- 単純性腎嚢胞では本当に嚢胞感染か疑う
- 腎嚢胞感染では尿培養が陰性のことも多い
- CT・MRIなど画像検査が有用
- 抗菌薬は脂溶性を優先するが、耐性菌を考慮して選択する
- 抗菌薬不応例や重症例ではドレナージを検討する
尿路感染症を疑った場合に腎嚢胞があるパターン。よくありますよね。
単純性腎嚢胞は加齢とともに頻度が増え、70歳以上では35%もあると報告されています。
(Chang CC et al. J Chin Med Assoc. 2007 Nov;70(11):486-91)
ADPKD(常染色体優性多発性嚢胞腎)も遺伝性疾患の中では頻度が高く、出会うことが多いと思います。
これって嚢胞感染?抗菌薬はどうしよう?
こんな風に悩んだ経験ありませんか?
今回は腎嚢胞感染についてまとめました。
腎嚢胞感染の診断は?
まずは嚢胞感染か否か、の区別の仕方についてです。
Diagnostic criteria in renal and hepatic cyst infection
Marten A Lantinga, Joost P H Drenth, Tom J G Gevers
Nephrol Dial Transplant. 2015; 30: 744-51. doi: 10.1093/ndt/gfu227.
確定診断のゴールドスタンダードは嚢胞穿刺
確定例のうち、68%がADPKD、29%が孤発性嚢胞、3%がADPKDでない多発性嚢胞であった
59~88%で腹痛がみられた
尿培養陽性は54%、血液培養陽性は39%であった
18F-FDG PET/CT in Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease Patients with Suspected Cyst Infection
Jordy P Pijl, Andor W J M Glaudemans, Riemer H J A Slart et al.
J Nucl Med. 2018 Nov;59(11):1734-1741. doi: 10.2967/jnumed.
18F-FDG PET/CTは嚢胞感染の診断に有用
嚢胞壁への取り込みがみられる
感度 88.9%、特異度 75.0%
Clinical features of cyst infection and hemorrhage in ADPKD: new diagnostic criteria
Tatsuya Suwabe, Yoshifumi Ubara, Keiichi Sumida et al.
Clin Exp Nephrol. 2012 Dec;16(6):892-902. doi: 10.1007/s10157-012-0650-2.
嚢胞感染のCT・MRI画像所見
嚢胞内ガス
MRI DWIで高信号(嚢胞/筋肉 >4)
MRIで液面形成
嚢胞壁肥厚
Infected cyst in patients with autosomal dominant polycystic kidney disease: Analysis of computed tomographic and ultrasonographic imaging features
Jiseon Oh, Cheong-Il Shin, Sang Youn Kim
PLoS One. 2018 Dec 5;13(12):e0207880. doi: 10.1371/journal.pone.0207880.
感染性嚢胞ではCT値が高い
感染性 | 正常 | 差 | |
造影前 (HU) (中央値 [範囲]) |
19.0 (9-67) | 8.8 (-5-17.5) | 15.0 (10.5-25.8) P <0.001 |
造影後 (HU) (中央値 [範囲]) |
22.0 (7-79) | 9.5 (1.5-20) | 11.8 (8.3-15.5) P <0.001 |
エコー所見
低エコー・高エコー:91.7%
不均一:91.7%
液面形成:4.2%
隔壁:29.2%
ADPKDに比べると、単純性嚢胞の感染は少ないようです。
単純性嚢胞を有する頻度を考えると、感染嚢胞ではなく偶発的に見つかっただけっていう可能性の方が圧倒的に高そうです。
後でも触れますが、腎嚢胞感染では尿培養が陰性のことがしばしばあります。
腎盂腎炎を疑う臨床所見で尿グラム染色・培養が陰性のときは嚢胞感染を疑ってもいいかもしれません。
PETが有効のようですが、実臨床ではほぼ不可能だと思います。
疑った場合は可能ならCT、MRIを活用しましょう。
- 単純性腎嚢胞では本当に嚢胞感染か疑う
- 腎嚢胞感染では尿培養が陰性のことも多い
- CT・MRIなど画像検査が有用
嚢胞感染の治療は?
抗菌薬はどう選ぶ?
続いて治療についてです。
治療の基本はもちろん抗菌薬になります。
一般的に抗菌薬は脂溶性がよいと言われていますが、その根拠はどこにあるのでしょうか。
Is the diverticulum of the distal and collecting tubules a preliminary stage of the simple cyst in the adult?
L Baert, A Steg
J Urol. 1977 Nov;118(5):707-10. doi: 10.1016/s0022-5347(17)58167-7.
単純性腎嚢胞は遠位尿細管の憩室から生じる
Cyst formation and growth in autosomal dominant polycystic kidney disease
J J Grantham, J L Geiser, A P Evan
Kidney Int. 1987 May;31(5):1145-52. doi: 10.1038/ki.1987.121.
