Infection

帯状疱疹の病態や疼痛の機序は?

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帯状疱疹はVaricella-zoster virus (VZV)による、高齢者や免疫不全者でよくみられる疾患です。
その名の通りデルマトームに沿って帯状に皮疹がみられ、皮疹の治癒後にも疼痛がみられることは有名ですよね。

今回は、帯状疱疹の病態や疼痛の機序について研修医の先生に尋ねられたので、改めてまとめてみました。
患者さんのマネジメントに直接影響する内容ではありませんが、読み物として参考になると嬉しいです。

帯状疱疹の病態は?

Molecular mechanisms of varicella zoster virus pathogenesis
Leigh Zerboni, Nandini Sen, Stefan L Oliver et al.
Nat Rev Microbiol. 2014 Mar;12(3):197-210. doi: 10.1038/nrmicro3215.

VZV感染は上気道粘膜の上皮細胞内での複製から始まる

10-21日の潜伏期間を経て、扁桃や局所のリンパ組織から感染したT細胞が血流を介して皮膚へ運ばれ、水痘に典型的な広範な水疱疹を生じる

初感染の間にウイルスは皮膚から神経軸索を逆行性に、もしくはT細胞により血流を介して神経節の神経細胞体へ移行し潜伏感染が確立される

ウイルス複製が再活性化すると、ウイルスは神経軸索を順行性に皮膚まで移行し、帯状疱疹に典型的な神経節に支配されたデルマトームの範囲に水疱疹を生じる

T細胞向性
VZVは扁桃に多く存在する、皮膚へのホーミングマーカーをもつメモリーT細胞への向性をもつ
VZVのもつgE、gIやORF47、ORF66がT細胞への感染に重要

皮膚向性
VZVはT細胞もしくは神経軸索で皮膚に運ばれ複製される
VZVのもつORF61、gBが皮膚での病態に重要

神経向性
ゼノグラフトを用いた実験では、VZV投与の3~4週後から後根神経節でウイルスのタンパク・ゲノムが検出される
感染後4~8週で潜伏期に移行する
VZVのもつgE、IE62、IE63が神経での活動性感染に関与する
潜伏期にはウイルスの遺伝子複製は抑制されているが、何らかのきっかけで再活性化しウイルス複製が増加する


Retrograde axonal transport of VZV: kinetic studies in hESC-derived neurons
Sergei Grigoryan, Paul R Kinchington, In Hong Yang et al.
J Neurovirol. 2012 Dec;18(6):462-70. doi: 10.1007/s13365-012-0124-z.

逆行性軸索輸送ではダイニンにより、順行性軸索輸送ではキネシンにより物質が軸索を移動する

本研究ではVZVのタンパク質をGFPで標識し、in vitroでVZVの軸索輸送を可視化した


VZVは後根神経節細胞に潜伏し、再活性化で神経節の支配領域(デルマトーム)に皮疹を生じます。

知識として知ってはいましたが、ウイルスの移動が可視化できていたとは知りませんでした。

  • VZVはT細胞・皮膚・神経向性をもち、後根神経節細胞に潜伏する
  • 再活性化で神経節の支配領域(デルマトーム)に皮疹を生じる

疼痛の機序は?

Rethinking the causes of pain in herpes zoster and postherpetic neuralgia: the ectopic pacemaker hypothesis
Marshall Devor.
Pain Rep. 2018 Nov 7;3(6):e702. doi: 10.1097/PR9.0000000000000702.

帯状疱疹はデルマトームに沿った強い疼痛を伴う皮疹を生じ、皮疹が生じた後も帯状疱疹後疼痛と呼ばれる慢性疼痛が残ることがある

疼痛には自発痛、アロディニア、痛感過敏があり、温度覚の低下も伴う

これらの疼痛は古典的には皮膚の炎症、後根神経節の壊死による求心路遮断が原因と考えられてきたが、最近の研究からこれらの機序では説明が不十分であるとわかってきた

従来の説

皮膚の炎症
自発痛:皮膚の熱侵害受容器の閾値が下がり、炎症で上昇した皮膚温や環境温が痛みとして知覚される
アロディニア:皮膚の炎症によるC線維の持続的な刺激で中枢性感作が生じ、本来触覚を伝えるAβ線維の刺激が痛みとして知覚される
皮疹が生じる前や治癒後の疼痛が説明できない

求心路遮断
有痛性感覚脱失:後根神経節がウイルスにより障害され、デルマトームの温度覚が脱失し、破壊された神経根からの異常発火が痛みとして知覚される
最近の研究で病理学的に神経節の破壊がそこまで強くないことが示された

新しい仮説

ectopic pacemaker仮説
自発痛:ウイルスにより障害された後根神経節の感覚細胞体や、dying-back変性した軸索から異所性に生じた発火が自発痛として知覚される
アロディニア:異所性発火で生じた中枢性感作によってAβ線維の刺激が痛みとして知覚される

※dying-back変性:ニューロンのタンパク質合成や代謝の大部分は細胞体で行われ、細胞維持に必要な物質は軸索輸送により末梢部へ運ばれているため、部位的に不利な神経末端から中枢側に向かって変性が生じる


帯状疱疹の疼痛については、これまでなんとなく皮疹が痛いのだろうとか、とりあえず神経痛だろうとか考えていましたが、改めて調べるときちんと理論立てがされていました。

将来的には神経経路の異所性発火している部位によって、適切な治療ができるようになるかもしれないそうです。

  • 疼痛の機序として以下のように想定されている
    • 皮膚の炎症
    • 求心路遮断
    • ectopic pacemaker

まとめ

帯状疱疹の病態、疼痛の機序についてまとめました。

今のところ診断や治療に影響を与えるものではないと思いますが、病態生理は非常に興味深いです。

昔から言われていた理論も新たな研究で裏付けされたり、反対に否定されたり、医学も日々進歩していると感じますね。

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