皆さんは痰の外観をどのように評価していますか?
看護師さんが採取して、そのまま検査室に送ってもらっている場合はあまり目にしていないかもしれません。
グラム染色を自分でされる先生方は痰を見る機会は多いと思いますが、“どうせグラム染色するし・・・”、とあまり気にしていないかもしれません。
今回は、痰の外観が肺炎の診断や菌の推定に役立つのか、考えてみました。
膿性痰の意義は?
A STUDY OF TECHNIQUES FOR THE EXAMINATION OF SPUTUM IN A FIELD SURVEY OF CHRONIC BRONCHITIS
D L MILLER.
Am Rev Respir Dis. 1963 Oct;88:473-83. doi: 10.1164/arrd.1963.88.4.473.
有名なMiller & Jones分類の原著
痰を外観の粘液性、膿性で分類
M1:膿を含まない純粋な粘液性痰
M2:多少の膿性部分があるが、主に粘液性痰
P1:膿性部分が1/3未満の膿性痰
P2:膿性部分が1/3~2/3の膿性痰
P3:膿性部分が2/3を越える膿性痰
M1→M2→P1→P2→P3の順で含まれる細胞数が多くなる
Sputum quality: can you tell by looking?
D J Flournoy, L J Davidson.
Am J Infect Control. 1993 Apr;21(2):64-9. doi: 10.1016/0196-6553(93)90226-t.
痰の外観(Watery、Mucoid、Mucopurulent)と鏡検時の質(Poor~Good)を比較した研究
※Inadequateは研究から除外
喀出痰では、外観がMucopurulentの痰の87%で鏡検上Good・Fairだった
外観が膿性であれば感染症などの炎症により白血球が増加している可能性を示唆します。
Miller & Jones分類でP2-3の痰であれば、グラム染色でGeckler分類の4-5に相当する像が得られます。
粘液性の場合は検体不良の場合もあるので注意しましょう。
- 膿性は炎症を示唆する
痰の色の意義は?
膿性の中でも痰の色の違いに意味はあるのでしょうか?
膿性痰でよく目にするのは緑色・黄色だと思います。
細菌毎にも特徴的な痰の色を呈することがあると言われており、ブドウ球菌では黄色、緑膿菌では緑色、レジオネラではオレンジ色、肺炎球菌では鉄さび色、クレブシエラではいちごゼリー様の痰などが有名です。
では、それぞれの色は何に由来しているのでしょうか?
痰の色の由来は?
Assessment of airway neutrophils by sputum colour: correlation with airways inflammation
R A Stockley, D Bayley, S L Hill et al.
Thorax. 2001 May;56(5):366-72. doi: 10.1136/thorax.56.5.366.
好中球、単球といった炎症性細胞のもつMyeloperoxidaseは緑色のヘムを含む
痰の色の濃さ(0=透明~8=濃緑)はMyeloperoxidaseの量と相関し、炎症性細胞の少ない痰は透明や白色、多い痰は緑色となり、中間の痰は黄色に見える
Staphylococcus aureus golden pigment impairs neutrophil killing and promotes virulence through its antioxidant activity
George Y Liu, Anthony Essex, John T Buchanan et al.
J Exp Med. 2005 Jul 18;202(2):209-15. doi: 10.1084/jem.20050846.
黄色ブドウ球菌のaureusはラテン語で黄金という意味で、コロニーの色に由来する
黄色ブドウ球菌の産生する色素は抗酸化作用をもち、好中球からの攻撃に抵抗性がある
Characterization of the virulence of Pseudomonas aeruginosa strains causing ventilator-associated pneumonia
George Y Liu, Anthony Essex, John T Buchanan et al.
J Exp Med. 2005 Jul 18;202(2):209-15. doi: 10.1084/jem.20050846.
緑膿菌はpyoverdine(図A)、pyocyanin(図B)という色素を産生する
pyoverdineはバイオフィルム形成に必要
pyocyanin は肺炎の病態に必須の役割を果たすと報告されている
VAPで検出された緑膿菌のうち、74.4%でpyoverdine、7.8%でpyocyanin、10%で両方の色素が確認された
7.8%ではどちらの産生もなかった
Mechanism of formation of the orange-colored sputum in pneumonia caused by Legionella pneumophila
Jiro Fujita, Masato Touyama, Kenji Chibana et al.
Intern Med. 2007;46(23):1931-4. doi: 10.2169/internalmedicine.46.0444.
レジオネラの培養でオレンジ色の色素が確認できた(図)
L-tyrosineを添加した培地ではオレンジの色素が増強された
レジオネラは生体のtyrosineを利用しオレンジの色素を産生すると考えられる
痰の緑色、黄色は主に炎症性細胞のもつMyeloperoxidaseに由来した色が主体です。
細菌が産生する色素によって痰が特徴的な色になる場合がありますが、ブドウ球菌や緑膿菌のように色素が病原に関わることもあるようです。
ちなみに、肺炎球菌、クレブシエラの濃い赤色の痰は出血や組織破壊を反映していると言われています。
では、それぞれの色の違いは肺炎の診断や菌の推定に役立つのでしょうか?
痰の色は肺炎の診断や細菌の推定に役立つ?
Sputum Color: Potential Implications for Clinical Practice
Allen L Johnson, David F Hampson, Neil B Hampson.
Respir Care. 2008 Apr;53(4):450-4.
289検体を色別に8つに分類 (green、yellow-green、rust、yellow、red、cream、white、clear)
green、yellow-green、rust、yellowでは、グラム染色で下気道感染に矛盾しない検体や、グラム染色で有意な細菌が確認できる検体、培養で有意な細菌が検出される検体が多かった
Sputum colour for diagnosis of a bacterial infection in patients with acute cough
Attila Altiner, Stefan Wilm, Walter Däubener et al.
Scand J Prim Health Care. 2009;27(2):70-3. doi: 10.1080/02813430902759663.
241患者の喀痰の色、培養結果を検討
28例で細菌感染が証明され、そのうち22例が黄色・緑色痰で、6例が無色痰であった
Sputum colour and bacteria in chronic bronchitis exacerbations: a pooled analysis
Marc Miravitlles, Frank Kruesmann, Daniel Haverstock et al.
Eur Respir J. 2012 Jun;39(6):1354-60. doi: 10.1183/09031936.00042111.
慢性気管支炎急性増悪の患者の痰4,089検体を検討
緑色痰で細菌の検出される頻度が最も高かった(58.9%)
検出された細菌毎の検討でも黄色痰、緑色痰の頻度が高かった
緑色痰が必ずしも細菌感染を意味するわけではありませんが、グラム染色や培養など、次の検査に進むきっかけになります。
また、各細菌で痰の色に特徴があると言われていますが、実際は炎症を反映した緑色~黄色痰が多いようです。
ただし、特徴的な色がみられた場合にはその細菌を想定してもいいと思います。
特に、レジオネラはグラム染色では見えにくいので、尿中抗原や特殊染色・培養の依頼など追加の対応が必要になります。
- 緑色、緑色は白血球のMyeloperoxidaseに由来する
- 頻度は高くないが、細菌によっては特徴的な色を呈することがある
まとめ
痰の外観の評価の有用性についてまとめました。
外観だけでは決め手に欠けることも多いですが、グラム染色や培養など、次の検査に進むかどうかの判断材料になります。
また、グラム染色ができない状況では感染症の有無を判断する有用な情報の一つになり、時には菌の推定まで出来てしまうかもしれません。