- VEXAS症候群は炎症性疾患+血液異常を特徴とする疾患
- ユビキチン・プロテアソーム系のE1酵素をコードするUBA1遺伝子の体細胞変異で生じる
- 様々な炎症性疾患との鑑別を要する
- 大球性貧血や血液前駆細胞の空胞がみられる
- 特徴的な症候が複数揃っている場合には遺伝子検査は不要かもしれない
- 決まった治療はないが、血液疾患としてのアプローチが有効な可能性がある
VEXAS症候群は2020年に初めて報告され、日本でも横浜市立大学のグループからケースシリーズが報告されています。
炎症症候群+血液異常という内科でよくみるパターンが特徴であり、各所の症例検討会でも話題の疾患です。
まだまだ分かっていないことも多いですが、これまでの報告をまとめた論文を中心に、VEXAS症候群の病態や診断、治療を紹介します。
VEXAS症候群とは?
最初の報告
Somatic Mutations in UBA1 and Severe Adult-Onset Autoinflammatory Disease
David B Beck, Marcela A Ferrada, Keith A Sikora et al.
N Engl J Med. 2020 Dec 31;383(27):2628-2638. doi: 10.1056/NEJMoa2026834.
VEXAS症候群を最初に提唱した論文
治療抵抗性の炎症症候群と血液異常を伴う患者のうち、X染色体上に位置するUBA1遺伝子の体細胞変異をもつ25例を検討

症候・検査の特徴からVEXAS症候群と命名
Vacuoles (空胞)
E1 enzyme (E1酵素)
X-linked (X染色体性)
Autoinflammatory (自己炎症性)
Somatic (体細胞性)
VEXAS症候群は後天的な遺伝子変異により多彩な症状をきたす疾患です。
これまで治療困難であった炎症性疾患の一部に隠れているかもしれません。
X連鎖遺伝子疾患ですが、女性での報告もあるようです。
UBA1とは?
Immune defects caused by mutations in the ubiquitin system
Amos Etzioni, Aaron Ciechanover, Eli Pikarsky.
J Allergy Clin Immunol. 2017 Mar;139(3):743-753. doi: 10.1016/j.jaci.2016.11.031.
蛋白分解はユビキチン・プロテアソーム系により、基質へのユビキチンの結合、標識された基質のプロテアソームでの分解という2ステップで行われる
ユビキチンの結合は3つの酵素のはたらきによる
E1酵素:ユビキチンの活性化
E2酵素:ユビキチンの輸送
E3酵素:ユビキチンの連結

ユビキチン・プロテアソーム系は免疫寛容の制御や免疫細胞の産生、B・T細胞の分化、抗原やサイトカイン誘導性の細胞内伝達、造血などで重要な役割をもち、自然免疫・獲得免疫の両者に密接に関連する
ユビキチン・プロテアソーム系に関連した先天的な遺伝子異常による免疫不全・自己炎症・自己免疫疾患が複数報告されている

The pivotal role of ubiquitin-activating enzyme E1 (UBA1) in neuronal health and neurodegeneration
Isabella A Lambert-Smith, Darren N Saunders, Justin J Yerbury.
Int J Biochem Cell Biol. 2020 Jun;123:105746. doi: 10.1016/j.biocel.2020.105746.
UBA1はユビキチン・プロテアソーム系の最初にはたらくE1酵素
ヒトのすべての細胞に分布する
神経細胞でのUBA1の減少や活性の低下と運動神経疾患の関連が示唆されており、脊髄性筋萎縮症の原因遺伝子の1つとして報告されている
Estimated Prevalence and Clinical Manifestations of UBA1 Variants Associated With VEXAS Syndrome in a Clinical Population
David B Beck, Dale L Bodian, Vandan Shah et al.
JAMA. 2023 Jan 24;329(4):318-324. doi: 10.1001/jama.2022.24836.
米国のコホート内でUBA1の変異の頻度を検討した研究
11/163,096例 (= 1/13,591)で病的意義のあるUBA1の変異がみられた
6例でVEXAS症候群の基準を満たした
全例で貧血がみられ、10/11例で大球性であった
ユビキチン・プロテアソーム系の異常で免疫異常が起こることが報告されています。
VEXAS症候群の原因となるUBA1はユビキチン・プロテアソーム系の開始に重要な酵素で、これまで神経疾患との関連が報告されていたようです。
UBA1の変異が血液前駆細胞に生じることでユビキチン・プロテアソーム系の異常が起こり、免疫系が異常に活性化するのだと考えられます。
UBA1変異は既存のVEXAS症候群の基準を満たさない症例でもみられるようですが、やはり大球性貧血との関連はありそうです。
- VEXAS症候群は炎症性疾患+血液異常を特徴とする疾患
- ユビキチン・プロテアソーム系のE1酵素をコードするUBA1遺伝子の体細胞変異で生じる
VEXAS症候群の症候や診断は?
VEXAS症候群はUBA1変異の生じる血液系に関する症候と、結果として起こる炎症症候とに分けて考えるのが良いと思います。
VEXAS症候群でみられる症候は?
VEXAS within the spectrum of rheumatologic disease
Matthew J Koster, Kenneth J Warrington.
Semin Hematol. 2021 Oct;58(4):218-225. doi: 10.1053/j.seminhematol.2021.10.002.
2021/6/1までに報告されたVEXAS症候群でみられた炎症症候群のまとめ

