SGLT2阻害薬は近位尿細管のSGLT2を阻害して尿の糖排泄を増加させる血糖降下薬ですが、心不全、慢性腎臓病にも有用と証明されています。
SGLT2阻害薬は使用開始時に一時的なeGFR の低下がよくみられ、initial dipと呼ばれます。
今回はこのSGLT2阻害薬によるinitial dipの機序や長期的な腎機能への影響を調べました。
SGLT2阻害薬のeGFR低下の機序は?
Renoprotective Mechanism of Sodium-Glucose Cotransporter 2 Inhibitors: Focusing on Renal Hemodynamics
Nam Hoon Kim, Nan Hee Kim.
Diabetes Metab J. 2022 Jul;46(4):543-551. doi: 10.4093/dmj.2022.0209.
SGLT2は主に腎臓の近位尿細管に発現し、グルコース、ナトリウムの再吸収に寄与する
糖尿病ではSGLT2の発現が増加する
ナトリウムの再吸収が増加することで傍糸球体装置の緻密斑(macula densa)に到達するナトリウムが減少する
Na+/K+-ATPaseによるATPからADPへの変換が減少しアデノシンの産生が減少
アデノシンは輸入細動脈のA1受容体に作用し細動脈収縮を促すが、アデノシンの産生低下により、輸入細動脈が相対的に拡張する
RAA系は活性化し、輸出細動脈が収縮する
糸球体内圧が上昇し糸球体過剰濾過となる
SGLT2阻害薬は緻密斑へ到達するナトリウム量を正常化する
アデノシンの産生が増加し、輸入細動脈が収縮し糸球体内圧が低下、糸球体過剰濾過が是正される
尿細管糸球体フィードバックの正常化が腎保護につながる

SGLT2阻害薬は糖尿病で過剰になった糸球体濾過を改善する効果があり、結果的にGFRが低下します。
尿細管糸球体フィードバックが正常化することで長期的には腎保護につながると考えられています。
- SGLT2阻害薬は糖尿病で過剰になった糸球体濾過を改善しGFRが低下する
長期的な腎機能への影響は?
Kidney outcomes associated with use of SGLT2 inhibitors in real-world clinical practice (CVD-REAL 3): a multinational observational cohort study
Hiddo J L Heerspink, Avraham Karasik, Marcus Thuresson et al.
Lancet Diabetes Endocrinol. 2020 Jan;8(1):27-35. doi: 10.1016/S2213-8587(19)30384-5.
実臨床でのSGLT2阻害薬によるeGFRの変化に関する国際コホート研究
※イスラエル、イギリス、イタリア、台湾、日本(Medical Data Vision)のデータ
SGLT2阻害薬では治療開始早期のeGFR低下がみられたが、長期的には上向きの変化がみられた
他の血糖降下薬と比べて、腎複合アウトカム(eGFR>50%低下、末期腎不全)のリスクが低かった
HR 0.49, 95% CI 0.35–0.67; p<0.0001

Kidney Outcomes Associated With SGLT2 Inhibitors Versus Other Glucose-Lowering Drugs in Real-world Clinical Practice: The Japan Chronic Kidney Disease Database
Hajime Nagasu, Yuichiro Yano, Hiroshi Kanegae et al.
Diabetes Care. 2021 Nov;44(11):2542-2551. doi: 10.2337/dc21-1081.
実臨床でのSGLT2阻害薬によるeGFRの変化に関する国内のコホート研究
SGLT2阻害薬では治療開始早期のeGFR低下がみられたが、長期的には他の血糖降下薬と比較し低下が小さかった
他の血糖降下薬と比べて、腎複合アウトカム(eGFR>50%低下、末期腎不全)のリスクが低かった
HR 0.40, 95% CI 0.26–0.61; p<0.0001

Clinical Implications of Estimated Glomerular Filtration Rate Dip Following Sodium-Glucose Cotransporter-2 Inhibitor Initiation on Cardiovascular and Kidney Outcomes
Yan Xie, Benjamin Bowe, Andrew K Gibson et al.
J Am Heart Assoc. 2021 Jun;10(11):e020237. doi: 10.1161/JAHA.120.020237.
実臨床でのSGLT2阻害薬によるeGFRの変化に関する米国のコホート研究
SGLT2阻害薬では他の血糖降下薬と比較して治療開始早期のeGFR低下が多くみられた

SGLT2阻害薬を継続した症例・6カ月時点で中止していた症例を比較すると、eGFR>30%低下でも継続群のほうが心血管・腎予後が良かった

各種のSGLT2阻害薬に関するコホート研究で、SGLT2阻害薬では早期のeGFR低下がみられます。
eGFRの低下があっても、継続した方が長期的には腎保護作用があるようです。
- eGFRの低下があっても長期的には腎保護作用がみられる
まとめ
SGLT2阻害薬による早期のGFR低下(initial dip)の機序や長期的な腎保護作用について調べました。
一時的にeGFRの低下が見られた場合は、他の腎機能低下の原因がないか注意は必要ですが、可能な限り継続したほうが腎保護につながるようです。