Hematology

トラネキサム酸やカルバゾクロムは止血に有用か?【アドトラ】

Answer

2023/10/9更新

  • 外傷に対するトラネキサム酸投与に関するRCTを2つ追加しました

出血症状のある患者さんにどんな対応をしていますか?

根本的には血小板や凝固異常があればその改善や補充が第一ですが、いわゆる“アドトラ”を使うことも多いのではないでしょうか。

“アドトラ”というのはアドナ・トランサミンの略で、それぞれカルバゾクロムスルホン酸ナトリウム・トラネキサム酸の商品名です。

“オグサワ”みたいな。

静注も内服もできて、非常に使いやすい薬ですが、なんとなくお作法的に使っていませんか?

今回は2剤の作用機序や効果についてまとめました。

トラネキサム酸

トラネキサム酸は50年以上も前に日本で開発された薬です。

古典的な薬ですが、2010年のCRASH-2 trialを皮切りとして、この10年で外傷・産科を中心に止血に関するエビデンスが蓄積されてきています。

遺伝性血管浮腫の発作時や、美容領域でも使用されています。

トラネキサム酸の作用機序、内科疾患に関するエビデンスを紹介します。

作用機序

Tranexamic Acid for Acute Hemorrhage: A Narrative Review of Landmark Studies and a Critical Reappraisal of Its Use Over the Last Decade
Heiko Lier, Marc Maegele, Aryeh Shander et al.
Anesth Analg. 2019 Dec;129(6):1574-1584. doi: 10.1213/ANE.0000000000004389.

トラネキサム酸はプラスミノーゲンの結合部位に競合的に作用

プラスミノーゲンのプラスミンへの活性化を阻害

プラスミンのフィブリンへの結合を阻害(線溶を阻害

有用性

喀血

Efficacy of tranexamic acid in haemoptysis: A randomized, controlled pilot study
Balaji Laxminarayanshetty Bellam, Deba Prasad Dhibar, Vikas Suri et al.
Pulm Pharmacol Ther. 2016 Oct;40:80-3. doi: 10.1016/j.pupt.2016.07.006.

インドの高度医療機関における喀血患者に対するトラネキサム酸の効果を検証したRCT

sub-massive haemoptysis(600 mL以下の喀血)の患者66名をトラネキサム酸・プラセボに割付
治療群:トラネキサム酸 1 gを静注でloading、その後 1 gを8時間で点滴

治療群で良好な傾向がみられた
喀血頻度:2.23 ± 2.11/day vs 2.29 ± 2.0/day (p = 0.883)
喀血量:34.19 ± 67.0 mL vs 90.4 ± 79.0 mL (p = 0.073)
治療介入(BAE、PAE):16.27% vs 38.1% (p = 0.053)

薬剤に関連した有害事象はみられなかった


Effect of tranexamic acid on mortality in patients with haemoptysis: a nationwide study
Takahiro Kinoshita, Hiroyuki Ohbe, Hiroki Matsui et al.
Crit Care. 2019 Nov 6;23(1):347. doi: 10.1186/s13054-019-2620-5.

日本のデータベースを基に、喀血患者に対するトラネキサム酸の効果を検証した後ろ向き研究

傾向スコアマッチング法を用いて9,933ペアを比較

トラネキサム酸を使用した群では、院内死亡率が有意に低く(11.5% vs 9.0%)、入院期間も優位に短かった(18 ± 24日 vs 16 ± 18日)

血栓塞栓症の頻度に有意差はなかった(2.1% vs 2.3%)

消化管出血

Effects of a high-dose 24-h infusion of tranexamic acid on death and thromboembolic events in patients with acute gastrointestinal bleeding (HALT-IT): an international randomised, double-blind, placebo-controlled trial
HALT-IT Trial Collaborators
Lancet. 2020 Jun 20;395(10241):1927-1936. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30848-5.

15か国164病院で消化管出血に対するトラネキサム酸の効果を検証したRCT

12,009患者をトラネキサム酸群・プラセボ群に割付
トラネキサム酸:1 gを10分でローディング、その後 3 gを24時間で投与

5日以内の消化管出血による死亡率に有意差はなかった

トラネキサム酸群で静脈血栓症の頻度が有意に高かった
0.8% vs 0.4%; RR 1.85; 95% CI 1.15 to 2.98

頭蓋内出血

Tranexamic acid for hyperacute primary IntraCerebral Haemorrhage (TICH-2): an international randomised, placebo-controlled, phase 3 superiority trial
Nikola Sprigg, Katie Flaherty, Jason P Appleton et al.
Lancet. 2018 May 26;391(10135):2107-2115. doi: 10.1016/S0140-6736(18)31033-X.

