs 115/10,000人 (IRR 0.66 [95% CI 0.62-0.69])

抗凝固薬の種類により出血率に違いがあった

出血リスクが高いほどPPIによるリスク低下が大きかった


Pantoprazole to Prevent Gastroduodenal Events in Patients Receiving Rivaroxaban and/or Aspirin in a Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial
Paul Moayyedi, John W Eikelboom, Jackie Bosch et al.
Gastroenterology. 2019 Aug;157(2):403-412.e5. doi: 10.1053/j.gastro.2019.04.041.

リバロキサバン±アスピリン内服患者に対するPPI(Pantoprazole)の予防効果を検討したRCT

出血・潰瘍などを含む上部消化管イベントのリスクに有意差はなかった(A)

上部消化管病変からの出血リスクは有意に低下させた(B)


抗血小板薬を内服中の場合は、ほぼルーチンでPPIを併用している施設も多いと思います。

抗凝固薬の場合は、リスクに応じてPPIの併用を検討するのがよさそうです。

NSAIDs

Current approaches to prevent NSAID-induced gastropathy–COX selectivity and beyond
Jan C Becker, Wolfram Domschke, Thorsten Pohle et al.
Br J Clin Pharmacol. 2004 Dec;58(6):587-600. doi: 10.1111/j.1365-2125.2004.02198.x.

NSAIDsは胃粘膜保護に働くプロスタグランジンの産生抑制や、炎症メディエーターの産生亢進により、胃粘膜障害を生じる


Primary prevention of adverse gastroduodenal effects from short-term use of non-steroidal anti-inflammatory drugs by omeprazole 20 mg in healthy subjects: a randomized, double-blind, placebo-controlled study
Jay C Desai, Shefali M Sanyal, Tyralee Goo et al.
Dig Dis Sci. 2008 Aug;53(8):2059-65. doi: 10.1007/s10620-007-0127-4.

短期間のNSAIDs使用に対するPPIの予防効果を検討

6.5日間のNaproxen + OmeprazoleもしくはPlacebo投与前後に内視鏡で確認

PPI併用群で胃十二指腸潰瘍の発症は有意に少なかった (11.8%
vs 46.9%)


Prevention of ulcers by esomeprazole in at-risk patients using non-selective NSAIDs and COX-2 inhibitors
James M Scheiman, Neville D Yeomans, Nicholas J Talley et al.
Am J Gastroenterol. 2006 Apr;101(4):701-10. doi: 10.1111/j.1572-0241.2006.00499.x.

NSAIDs使用患者に対するPPI (Esomeprazole)の潰瘍予防効果を検討
VENUS study (11か国)、PLUTO study (米国のみ)を施行

いずれのstudyでも6か月間の潰瘍発症率は予防内服群で有意に少なかった

VENUS study
予防なし:20.4%
Esomeprazole 20mg:5.3%
Esomeprazole 40mg:4.7%

PLUTO study
予防なし:12.3%
Esomeprazole 20mg:5.2%
Esomeprazole 40mg:4.4%


Safety and efficacy of long-term esomeprazole 20 mg in Japanese patients with a history of peptic ulcer receiving daily non-steroidal anti-inflammatory drug
Kentaro Sugano, Yoshikazu Kinoshita, Hiroto Miwa et al.
BMC Gastroenterol. 2013 Mar 26;13:54. doi: 10.1186/1471-230X-13-54.

胃潰瘍の既往がある患者で、1年間のNSAIDs内服に対するPPI (Esomeprazole)の予防効果を観察

95.9%の患者で1年間の観察期間中に胃潰瘍の再発がなかった

16.9% (22/130)でEsomeprazoleによる有害事象の可能性があったが、いずれも軽度で一過性であった


NSAIDsについては、短期~中長期で胃潰瘍予防の効果が報告されています。

NSAIDsの定期内服をする場合は積極的に検討してもいいと思います。

ステロイド

Gastroprotective role of glucocorticoids during NSAID-induced gastropathy
Ludmila Filaretova.
Curr Pharm Des. 2013;19(1):29-33. doi: 10.2174/13816128130106.