患者背景
年齢:40-80歳
男女比:99:1
全身症状
繰り返す発熱が最も多かった
発熱は炎症反応の上昇(赤沈、CRP)を伴い、ステロイドの増量で改善する
軟骨炎
60%以上で耳介・鼻軟骨の炎症があり、大部分の症例で再発性多発軟骨炎の基準を満たす
気管・気管支軟骨炎の頻度は低い
肺病変
画像所見:びまん性すりガラス影、非特異性間質性肺炎、器質化肺炎、閉塞性細気管支炎
病理所見:リンパ球性肺胞炎、血管炎
胸膜炎もみられるが、肺実質の炎症に伴うことが多い
関節炎
手や足の小関節に比べて足関節、膝関節、手関節の少・多関節炎が多い傾向
血管炎
小・中・大血管を侵しうる
皮膚の白血球破砕性血管炎が最も多いが、リンパ球性、好酸球性などの血管炎もみられる
結節性多発動脈炎に特徴的な網状皮斑や結節性紅斑などがみられるため混同されることがある
糸球体腎炎がみられることがあり、ANCA血管炎との鑑別を要する
大血管炎もみられるが、小・中血管炎よりも頻度が低い
非血管炎性皮膚病変
紅斑や結節、湿疹、蕁麻疹など多様
病理では好中球性皮膚症が最も多い
成人スティル病との鑑別を要することがある
VEXAS症候群:熱と関連せずに持続、好中球優位
成人スティル病:熱と関連、リンパ球・組織球優位
眼・眼窩病変
強膜炎、上強膜炎、ブドウ膜炎、眼瞼炎など
眼瞼周囲浮腫が32%でみられたという報告もある
その他
静脈血栓塞栓症や血栓性静脈炎、感音性難聴がみられることがある
消化器病変や心病変、神経病変の報告は少ない
Pleuropulmonary Manifestations of Vacuoles, E1 Enzyme, X-Linked, Autoinflammatory, Somatic (VEXAS) Syndrome
Raphael Borie, Marie Pierre Debray, Alexis F Guedon et al.
Chest. 2023 Mar;163(3):575-585. doi: 10.1016/j.chest.2022.10.011.
VEXAS症候群でみられる肺・胸膜病変に関する研究
VEXAS症候群114例のうち、51例で胸部CTが撮像され、45例でVEXAS症候群に関連した肺・胸膜病変がみられた
VEXAS症候群でみられた胸部病変

Skin Manifestations of VEXAS Syndrome and Associated Genotypes
Isabella J Tan, Marcela A Ferrada, Serene Ahmad et al.
JAMA Dermatol. 2024 Aug 1;160(8):822-829. doi: 10.1001/jamadermatol.2024.1657.
VEXAS症候群の皮膚病変に関する研究
遺伝子変異のバリアントによって皮膚症状・病理の違いがみられた

VEXAS症候群は多彩な症状を起こすため、様々な炎症性疾患との鑑別が必要です。
VEXAS症候群でみられる血液異常は?
Characteristic bone marrow findings in patients with UBA1 somatic mutations and VEXAS syndrome
Nisha Patel, Alina Dulau-Florea, Katherine R Calvo.
Semin Hematol. 2021 Oct;58(4):204-211. doi: 10.1053/j.seminhematol.2021.10.007.
VEXAS症候群でよくみられる血液異常
大球性貧血
骨髄系・赤芽球系前駆細胞の細胞質空胞
骨髄過形成
種々の程度の異形成
VEXAS症候群でよくみられる骨髄所見3パターン
血球減少を伴うVEXAS症候群の典型
過形成骨髄(顆粒球系過形成±赤芽球系の低形成)
骨髄球系・赤芽球系前駆細胞の空胞
明かな異型や芽球増多はみられない
±骨髄細網線維化
正常核型
±体細胞変異
MDS
過形成骨髄
骨髄球系・赤芽球系前駆細胞の空胞
細胞異型(>10%)
±環状鉄芽球
±異常核型
±体細胞変異
形質細胞腫瘍
過形成骨髄(形質細胞増多)
κ/λの偏りや形質細胞の免疫形質異常
骨髄球系・赤芽球系前駆細胞の空胞
MDSとの合併もありうる
MDSに関する報告
これまで報告されているコホートでMDSの頻度は24-65%
AMLへの転化は報告されていない
UBA1変異に付随する体細胞変異の頻度が少ない
典型的には孤発性のMDSでは80-90%でみられる
VEXAS症候群の報告でこれまでに有意なクローンがみられたのはDNMT3A変異が検出された4例のみ
Vacuoles in neutrophil precursors in VEXAS syndrome: diagnostic performances and threshold
Valentin Lacombe, Matthieu Prevost, Anne Bouvier et al.
Br J Haematol. 2021 Oct;195(2):286-289. doi: 10.1111/bjh.17679.
VEXAS症候群症例と、臨床的特徴はあるがUBA1野生型の症例とMDS症例で骨髄系前駆細胞(骨髄芽球、前骨髄球、後骨髄球)の空胞を評価
直径1 μm 以上の細胞質空胞が2個以上みられたのはVEXAS症候群で18.0%だったのに対し、UBA1変異のない症例では4.5%、MDSでは1.6%だった (P = 0.0005)
“2個以上の空胞をもつ前駆細胞が10%以上”を基準とすると、他2疾患との鑑別について感度・特異度共に100%であった

