感染症ではふつう発熱がみられますが、体温が上がらない場合や、反対に低体温のこともあります。
低体温は敗血症の9-16%で生じ、敗血症性ショックでは13-21%でみられるといわれています。
(Garami A et al. Handb Clin Neurol. 2018; 157: 565-97.)
今回は、敗血症における低体温の機序や意義についてまとめました。
敗血症で低体温になる機序は?
まずは敗血症における低体温の機序を調べました。
Fever and hypothermia in systemic inflammation
Andras Garami, Alexandre A Steiner, Andrej A Romanovsky.
Handb Clin Neurol. 2018;157:565-597. doi: 10.1016/B978-0-444-64074-1.00034-3.
全身炎症における低体温の機序は確立していない
体温の低下は行動変容(低温環境への移動)、自律神経作用(熱の喪失・産生低下)で生じる
ラットに細菌のLPSを投与した実験では、LPSの増量で特に低温環境で低体温がみられた
大量のLPSによる低体温の機序は主に熱産生低下による
通常、体温調節機構の閾値は狭い範囲に収まっているが、LPSに曝露されると体温上昇機構の閾値が低下し閾値の幅が2℃程度まで拡大するため、体温が環境温に依存しやすくなる

TNF-αが低体温に最も重要なサイトカインと考えられている
TNF-αとその受容体は全身炎症での体温抑制に関与する
※IL-6は熱産生、IL-1βは熱維持に関与する
Patients with hypothermic sepsis have a unique gene expression profile compared to patients with fever and sepsis
Matthew B A Harmon, Brendon P Scicluna, Maryse A Wiewel et al.
J Cell Mol Med. 2022 Apr;26(7):1896-1904. doi: 10.1111/jcmm.17156.
敗血症患者の白血球遺伝子発現を評価
低体温症例では発熱症例と比較して以下の遺伝子発現が多かった
Cold-inducible mRNA binding protein
Tryptophan degradation X
Phenylalanine degradation IV
Putrescine degradation III
Risk factors, host response and outcome of hypothermic sepsis
Maryse A Wiewel, Matthew B Harmon, Lonneke A van Vught et al.
Crit Care. 2016 Oct 14;20(1):328. doi: 10.1186/s13054-016-1510-3.
ICUに入院した敗血症患者のうち、24時間以内に36℃以下の低体温になったのは35.4%(186/525)
低体温症例はAPACHEスコアやSOFAスコアで評価した重症度が高かった
多変量解析で低BMI、高血圧症、慢性心血管疾患が低体温と関連していた
血漿の炎症性・非炎症性サイトカインは低体温症例、非低体温症例で有意差がなかった
APACHEスコアを含む解析で、低体温症例は90日死亡率が高かった
aOR 2.08, 95%CI 1.38-3.16
敗血症における低体温の機序はまだ確立していません。
LPSやサイトカイン、白血球の遺伝子発現などが影響していると考えられています。
- 低体温の機序は確立していない
- LPSやサイトカイン、白血球の遺伝子発現などが影響していると考えられている
敗血症で低体温の意義は?
続いて、敗血症における低体温の臨床的な意義についてまとめました。
Fever Is Associated with Reduced, Hypothermia with Increased Mortality in Septic Patients: A Meta-Analysis of Clinical Trials
Zoltan Rumbus, Robert Matics, Peter Hegyi et al.
PLoS One. 2017 Jan 12;12(1):e0170152. doi: 10.1371/journal.pone.0170152.
体温敗血症の死亡率との関連を検討したMeta-analysis
42研究、10,834症例を組み入れ
低体温(<36℃)では高体温(>38℃)、正常体温(36-38℃)に比べて死亡率が高かった
低体温:47.3% (CI 38.9-55.7)
正常体温:31.2% (CI 25.7-37.3)
高体温:22.2% (CI 19.2-25.5)
メタ回帰分析では体温と死亡率に負の相関がみられた

Significance of body temperature in elderly patients with sepsis
Takashi Shimazui, Taka-Aki Nakada, Keith R Walley et al.
Crit Care. 2020 Jun 30;24(1):387. doi: 10.1186/s13054-020-02976-6.
3つのコホートを用いて、敗血症症例で体温と死亡率の関連を年齢層毎に解析
非高齢者(<75歳)では体温<36.0℃で90日死亡率が有意に高かった
aHR 1.70, 95% CI 1.07–2.71, P = 0.025 (FORECAST)
aHR 2.05, 95% CI 1.29–3.26, P = 0.0024 (JAAMSR)
aHR 1.36, 95% CI 1.03–1.80, P = 0.029 (SPH)
高齢者(≥75歳)では低体温と死亡率の関連はみられなかった
敗血症において、低体温では死亡率が高いと報告されています。
ただし、高齢者では関連していない可能性があります。
- 低体温では死亡率が高い
- 高齢者では低体温と死亡率の関連がみられない
まとめ
敗血症における低体温の機序や意義についてまとめました。
残念ながら正確な機序についてはまだよくわかっていないようです。
低体温では死亡率が高いとされており、注意が必要です。