ADPKDの嚢胞では、72.7%で尿細管との交通がない
Cyst infection in autosomal dominant polycystic kidney disease: causative microorganisms and susceptibility to lipid-soluble antibiotics
T Suwabe, H Araoka, Y Ubara et al.
Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2015 Jul;34(7):1369-79. doi: 10.1007/s10096-015-2361-6.
虎の門病院で嚢胞ドレナージを受けたADPKDの腎嚢胞感染患者に関する研究
尿培養が陽性となったのは10% (2/20)のみ
(この研究の症例群では)尿路からの逆行性感染よりも血流感染が原因かもしれない
嚢胞穿刺液から検出された大腸菌の感受性
LVFX耐性:45.5%
CPFX耐性:45.5%
ST耐性:36.4%
ESBL産生:27.3%
Cyst infections in patients with autosomal dominant polycystic kidney disease
Marion Sallée, Cédric Rafat, Jean-Ralph Zahar et al.
Clin J Am Soc Nephrol. 2009 Jul;4(7):1183-9. doi: 10.2215/CJN.01870309.
ADPKDの腎嚢胞感染における抗菌薬治療の検討
抗菌薬治療の成績 | |||
有効 (n [%]) |
変更が必要 (n [%]) |
ドレナージが必要 (n [%]) |
|
βラクタム単独 (n = 6) | 2 (33) | 4 (67) | |
キノロン単独 (n = 12) | 8 (66) | 4 (33) | 1 (8) |
βラクタム+キノロン (n = 8) | 6 (75) | 2 (25) | 3 (38) |
βラクタム+アミノグリコシド (n = 6) |
6 (100) | ||
キノロン+アミノグリコシド (n = 5) |
4 (80) | 1 (40) | |
その他 (n = 3) | 3 (100) |
嚢胞内への抗菌薬移行 | |
アンピシリン | Poor |
アミノグリコシド | Poor |
クリンダマイシン | Good |
メトロニダゾール | Good |
バンコマイシン | Good |
シプロフロキサシン | Good |
レボフロキサシン | Good |
トリメトプリム | Good |
スルファメトキサゾール | Poor |
Cyst infection in autosomal dominant polycystic kidney disease: penetration of meropenem into infected cysts
Satoshi Hamanoue, Tatsuya Suwabe, Yoshifumi Ubara et al.
BMC Nephrol. 2018 Oct 19;19(1):272. doi: 10.1186/s12882-018-1067-2.
メロペネムの嚢胞への移行は不良
濃度と嚢胞ドレナージとの関連はなく、有効な濃度は保たれていたと考えられる
嚢胞の組織学的特徴から考えて、尿細管との交通が少ないADPKDでは、直接移行しやすい脂溶性抗菌薬を選択すべきと思います。
単純性嚢胞は由来からすれば尿細管との交通があってもよさそうです。
いずれにせよ、尿グラム染色・培養で菌が検出されれば尿路と交通している可能性が高く、水溶性抗菌薬を選択してもいいかもしれません。
ESBL産生菌や、キノロン・ST合剤の耐性菌が増えてきており、抗菌薬選択はより難しくなっています。
また、抗菌薬の使用期間には定まったものがありません。
膿瘍の範疇で考えれば4~6週が適当だと思います。
抗菌薬不応の場合は?
抗菌薬治療の効果が乏しい場合の治療方針についてです。
Cyst infection in autosomal dominant polycystic kidney disease: our
experience at Toranomon Hospital and future issues
Tatsuya Suwabe
Clin Exp Nephrol. 2020 Sep;24(9):748-761. doi: 10.1007/s10157-020-01928-2.
嚢胞ドレナージの適応症例
抗菌薬不応例
適切な抗菌薬投与にもかかわらず発熱が1~2週間持続5cmを超える巨大嚢胞感染
重症例
敗血症、DICなど
何度も繰り返す症例
ドレナージ困難例では外科的切除も検討
抗菌薬は症状がなくなるまで継続する
抗菌薬不応例や重症例では、膿瘍と同様の扱いで積極的にドレナージを検討すべきです。
- 抗菌薬は脂溶性を優先するが、耐性菌を考慮して選択する
- 抗菌薬不応例や重症例ではドレナージを検討する
まとめ
腎嚢胞感染についてまとめました。
診断も治療もcontroversialな部分が多いですね。
特に抗菌薬は、移行性や耐性菌など様々な要素が影響するため、選択が非常に難しい症例もあります。
このまとめが少しでも参考になれば幸いです。
- 単純性腎嚢胞では本当に嚢胞感染か疑う
- 腎嚢胞感染では尿培養が陰性のことも多い
- CT・MRIなど画像検査が有用
- 抗菌薬は脂溶性を優先するが、耐性菌を考慮して選択する
- 抗菌薬不応例や重症例ではドレナージを検討する