VEXAS症候群とMDSの関係について、以下の可能性が示唆されます。
- UBA1変異がMDSのdriver mutationである可能性
- UBA1変異よりもUBA1野生型+他の変異の方が細胞の生存に有利である可能性
- 炎症による2次性のMDSである可能性
一般的なMDSよりも体細胞変異頻度が少ないことから、UBA1変異自体がdriver mutationになっている可能性が高いのではないかと考えられます。
現在はNGSのパネルにUBA1が入っていないらしく、今後の研究が期待されます。
VEXAS症候群の診断には骨髄前駆細胞の空胞が有用であると言われており、MDS+炎症性疾患との鑑別や、遺伝子検査に進むきっかけになります。
UBA1変異の検査をすべき症例は?
Efficient detection of somatic UBA1 variants and clinical scoring system predicting patients with variants in VEXAS syndrome
Ayaka Maeda, Naomi Tsuchida, Yuri Uchiyama et al.
Rheumatology (Oxford). 2024 Aug 1;63(8):2056-2064. doi: 10.1093/rheumatology/kead425.
VEXAS症候群疑いの日本人89例でUBA1遺伝子変異を評価し変異検出の予測スコアを作成
44.9%で既知の遺伝子変異が検出された
UBA1遺伝子変異検出の予測スコア
6点:UBA1遺伝子変異を有する可能性が高い
3–5点:UBA1遺伝子検査を推奨
0-2点:UBA1遺伝子変異を有する可能性が低い

Targeted testing of bone marrow specimens with cytoplasmic vacuolization to identify previously undiagnosed cases of VEXAS syndrome
Alexander S Hines, Matthew J Koster, Allison R Bock et al.
Rheumatology (Oxford). 2023 Dec 1;62(12):3947-3951. doi: 10.1093/rheumatology/kead245.
骨髄で細胞質空胞がみられた症例がVEXAS症候群に合致するか評価した研究
細胞質空胞の報告があったのは292例
除外基準をクリアした64例のうち21例で臨床的にVEXAS症候群の可能性あり
遺伝子検査を受けた8例中7例でUBA1変異がみられた

現在UBA1遺伝子検査は限られた施設でしか行えず、疑った場合に全例検査するよりは遺伝子検査を決め手にすべき症例を検討していく必要があります。
VEXAS症候群に特徴的な症候が複数みられる場合で細胞質空胞もあれば遺伝子検査なしにVEXAS症候群と診断してもよいかもしれません。
また、VEXAS症候群の発見以前から炎症性疾患として治療されている症例でも、細胞質空胞がみられれば改めてVEXAS症候群の可能性を検討すべきと思います。
- 様々な炎症性疾患との鑑別を要する
- 大球性貧血や血液前駆細胞の空胞がみられる
- UBA1変異がMDSのdriver mutationとなっている可能性がある
- 特徴的な症候が複数揃っている場合には遺伝子検査は不要かもしれない
VEXAS症候群の治療は?
VEXAS症候群はUBA1変異の生じる血液系に関する症候と、結果として起こる炎症症候とに分けて考えるのが良いと思います。
VEXAS症候群はPSLの減量で再燃することが特徴で、20mg以上の継続が必要なことが多く、各種の免疫抑制剤に抵抗性と言われています。
決定的な治療はまだありませんが、効果があったという報告をいくつか紹介します。
Toward a pathophysiology inspired treatment of VEXAS syndrome
Maël Heiblig, Bhavisha A Patel, Emma M Groarke et al.
Semin Hematol. 2021 Oct;58(4):239-246. doi: 10.1053/j.seminhematol.2021.09.001.
VEXAS症候群の治療ターゲット
- UBA1変異クローン
- サイトカインや炎症反応経路
- 血球減少や血栓症予防、感染症予防

