- 経口摂取困難な症例ではビタミンK補充を行う
- 肝硬変患者に対するビタミンK投与のエビデンスは不十分
- ワーファリン内服中にPT-INR高値(4.5~10.0)の場合、出血がなければビタミンK投与は不要
- 出血例では4-factor PCCやFFPを投与し、ビタミンKは5~10mgで十分
- (NMTT側鎖をもつ)抗菌薬投与中に摂取不足があれば、ビタミンK補充を検討する
救急外来や病棟で凝固異常を見たときに、ビタミンK投与をすることってありますよね?
そのPracticeって本当に有効なのでしょうか?
特に肝硬変、抗凝固薬、抗菌薬の場合について考えてみます。
ビタミンKの生理学
まずは基礎知識から振り返りましょう。
Dietary reference values for vitamin K
EFSA Panel on Dietetic Products, Nutrition and Allergies (NDA)
EFSA J. 2017 May 22;15(5):e04780. doi: 10.2903/j.efsa.2017.4780.
ESFA(欧州食品安全機関)のビタミンKに関するレビュー
ビタミンKは脂溶性化合物の一群で、食物中にフィロキノン(ビタミンK1)、メナキノン(ビタミンK2)として存在する
ビタミンK1は主に濃い緑の野菜(ほうれん草など)に含まれる
ビタミンK2は肉や卵などの動物性食品に含まれる
γ-グルタミルカルボキシラーゼの補酵素として働き、種々の蛋白質を活性体に変換する
凝固因子(Ⅱ、Ⅶ、Ⅸ、Ⅹ)、抗凝固蛋白(C、S)や骨代謝に関わる蛋白
ビタミンK1 1µg/kg/dayの摂取が推奨される
欠乏症による症候性の凝固異常は2~3週間のビタミンK1摂取不足(<10µg/day)で生じる
十分に経口摂取のできない場合、特に点滴だけの患者さんではビタミンK欠乏が生じます。
そういった症例では定期的に補充しましょう。
- 経口摂取困難な症例ではビタミンK補充を行う
こんなときビタミンK補充は必要?
肝硬変の凝固異常
肝硬変では肝臓での凝固因子の産生能が低下しているためPTの延長がしばしばみられます。
肝硬変の程度を表すChild-Pugh分類にもPTが含まれていますよね。
肝硬変患者の凝固異常にビタミンK投与は有効なのでしょうか?
The coagulopathy of liver disease: does vitamin K help?
Maha F Saja, Ayman A Abdo, Faisal M Sanai et al.
Blood Coagul Fibrinolysis. 2013 Jan;24(1):10-7. doi: 10.1097/MBC.0b013e32835975ed.
肝疾患患者にビタミンK(10mg)を単回皮下注した前向き研究
肝硬変患者ではビタミンK投与72時間後にPT、APTTともに短縮した(P=0.016、P=0.047)
フィブリノーゲン、第Ⅶ因子の変化は有意でなかった
The effectiveness of intravenous vitamin K in correcting cirrhosis-associated coagulopathy
Ryan M Rivosecchi, Sandra L Kane-Gill, Jeffrey Garavaglia et al.
Int J Pharm Pract. 2017 Dec;25(6):463-465. doi: 10.1111/ijpp.12355.
1回以上のビタミンK静注投与を受けたPT-INR>1.5の肝硬変患者に関して、INRの変化を検討した後ろ向き観察研究
投与時に出血があったのは21.9%(12/96)
ビタミンKの投与量は81%で10mgであった
INRの低下は平均で0.31であった
INRの30%低下、もしくはINR≤1.5を達成できたのは16.7%(16/96)だけだった
出血に関して検討した研究は見つけられませんでした。
どちらの研究も“あまり効果がない”という結論に至っていましたが、症例数が少ないため、根拠にはしづらいですね。
ただ、肝臓の合成能そのものが低下しているため、ビタミンKの補充をしても効果は出にくいのだと思います。
- 肝硬変患者に対するビタミンK投与のエビデンスは不十分
ワーファリン内服中の凝固異常
ワーファリンはビタミンKの働きを阻害し、凝固因子の産生を低下させます。
過量内服や腎機能低下時など、PT-INRが過剰に延長してしまった場合にビタミンKは投与すべきでしょうか?
American Society of Hematology 2018 guidelines for management of venous thromboembolism: optimal management of anticoagulation therapy
Daniel M Witt, Robby Nieuwlaat, Nathan P Clark et al.
Blood Adv. 2018 Nov 27;2(22):3257-3291. doi: 10.1182/bloodadvances.2018024893.