ストレスやNSAIDsにより視床下部-下垂体-副腎系が活性化され、グルココルチコイドの産生が亢進する

グルココルチコイドは粘膜血流の調整、粘液産生、病原因子の減弱などを介して胃粘膜保護にはたらく


Corticosteroids and peptic ulcer: meta-analysis of adverse events during steroid therapy
H O Conn, T Poynard.
J Intern Med. 1994 Dec;236(6):619-32. doi: 10.1111/j.1365-2796.1994.tb00855.x.

1950年~1982年のステロイドと消化性潰瘍に関する研究のMeta-analysis

ステロイド使用は潰瘍の発症リスクとはならなかった
ステロイド使用群:0.4% (13/3335)、非使用群:0.3% (9/3267)


Corticosteroids and risk of gastrointestinal bleeding: a systematic review and meta-analysis
Sigrid Narum, Tone Westergren, Marianne Klemp.
BMJ Open. 2014 May 15;4(5):e004587. doi: 10.1136/bmjopen-2013-004587.

1983年~2013年のステロイドと消化管出血に関する研究のMeta-analysis

ステロイド使用は入院患者で消化管出血のリスクが有意に高かった (RR 1.42 [95% CI 1.22-1.66])が、外来患者では有意ではなかった

胃粘膜保護薬の併用について、非併用例では消化管出血のリスクが有意に高かった (RR 1.42 [95% CI 1.21-1.67])が、併用例では有意差はなかった


ステロイドは胃潰瘍のリスクになる、と教わる先生も多いのではないでしょうか。
実際、わたしは研修医の頃はそう教わっていました。

生理学的にはむしろ胃粘膜保護作用があるようですが、新しいMeta-analysisでは出血のリスクを上昇させる結果になっています。

最近のレビューでもcontroversialなようです。

現時点では、NSAIDsや抗血栓薬の併用など他のリスクに応じた使用が妥当かと思います。

ストレス潰瘍

The clinical significance and pathophysiology of stress-related gastric mucosal hemorrhage
R S Bresalier.
J Clin Gastroenterol. 1991;13 Suppl 2:S35-43.

ストレス潰瘍の機序


Hospital-acquired gastrointestinal bleeding outside the critical care unit: risk factors, role of acid suppression, and endoscopy findings
Mohammed A Qadeer, Joel E Richter, Daniel J Brotman.
J Hosp Med. 2006 Jan;1(1):13-20. doi: 10.1002/jhm.10.

米国の3次病院で、一般内科入院中の患者における消化管出血は4年間で0.4% (73/17,707)であった

抗凝固薬とクロピドグレル内服がリスク因子であった

予防的な制酸薬は有意なリスク低下にならなかった


Efficacy and safety of stress ulcer prophylaxis in critically ill patients: a network meta-analysis of randomized trials
Waleed Alhazzani, Fayez Alshamsi, Emilie Belley-Cote et al.
Intensive Care Med. 2018 Jan;44(1):1-11. doi: 10.1007/s00134-017-5005-8.

ICU患者に対するPPIの予防投与に関するNetwork meta‑analysis

PPIはプラセボや他剤(H2RA・スクラルファート)に比べて消化管出血のリスクを低下させた(a)が、肺炎のリスクを上昇させる傾向があった(b)


ストレス潰瘍に関して、一般病棟に入院するレベルの身体ストレスであれば予防内服は不要です。

ICUレベルでは出血のリスクは低下させますが、肺炎に注意が必要です。

状態が安定したら中止、など治療状況に合わせて使用すべきと思います。

まとめ

PPIの予防投与についてまとめました。

いずれにせよ状況に応じて漫然と使用するのを避けることが大切です。

おそらく、先生方の経験によって意見の異なるところが多いのではないかと思います。

あくまでも論文ベースのエビデンスですが、参考になれば幸いです。

Answer

  • 抗血栓薬
    • 抗血小板薬内服中はPPIを併用する
    • 抗凝固薬内服中はリスクに応じて併用を検討する

  • NSAIDs
    • NSAIDs内服中はPPIを併用する

  • ステロイド
    • ステロイド内服中はリスクに応じて併用を検討する

  • ストレス潰瘍
    • 一般病棟の入院中は不要
    • ICUでは出血リスクは低下するが肺炎に注意が必要

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