- 失神の40-90%で起こると報告されている
- 運動様式はてんかん発作に類似する
- 発作の状況や失神らしい前駆症状が鑑別に有用
- けいれん性失神の運動所見はてんかん発作に比べて持続時間が短い
- 脳波は虚血の程度を反映する
- 乳酸はてんかん発作の方が有意に高値だが、けいれん性失神でも上昇する
一過性の意識消失・意識障害で失神とてんかん発作の鑑別はしばしば問題となります。
失神は脳の一過性の虚血による意識消失であるのに対し、てんかん発作は脳の異常な電気信号によが原因で、けいれん運動の有無で鑑別することも多いと思います。
目撃者からけいれんの病歴が確認できればてんかん発作と診断したいところですが、厄介なことに失神でもけいれんがみられることがあり、けいれん性失神(convulsive syncope)と呼ばれます。
今回はけいれん性失神の特徴やてんかん発作との鑑別を考えます。
けいれん性失神の特徴は?
Convulsive syncope in blood donors
J T Lin, D K Ziegler, C W Lai et al.
Ann Neurol. 1982 May;11(5):525-8. doi: 10.1002/ana.410110513.
262,935回の献血で824回の失神エピソードが報告され、11.9% (98/824)でけいれん運動がみられた
その後の前向き観察期間で、84例の失神エピソードがあり、41.6% (35/84)でけいれん運動がみられた
前向き観察期間ではけいれんの様子が記録され、23例で強直発作がみられた
典型的な発作様式
- ボーっとした表情で、顔面蒼白、発汗
- 眼球上転、頭部伸展、肘関節屈曲、握りこぶし
- しばしば開口障害、痙笑
- 数秒~30秒程度の発声
- その後脱力
- 意識は速やかに回復するが、意識混濁が数分程度遷延する症例もあった
Syncope: a videometric analysis of 56 episodes of transient cerebral hypoxia
T Lempert, M Bauer, D Schmidt.
Ann Neurol. 1994 Aug;36(2):233-7. doi: 10.1002/ana.410360217.
健常者で失神を誘発し観察
意識消失の時間は12.1±4.4秒
ミオクローヌスは90% (38/40)でみられた
意識消失から2.6±0.9秒後にはじまり、6.6±3.5秒持続
76%で開眼、そのうち66%で眼球は上転
実臨床ではそこまで頻度が多いようには感じませんが、献血時の失神(おそらく迷走神経反射)の40%、誘発された失神の90%でけいれん運動、ミオクローヌスが観察されると報告されています。
運動様式はてんかん発作と類似していますが、意識消失の持続時間が短い点は失神らしい点だと思います。
- 失神の40-90%で起こると報告されている
- 運動様式はてんかん発作に類似する
けいれん性失神とてんかん発作の鑑別は?
それでは、実臨床で失神とてんかん発作をどのように鑑別すればよいのでしょうか?
いくつかポイントを紹介します。
病歴
Historical criteria that distinguish syncope from seizures
Robert Sheldon, Sarah Rose, Debbie Ritchie et al.
J Am Coll Cardiol. 2002 Jul 3;40(1):142-8. doi: 10.1016/s0735-1097(02)01940-x.
てんかん発作102例と失神437例を比較し、病歴による鑑別クライテリアを作成
失神症例の15%で異常な四肢のけいれん運動がみられた
病歴による鑑別スコア
合計1点以上の場合、感度 94%、特異度 94%でてんかん発作を示唆
救急診療の教科書などで取り上げられることの多い失神とてんかん発作の鑑別に関するスコアです。
0点以下であれば失神らしいと言えますが、けいれん性失神では運動所見で1点か2点は入ってしまうため、発作の状況や失神らしい前駆症状がてんかん発作との鑑別のポイントとなります。
発作様式
Differentiating motor phenomena in tilt-induced syncope and convulsive seizures
Sharon Shmuely, Prisca R Bauer, Erik W van Zwet et al.
Neurology. 2018 Apr 10;90(15):e1339-e1346. doi: 10.1212/WNL.0000000000005301.
てんかん発作とTilt試験で誘発された失神の運動様式を比較
65例の失神のうち、ミオクローヌスは51%(33/65)、強直性姿勢は65%(42/65)でみられた
ミオクローヌスは失神に比べてんかん発作の方が回数が多く律動的であった
10回未満でてんかん発作は除外、20回以上でてんかん発作に特異的
脳波との関連
失神症例の脳波では22例で徐波(S)、43例で徐波-平坦-徐波(SFS)のパターンがみられた
SFS群でミオクローヌス(OR 4.5, 95%CI 1.5–13.8)、強直性姿勢(OR 61.8, 95%CI 12.5–304.1)が多くみられた
ミオクローヌスは徐波時に、強直性姿勢は平坦脳波時に一致してみられた
失神でみられる運動所見の機序
軽度の脳潅流低下(図B・D)では脳波は徐波化し、皮質は機能低下・脱抑制するが、脳幹の機能は保たれる
このとき、皮質由来のミオクローヌスが生じる
重度の脳潅流低下(図C)では脳波は平坦化し、皮質機能は消失し、脳幹機能も低下する
このとき、脳幹の脱抑制により強直性姿勢が生じる
けいれん性失神の運動所見はてんかん発作に比べて持続時間が短いことが特徴です。
脳波ではいわゆるてんかん波はみられませんが、脳波所見や運動所見には脳の虚血の程度が反映されるようです。
血液検査
Clinical utility of serum prolactin and lactate concentrations to differentiate epileptic seizures from non-epileptic attacks in the emergency room
Mitsunori Shimmura, Kei-Ichiro Takase.
Seizure. 2022 Feb;95:75-80. doi: 10.1016/j.seizure.2021.12.014.
救急外来で、てんかん発作、心因性非てんかん性発作(PNES)、失神と診断された症例のプロラクチン、乳酸を評価
プロラクチン、乳酸はイベントから3時間以内に測定
失神症例の39%(16/41)がけいれん性失神であった
けいれんがみられた症例の比較で、プロラクチン、乳酸はてんかん発作で優位に高かった
PNES、失神の間で有意差はなかった
プロラクチンは実臨床で測定することはありませんが、乳酸は血液ガスで測定します。
てんかん発作の方が有意に高値ではありますが、筋運動を反映してけいれん性失神でも上昇するため、鑑別に使うのは難しいかもしれません。
- 発作の状況や失神らしい前駆症状が鑑別に有用
- けいれん性失神の運動所見はてんかん発作に比べて持続時間が短い
- 脳波は虚血の程度を反映する
- 乳酸はてんかん発作の方が有意に高値だが、けいれん性失神でも上昇する
まとめ
けいれん性失神の特徴やてんかん発作との鑑別についてまとめました。
運動所見だけではてんかん発作と見分けがつきにくいこともあるため、前後の病歴も合わせた判断が必要になります。
- 失神の40-90%で起こると報告されている
- 運動様式はてんかん発作に類似する
- 発作の状況や失神らしい前駆症状が鑑別に有用
- けいれん性失神の運動所見はてんかん性発作に比べて持続時間が短い
- 脳波は虚血の程度を反映する
- 乳酸はてんかん性発作の方が有意に高値だが、けいれん性失神でも上昇する