ASH(米国血液学会)の深部静脈血栓症に対する抗凝固薬に関するガイドライン
ビタミンKアゴニスト内服中にINR 4.5~10で出血症状がない場合、ビタミンK投与はせず、薬剤中止のみ行う
重篤な出血がある場合、薬剤中止、ビタミンK投与に加え、4-factor PCCを投与する
Vitamin K for reversal of excessive vitamin K antagonist anticoagulation: a systematic review and meta-analysis
Rasha Khatib, Maja Ludwikowska, Daniel M Witt et al.
Blood Adv. 2019 Mar 12;3(5):789-796. doi: 10.1182/bloodadvances.2018025163.
ビタミンKアンタゴニスト内服中にINR 4.5~10.0で出血症状のない患者に対してビタミンK投与は有効か、を検討したメタアナリシス
死亡(RR = 1.42; 95% CI, 0.62-2.47)、出血(RR = 2.24; 95% CI, 0.81-7.27)、血栓塞栓症(RR = 1.29; 95% CI, 0.35-4.78)について、薬剤中止のみと比べてそれぞれ有意差はなかった
INRの目標達成についても有意差はなかった
Reversing vitamin K antagonists: making the old new again
Sabine Eichinger
Hematology Am Soc Hematol Educ Program. 2016 Dec 2;2016(1):605-611. doi: 10.1182/asheducation-2016.1.605.
ビタミンKアンタゴニストのリバースに関するレビュー
出血例で4-factor PCC が投与されれば、ビタミンKは5~10mgで十分
高用量や繰り返しの投与は、何日間もビタミンKアゴニストに不応となるため避ける
ワーファリンが効きすぎの場合、出血がなければビタミンKは必要ありません。
出血がある場合でも、4-factor PCC(ケイセントラⓇ)やFFPの投与を優先させましょう。
ビタミンKを投与する場合は入れすぎに注意ですね。
- ワーファリン内服中にPT-INR高値(4.5~10.0)の場合、出血がなければビタミンK投与は不要
- 出血例では4-factor PCCやFFPを投与し、ビタミンKは5~10mgで十分
抗菌薬投与中の凝固異常
抗菌薬投与中の凝固異常もしばしば経験します。
Antibiotic-associated hypoprothrombinemia: a review of prospective studies, 1966-1988
Y M Shevchuk, J M Conly
Rev Infect Dis. Nov-Dec 1990;12(6):1109-26.
抗菌薬による凝固異常のレビュー
抗菌薬によるビタミンK欠乏の仮説
経口摂取が低下した患者で
広域抗菌薬によるビタミンKを産生する腸内細菌叢の抑制
※E. coli、B. fragilis、一部のEubacteriumによる産生が多い
1-N-methyl-5-thiotetrazole(NMTT)側鎖をもつ抗菌薬による凝固因子産生の抑制
※NMTT側鎖をもつ抗菌薬:セフメタゾール、セフォペラゾン、セフォテタンなど
Role of Prophylactic Vitamin K in Preventing Antibiotic Induced Hypoprothrombinemia
Farookh Aziz, Prashant Patil
Indian J Pediatr. 2015 Apr;82(4):363-7. doi: 10.1007/s12098-014-1584-3.
抗菌薬長期投与を受ける小児患者に対して予防的ビタミンK投与を行った前向き研究
15%でプロトロンビン低値を認め、NMTT側鎖を持つ抗菌薬使用で多かった
治療初日の予防的ビタミンK投与による差はなかった
レビューの通り、特に絶食中の高齢患者さんで多いように思います。
ビタミンK補充については、残念ながら成人での研究を見つけることができませんでしたが、機序を考えると摂取不足があれば補充はしてもいいかもしれませんね。
- (NMTT側鎖をもつ)抗菌薬投与中に摂取不足があれば、ビタミンK補充を検討する
まとめ
いくつかの状況で凝固異常にビタミンKが有効か検討しました。
基本的には不足があれば補充する、というスタンスがいいのではないでしょうか。
- 経口摂取困難な症例ではビタミンK補充を行う
- 肝硬変患者に対するビタミンK投与のエビデンスは不十分
- ワーファリン内服中にPT-INR高値(4.5~10.0)の場合、出血がなければビタミンK投与は不要
- 出血例では4-factor PCCやFFPを投与し、ビタミンKは5~10mgで十分
- (NMTT側鎖をもつ)抗菌薬投与中に摂取不足があれば、ビタミンK補充を検討する