General Internal Medicine

繰り返す失神の原因は?―知っておきたい失神の原因2疾患

Answer

失神、低血圧には心原性や神経調節性など様々な原因がありますよね。

特に心原性では突然死にを起こす重篤なものもあります。

そうでなくとも転倒のリスクになったり、軽微なものでも繰り返すことで、QOLやADLの低下にもつながったりします。

今回は繰り返す失神の鑑別として、比較的稀な疾患を2つ紹介します。

食後の失神―食後低血圧症

食事中~食後にのみ血圧が低下する、“食後低血圧症”という疾患があります。


Postprandial hypotension: epidemiology, pathophysiology, and clinical management
R W Jansen, L A Lipsitz
Ann Intern Med. 1995 Feb 15;122(4):286-95. doi: 10.7326/0003-4819-122-4-199502150-00009.

よく使用される定義
食事開始後2時間以内に収縮期血圧20mmHg以上の低下

患者背景
高血圧症、糖尿病、パーキンソン病、多系統萎縮症、腎不全

病態生理の仮説
正常では内臓血流の増加に反応して交感神経の活性化、心拍数の上昇が生じる
自律神経の失調で心拍数上昇や末梢血管収縮が起こりにくい
インスリンにより末梢血管拡張が生じる
腸管への体液シフトで血管内容量が減少する

治療
非薬物療法
  不要な降圧薬の中止
  食後の長時間の座位、立位を避ける
  水分・塩分摂取、利尿薬中止
  少量、頻回の食事
薬物療法
  カフェイン
  オクトレオチド
  フルドロコルチゾン
  インドメタシン
  α1作動薬


失神に至らない症例もあり、診断が難しいこともあります。

当院でも、主訴が食欲低下で、食事前から食事中、食事後まで血圧測定を繰り返して診断できた症例がありました。

  • 食後低血圧症では食事により血圧が低下する

透析に関連した血圧低下―酢酸不耐症

透析開始後や透析後に血圧低下や頭痛などの症状があるとき、透析困難症とよばれたりします。

内服薬の影響だったり、透析速度の問題だったり、様々な原因がありますが、まれに“酢酸不耐症”が原因のことがあります。


無酢酸透析液
荒川昌洋, 升田吾子, 東郷好美 ら.
大阪透析研究会会誌. 2008;26(2):253-6.

1960年代に、透析液にアルカリ化剤として酢酸ナトリウムが使用されるようになった

本来生体内にほとんど存在しない酢酸ナトリウムが添加されることにより、心機能抑制作用、末梢血管拡張作用に起因した低血圧性ショックを起こす酢酸不耐症が問題となった

その後の透析液は、炭酸塩生成による結晶析出を防ぐという技術的な観点から、少量の酢酸を含有している

酢酸ナトリウムを全く含まない無酢酸透析液が開発された


重炭酸透析における症候性低血圧症と酢酸不耐症について
小北 克也, 山本 忠司, 山川 智之
透析会誌. 2016;49(7):483-91. doi: 10.4009/jsdt.49.483.

酢酸による低血圧の機序としては、酢酸のもつ末梢血管拡張作用が代償性の自律神経反射による末梢血管収縮機能や心循環系の調整能を障害することが考えられている

有機酸の血圧低下作用は血管内皮細胞によるNO産生が原因と考えられている

低濃度酢酸を含む重炭酸透析液が使用されるようになって酢酸不耐症は激減した

無酢酸透析であるAFB やクエン酸含有透析液で透析低血圧の改善が報告されている

酢酸を低濃度 (8~10 mEq/L)含有する重炭酸透析液を受けた外来維持透析患者391名を対象とした研究
症候性低血圧は71名 (18%)、酢酸不耐症は1名 (0.3%)であった
酢酸クリアランスの全患者平均値は1.30±0.42 L/min であり、健常者における2.3 L/min に比して、平均で57%程度の能力であった
酢酸不耐症患者の酢酸クリアランスは0.81 L/minであった


透析液の変遷
友雅司
人工臓器. 2017;46(1):55-9

本邦における血液透析液の組成


透析液に含まれる酢酸が原因で低血圧などの症状をきたすことがあります。

現在では酢酸含有量が少なく調整されているため、稀ではありますが、皆無というわけではありません。

透析患者さんで透析に関連して血圧低下を繰り返す場合は、“酢酸不耐症”も鑑別に挙げ、無酢酸透析を試してみましょう。

  • 透析液に含まれる酢酸が原因で酢酸不耐症を生じることがある
  • 酢酸不耐症の場合は無酢酸透析を試す

まとめ

今回は知っておきたい失神の原因疾患を紹介しました。

どちらも状況を詳しく問診することが気付くきっかけになります。

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