How to treat VEXAS syndrome: a systematic review on effectiveness and safety of current treatment strategies
Zhivana Boyadzhieva, Nikolas Ruffer, Ina Kötter et al.
Rheumatology (Oxford). 2023 Nov 2;62(11):3518-3525. doi: 10.1093/rheumatology/kead240.
VEXAS症候群の治療に関するSystematic review
36文献、116症例をレビュー

JAK阻害薬
VEXAS syndrome: a case series from a single-center cohort of Italian patients with vasculitis
Francesco Muratore, Chiara Marvisi, Paola Castrignanò et al.
Arthritis Rheumatol. 2021 Oct 5. doi: 10.1002/art.41992.
VEXAS症候群3例のケースシリーズ
1例でUpadacitinibを使用し寛解が得られ、報告時PSL 12.5mgまで減量
抗IL-6受容体抗体
Tocilizumab in VEXAS relapsing polychondritis: a single-center pilot study in Japan
Yohei Kirino, Kaoru Takase-Minegishi, Naomi Tsuchida.
Ann Rheum Dis. 2021 Nov;80(11):1501-1502. doi: 10.1136/annrheumdis-2021-220876.
再発性多発軟骨炎の病像を呈した3例に対しTocilizumabを使用
治療前のIL-6はそれぞれ10.49 pg/mL、693.33 pg/mL、22.13 pg/mLであった
皮下注開始後、2例でPSLの減量ができたが、1例で症状の再燃があり静注への切り替えとPSLの再増量を要した
Azacytidine
Azacytidine Treatment for VEXAS Syndrome
Marc H G P Raaijmakers, Maud Hermans, Anna Aalbers et al.
Hemasphere. 2021 Nov 17;5(12):e661. doi: 10.1097/HS9.0000000000000661.
VEXAS症候群で骨髄異型のある3例に対しAzacytidineを使用
症例1、2ではDNMT3A変異あり(VAFs 59%、30%)
症例1
AZA開始後、症状・血液所見の改善がみられ、最終投与から4.5年後も血液・骨髄のUBA1変異クローンの増加なし

症例2
AZA開始後、症状・血液所見の改善がみられ、PSL 7.5mgまで減量

症例3
AZA 3サイクル後にAZA関連が疑われる間質性肺炎があり中止
その際の骨髄ではUBA1変異の減少なし
骨髄移植
Successful allogeneic hematopoietic stem cell transplantation in patients with VEXAS syndrome: a two center experience
Ava Diarra, Nicolas Duployez, Elise Fournier et al.
Blood Adv. 2021 Oct 29;bloodadvances.2021004749.
VEXAS症候群6例に対し同種造血幹細胞移植を施行
2例でMDS、4例で治療抵抗性の炎症性疾患として
3/6例で付随する体細胞変異の検出あり(DNMT3A変異は1例のみ)
3例で移植後32、38 、37カ月の長期寛解達成
2例で移植後3、5カ月に完全寛解
1例で移植後に死亡
VEXAS症候群の病態が血液細胞の体細胞変異であるため、下流で起こっている炎症を抑えるだけでは疾患のコントロールが難しいのだと思います。
病態を考えると、造血器疾患としてのアプローチが有効であることも納得がいきます。
保険適用なども考えると、化学療法や骨髄移植などを検討するのはMDSに移行した症例でないと難しいかもしれません。
免疫抑制療法の中ではJAK阻害薬に期待できるかもしれません。
- 決まった治療はないが、血液疾患としてのアプローチが有効な可能性がある
- JAK阻害薬の有効性が報告されている
まとめ
最近流行りのVEXAS症候群についてまとめました。
典型的な症例は高齢男性の炎症性疾患+血液異常のパターンで、これまでみてきた症例の中にも隠れているかもしれません。
病態や治療についてまだわかっていないことも多く、今後症例が集積されれば新たな知見が出てくるでしょう。
また、他の炎症性疾患の中にもVEXAS症候群のような遺伝子変異に関連した新たな疾患が見つかる可能性もあり、非常に楽しみです。
- VEXAS症候群は炎症性疾患+血液異常を特徴とする疾患
- ユビキチン・プロテアソーム系のE1酵素をコードするUBA1遺伝子の体細胞変異で生じる
- 様々な炎症性疾患との鑑別を要する
- 大球性貧血や血液前駆細胞の空胞がみられる
- 特徴的な症候が複数揃っている場合には遺伝子検査は不要かもしれない
- 決まった治療はないが、血液疾患としてのアプローチが有効な可能性がある