12か国124病院で脳出血に対するトラネキサム酸の効果を検証したRCT

2,325患者をトラネキサム酸群・プラセボ群に割付
トラネキサム酸:1 gをボーラス投与、その後 1 gを8時間で投与

90日時点の機能予後は両群で有意差がなかった

7日目までの死亡はトラネキサム酸群で有意に少なかった
9% vs 11%; aOR 0.73, 95% CI 0.53-0.99, p=0.0406

90日目までの死亡は両群で有意差がなかった

静脈血栓症の頻度に有意差はなかった


Ultra-early tranexamic acid after subarachnoid haemorrhage (ULTRA): a randomised controlled trial
René Post, Menno R Germans, Maud A Tjerkstra et al.
Lancet. 2020 Dec 21;S0140-6736(20)32518-6. doi: 10.1016/S0140-6736(20)32518-6.

オランダの24施設でくも膜下出血に対するトラネキサム酸の効果を検証したRCT

955患者をトラネキサム酸群・プラセボ群に割付
トラネキサム酸:1 gをボーラス投与、その後 1 gを8時間毎で投与(動脈瘤治療直前もしくは24時間後まで)

6カ月時点の機能予後は両群で有意差がなかった

動脈瘤治療前の再出血も両群で有意差がなかった

血管内治療中の血栓塞栓合併症の頻度に有意差はなかった

外傷

Effects of tranexamic acid on death, disability, vascular occlusive events and other morbidities in patients with acute traumatic brain injury (CRASH-3): a randomised, placebo-controlled trial
CRASH-3 trial collaborators.
Lancet. 2019 Nov 9;394(10210):1713-1723. doi: 10.1016/S0140-6736(19)32233-0.

頭部外傷患者に対するトラネキサム酸投与の効果を検討したRCT

重症の頭蓋内出血は除外

軽症~中等症では頭部外傷関連死亡率が低下した
RR 0.78 (95% CI 0.64-0.95)


Prehospital Tranexamic Acid for Severe Trauma
PATCH-Trauma Investigators and the ANZICS Clinical Trials Group.
N Engl J Med. 2023 Jul 13;389(2):127-136. doi: 10.1056/NEJMoa2215457.

重症外傷患者に対してプレホスピタルから開始するトラネキサム酸投与の効果を検討したRCT

プラセボと比較して生存率はやや改善したものの6ヶ月時点の機能予後の改善はみられなかった


トラネキサム酸は出血を止める、というよりも出血に対してできた血栓が溶解されるのを防ぐ、という作用があります。

ここ数年でいくつかの疾患に関して大規模スタディが行われるようになりました。

今のところ、喀血には有効消化管出血や内因性の頭蓋内出血にはあまり有用でない、といったところでしょうか。

血栓溶解を抑える、ということで静脈血栓症の副作用が懸念されます。

まだまだ研究の数も少なく、有用性や投与法に関しては今後の研究が期待されます。

  • 血栓が溶解されるのを防ぐ作用をもつ
  • 喀血に対する有用性が確認されている
  • 静脈血栓症の副作用に注意する必要がある

カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム

カルバゾクロムも日本で開発された薬で、承認は1954年と60年以上前にも遡ります。

作用機序

Carbazochrome sodium sulphonate (AC-17) decreases the accumulation of tissue-type plasminogen activator in culture medium of human umbilical vein endothelial cells
Y Matsumoto, T Hayashi, Y Hayakawa et al.
Blood Coagul Fibrinolysis. 1995 May;6(3):233-8. doi: 10.1097/00001721-199505000-00006.

カルバゾクロムの止血効果は、血管透過性の減弱血管の強化によると考えられている

tPA(線溶系)に直接影響するのではなく、血管内皮細胞への作用を介して線溶バランスに影響していることが示唆される

有用性

憩室出血

The Effect of Carbazochrome Sodium Sulfonate in Patients with Colonic Diverticular Bleeding: Propensity Score Matching Analyses Using a Nationwide Inpatient Database
Yuki Miyamoto, Hiroyuki Ohbe, Miho Ishimaru et al.
Intern Med. 2020 Aug 1;59(15):1789-1794. doi: 10.2169/internalmedicine.4308-19.

日本のデータベースを基に、憩室出血患者に対するカルバゾクロムスルホン酸ナトリウム(CSS)の効果を検証した後ろ向き研究

傾向スコアマッチング法を用いて14,379ペアを比較

院内死亡率に有意差はなかった

入院期間はCSS群で有意に長かった(11.4日 vs 11.0日)

輸血を要した患者の割合に有意差はなかった


カルバゾクロムは凝固線溶系ではなく血管に作用して止血効果をもたらすと言われています。

内科疾患に関して、明確なエビデンスは見つけられませんでした。

外科領域ではいくつかの報告があるようです。

  • 凝固線溶系ではなく血管に作用して止血効果をもたらす
  • 内科疾患に関する明確なエビデンスはない

まとめ

今回はなんとなく使っている“アドトラ”のエビデンスをまとめました。

どちらも数十年の歴史がある薬ですが、特にトラネキサム酸についてはここ数年で再注目されています。

カルバゾクロムについてはエビデンスが乏しい状況ですが、もしかすると今後増えてくるかもしれません。

ちなみに、“アドトラ”についてはPubMedも医中誌も有用性については整形外科領域でいくつか見つかる程度でした。

慣習的にやっていることって意外とエビデンスは乏しいものです。

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